43話 女神進言
諸事情により更新遅れました
次の月水金はちゃんと投稿したい(願望)
..................あれ...?
俺は確かセシルと一緒に帰って...途中で別れて...そして家についてご飯を食べてお風呂に入って寝て......
ここは...
目を開けてみると、一面真っ白の空間だった。
────俺は勢いよく跳ね起きる!
すると目の前には、虹色の髪をした女神がいた。
「久しぶりね」
唐突な女神の登場に俺は少し動揺する。
「なんで、お前が...」
しかし、こちらの動揺を把握しているかのように、落ち着いた声で女神は言ってくる。
「まあ、そんなに慌てなくていいわよ。あっちのあなたはまだ眠ってるから。」
その言葉で、俺は自分が今どんな状況にあるのかを理解し冷静になってくる。
「なるほど、俺はあんたに呼び出されたってわけか」
すると、それを肯定するように、女神は微笑んで小さくうなずく。
しかしその微笑みには、何か不安のようなものが混じっているように思えた。
いつもの女神と雰囲気が違う。
俺は気になって聞いてみる。
「どうした?浮かない顔して。というか急に呼び出して何の用だ?」
すると、女神は何かを決心したかのような顔で言ってくる。
「四日後に決闘があるでしょう?あの時までは安心していていいけど、それ以降は気を付けて。」
いまいち意味が理解できない。
俺は聞き返す。
「それってどういうことだ?気を付けるって何に気を付ければいいんだよ。」
しかし女神は俺の質問には答えず、真剣な表情で告げてくる。
「決闘によってあなたに災いがもたらされる。そして、それは強いわ。一人ではどうにもならないかもしれない......。だから、周りを頼るのよ。」
すると、俺の胸のあたりがそわそわし始める。
「今日は急に呼出したから短いわね......とにかく、危険が近くにあることに変わりはないから、気を付けるのよ。」
「いや、どういうことだよ。もうちょっと詳しく教えてもらわないとわから──」
俺の言葉は途中で中断され、目の前が真っ白の光に包まれた。
*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*
「──わからないよっ!」
バサッと上体を起こし言葉を発する。すると、レースのカーテン越しに、俺の目に朝日が差し込んできた。
......朝、か。
あれは夢の中の出来事......じゃないよな。
どう考えても女神からの忠告だよなぁ。
決闘以降は俺に災いがもたらされる、か。
しかも強いもの。強力な物。
具体的には教えてくれなかったが、いっぱしの女神が教えてくれた情報だ。未来予知なのか何なのかは分らないけど、信用性はあるだろう。
俺は今まで誰にも迷惑をかけないために、人にはあまりかかわらないように生きてきたつもりだ。
そしてこれからもそうするつもりだった。
が、女神は言っていた。災いは一人ではどうしようもないかもしれないと。周りを頼れ、と。
そうしない場合どうなるのか、ということまでは教えてくれなかったが、最悪な状況になってしまうかもしれないと思っておこう。
最悪の場合......考えたこともなかった。
俺にとっての一番の最悪ってなんだ?
町のみんなが死んで、家族が死んで、家も街も焼き払われて、学校のみんなも死んで、そしてセシルも......
ああもう、やめだやめだ。これ以上は考えたくない。
女神の言う「災い」が一体何なのか。それは全く分からない。
だが、これからの俺の行動次第ではその最悪の状況になりかねない。
それを防ぐために何をするべきか。
女神は、一人でどうにかしようとするなと言ってきた。つまり、仲間を作り、頼りあっていかなければならないということだろうか。
だが、それは今すぐにどうこうできる話ではない。互いに信頼し合い、頼りあえる仲間なんて人生を生きていてもできないことだってある。
前世の俺が典型的な例だ。前世の場合は仲間とか友達作りに消極的だったというのもあるが。
とにかく、これからは友達とか貴族とのツテとか、細かいところまで気にしながら行動した方がいいかもな。
いざとなって誰も頼れないんじゃあ、それこそ絶体絶命の最悪な状況だ。というかそれだけは避けたい。
俺のせいで周りの人を巻き込んでしまうのはよろしくないことだが、これもしかたないことか。
友達を作っていくしかあるまい。
......また面倒ごとがたまったな。
俺は大きくため息をつく。
テスト前日に宿題を出された気分だ。仕事がどんどん溜まっていく。
決闘について。学校生活について。家族について。自分のステータスについて。
頭のなかにやりたいこととやらなければいけないことが沢山浮かび、そしてごっちゃになっていく。
ああ、もう!
考えてもらちが明かない!
こういう時は......とりあえず目先に迫ったことから解決していこう。
他の事はその都度考えていけばいい。一度にすべてをやる必要はない。
ふぅ...よしっ。
気持ちを切り替えた。まずは今日やることだ。
今日は......あれを作るか。
あれがないと俺の作戦は実行できない。
作るのは時間がかかるだろうから、それは今日一日かけてやろう。
学校もあるしな。作業時間は多くはない。
とすると明日は、武器か。これは普通の杖を創造魔法で作れば......
数分後、頭の中で準備の計画を立てた俺は朝飯に向かう。
「これでうまくいくはずだ。」
やることを整理すると、随分と気分が軽くなるな。
よし、今日から頑張っていこう。
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授業が終わりほとんどの生徒は家に帰る時間。
入り口に
〈魔導回路実験実習室〉
と書かれたプレートが貼られている部屋の中に、黙々と作業を続ける一人の生徒の姿があった。
無論、俺である。
「よしっ、2つめ完成。残り半分......」
授業が終わってから、俺はずっとこの部屋で作業をしていた。かなり地道な作業でめんどくさい。
だが、これをやらねば決闘で勝つことはできないと俺は考えている。
この作業が一番重要な部分と言っても過言ではない。
単純作業をつづけるのは、実際精神的にかなりくる。勉強と同じくらいだるい作業だ。
しかし俺はやめはしない。この作業を乗り越えたその先に、俺の勝利が約束されている限り。
「フ、フフフフフ」
おっと、ついつい声が出てしまうな。
まあ仕方ない。ガイはこの俺の作戦によって完膚なきまでにたたきのめされるのだ。フフフ......
俺は決闘のことを想像しほくそ笑みながら、一人作業を続けるのであった。
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決闘の日まであと二日。
今日は早々に学校から帰り、家の地下室にこもっていた。
地下室でやっていること、それは...
「|クリエイト・マジックワンド《魔杖想像》」
《【創造魔法LV∞】によってマジックワンドが作成されました》
「さて、これでどうかな?......」
一昨日決めたように、決闘の際の俺の武器となる杖を作っている。
のだが...
俺は作った魔杖を鑑定する。鑑定は以前よりもさらにレベルが上がっているらしく、詳しい内容が表示される。
─────────────────
-マジックワンド-
攻撃力:2
魔攻:15
耐久:7
付与効果:硬化
魔力が込められた杖
─────────────────
そしておもむろに硬化を鑑定。
─────────────────
-硬化-
魔力を消費して対象の耐久を一時的に増加する付与効果
─────────────────
「おおっ!いい感じだ!これきた!」
たまらず俺はガッツポーズを決める。
魔法って楽しい。
今俺が何をやっているのか?
それは創造魔法の最適化だ。
最適化?なんだそれ?となるだろうが、これはいわゆる効率をよくする作業だ。
例えば、12本で一セットのペンを10セット買う時買うペンの本数は何本になるか、という問題があるとする。
この時、足し算を習いたての小学生はどう計算するか?
足し算しか知らないので、12+12+12+12+12・・・
と、12+12を10回繰り返して答えを求めるだろう。
うん、確かにこの方法でも答えは求められる。
しかしこれではめんどくさい。とてもじゃないが、長々と計算を繰り返すなど普通の人はしない。
これが、最適化されていない状態だ。まわりくどいってやつだね。
そして最適化された状態は、12×10となる。
これだと、とっても計算しやすいし、いちいち12を足していかなくとも桁を一つ増やせばそれで済む。
これが最適化というものだ。
最適化した方が効率がいいし、簡単で済む分計算のスピードと質も上がるということだ。
これは魔法にも当てはまる。
俺は以前、創造魔法を使うときはこういっていた。
「創造魔法で○○を作成」
これでも創造魔法は問題なく使えた。魔法に欠陥も見当たらなかったし、これが創造魔法なんだな、と思って俺は納得していた。
しかし、今日地下室に来て杖を作る作業の合間、創造魔法でポテチを2、3回作って食べていたところあることに気が付いたのだ。
......普通のポテチと、うまいポテチがある、と。
これはどういうことだと違和感を覚えた俺は創造魔法についていろいろ自分なりに研究した。
すると、すごいことが分かったのだ。
魔法の唱え方によって魔法の質と消費MPが変割ったのだ。
まず、
「創造魔法さ~ん。ポテチちょうだ~い。」
と唱えたときは、いたって普通の、そこらのコンビニで売っているようなポテチが出てくる。
これは普通にポテチだ。
それ以上でも以下でもないといった感じのいたって普通のポテチ。味も普通だ。
次に、
「創造魔法でポテトチップスを作成」
と唱える。
すると、パッケージは一緒だが中身が少し増えたポテチが作られる。
味も少しおいしくなっているような感じだ。
そして最後に......
「クリエイト・ポテトチップス」
と言うと、袋がパンパンにふくらんだポテチが出てくる。
俺は驚きつつも中身を空けてみた。すると、なんとポテチが揚げたてだった!
カラッとおいしそうなきつね色に揚げられたポテチ。揚げたての証拠に、ポテチから湯気が立っていた。とてもおいしそうだ。
俺は揚げたてのポテチを一つつまんで口に入れる。
...旨い!
もはやうますぎて戦慄した。
今まで食べたこともないようなうまさ。
とにかくうまい。うますぎる。
どういう製法で作ればこういう味を表現できるのか、俺には全く思いつかなかった。
それほどまでにうまかった。
・・・結局何が言いたいかというと、「魔法は唱え方によって効率が変わる」ということを発見したのだ。
今回の場合だと、「クリエイト・○○〇」という形だな。
今までは、創造魔法がLV∞(神域限界突破)という破格の性能のおかげで、適当詠唱で使っても大丈夫だったのかもしれない。
普通の魔法の場合だったら、ちゃんと詠唱しないとまともに発動しないかもしれないしね。
これからは詠唱のことも意識しながら使っていかないと。
でも、学校ではこんなことまだ一度も習ってなかったよなぁ.....。
魔法を使うときは詠唱しないとだめだぞ、なんて言う先生は一度も見かけなかった。というか先生が詠唱をしているところを見たことない。
......まあそれも、これから学年が上がっていったりする中で習っていくのだろう。
魔法の最適化。これは重要な項目だ。
まだ習ってることではないけど、今からやっておいて損はないな。
身体強化とか極歩とかも最適化できるか、今度試してみよう。
それはともかく、詠唱の形を変えてみたら、なんと付与効果付きの杖を手に入れた!
適当に決闘用の武器を作ろうと思ってただけなのに、思いもよらぬところで収穫を得たな。
まあ武器と言っても気休め程度のものだからな。
あまり信頼を寄せていてもだめだろう。
ちゃんとメインの策の方にも力を注がねば。
「フフフフフフ...」
順調に準備が進み、俺はニヤニヤを一層深めるのであった。
*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*
決闘前日の放課後。
俺は一人学校の屋上で腕立て伏せをしていた。
この世界は前世でいうRPGの中の世界に酷似している。つまり、モンスターとか魔物を倒した時に経験値が入り、レベルアップすることで強くなれる。
実際には手に入っているのは経験値ではなく、存在力とかフォー〇の力とかかもしれないが、まあそこは気にしてはいけない。
モンスターを倒して強くなれる。強いモンスターを倒すほど強くなれる。
これはこの世界の摂理だ。
でも逆に考えてみる。
それ以外の方法で強くはなれないのか?
それは───否だ。
例を挙げるとすると、筋トレ、走りこみ、技の反復練習、魔法の構造理解などなど......
前世でも行えるような訓練の仕方でも強くなれるのだ。具体的にどう強くなるのかというと、ステータスが向上したり、昨日俺がやった「魔法の適正」を求めて魔法威力アップしたり、反復練習でHPとかMPとかの最大値が上昇したりといった感じだ。
ただし、強くなれるといってもレベルを上げるのに比べたらめっちゃ効率が悪い。
1カ月鍛えたら、攻撃が10上がった!ヤッター!って感じ。
それに比べてレベルは1上がるだけで、多いものだとステータスが50以上も上がる。
単純計算で5倍だ。
一カ月分の努力の5倍もの成果が一瞬にして実るのだ。効率の悪さが目に見えて分かる。
......しかし、だ。
鍛錬は危険を伴わずに、毎日継続することが可能だ。
危険がない中でステータスを上げられる。これが筋トレ等の強みだ。
ちりも積もれば山となるということわざがあるが、まさにその通り。
小さな修行も1年、3年、5年、10年と続けていれば、いづれはレベルの差をも埋めてレベルが高い人にも勝てるようになるかもしれない。
この修行で得た少しの差が、これから立ち向かっていかなければならない困難の成否を決める一手になるかもしれないのだ。
なので、俺は屋上で筋トレをしている。
筋トレしまくってステータスを上げまくりクロニクルなのだ。
ヒャッホー!
...ぶっちゃけ、他にやることなくなったというのもあるがな。
今日までの準備期間で、決闘の準備は100%整った。
あとは戦うだけなのだ。
でも、一応やれることはやっておきたいので、こうして屋上で一人筋トレをしているのだ。ハァ...ハァ...。レベル8でも筋トレは普通につらいぜ。
ただ、やはりというべきか、筋トレで鍛えられるステータスの数値はある程度決まってくる。
限界があるのだ。鍛えられる数値の限界が。
前世基準にして考えれば、人間の限界というやつだ。
人は100mを9秒以内に走りきることはできない。
人は走ってジャンプして10m以上飛ぶことはできない。
このような人間の限界というのが必ず存在した。
そしてこの異世界でのステータスが、まさにそれだ。
ステータスにも必ず越えられない壁がある。
限界値だな。
しかしこの異世界には、これを覆せるルールがある。
───レベルアップだ。
レベルが上がるとステータスが上昇するだけではなく、鍛錬で上げられる数値の限界が爆発的に増加する。
レベルアップ毎に桁が一つ増えるという例え方をすれば良いだろうか。
とにかく、具体的な数値はわからないが、鍛錬でより自分を鍛えられるようになるのだ。
これは学校の教科書には書いてなかった。
家の本知識だ。
お父さんに内緒で、読んではいけないといわれている本を少し読んでみたらこんな内容だった。
すばらしいね。
その隣に置いてあった本から、邪気というかなんというか、禍々しいものを感じたからすぐに本は戻したけど。
要は、8LVまでレベルアップしている俺はステータス上げ放題ということである。
俺最強説かな?俺ツエエエエかな?
だが、そうは言ってもやはり鍛錬は鍛錬。
一日二日で劇的に変化が起きるわけではない。
むしろ1年や2年ほどちゃんと続けないと、目で見て分かるような変化は出ないだろう。
なのでこの筋トレは、他にやることがなくなったからやっている単なる気休めだ。
武器を作っていた時とおんなじような感覚でやっている。
あ、でも武器づくりは楽しかったから筋トレよりは全然マシか。
筋トレつらいし。もうやりたくないし。
そして、30分以上腕立て伏せを続けていたおれの腕がもうそろそろ限界を迎える。
ああ、やばい。もう......げんかいです。
俺は疲れた腕をおりまげて、パタっとコンクリートのような硬い地面にひれふす。
「あぁ~~めっちゃつかれたぁ~~。炭酸飲料が欲しいなぁ~」
あ、そうだ。創造魔法で作っちゃえば......
っと、危ない。校内では何か特別な理由がない限り、創造魔法とかは使わないことにしてたんだった。
誰かに俺が魔法使ってるところ見られたくないしね。
筋トレを中断し、そのけだるさを吐き出すようにぽつりと言う。
「はぁ~。にしても、ガイは訓練とかしてんのかなぁ~。」
前回の魔法の訓練以降、あの3人組とは会っていない。
俺と同じように修行でもしてるのかな。
まあ、今回の作戦はそういうのあんまり関係ないと思うから、修行とか意味ないけど。
もうちょっと筋トレしなきゃなーと思いつつ、体を起こすのもだるいのでもうちょっと休憩。というグダグダを繰り返す。
あおむけに寝転がりながら、ぼーっと空を眺める。
と、不意に後ろから扉が開く音がした。
後ろ......屋上の入り口の方だ。
誰か来たのだろうか。わざわざ放課後に、屋上まで?
そんなやついるのかと思いながら、俺は立ち上がり後ろに振り向いた。
そこには───ウェークトン家の三人組がいた。
ちっちゃいのと、太っちょいのと、図体がでかくてがたいが良いやつの3人だ。
確か名前は......
すると、真ん中にいるがたいが良いやつが俺に話しかけてきた。
「よお、久しぶりだな」
確かこいつの名前は...
「ああ、久しぶり。ブルドック君。」
「ちげぇよ!ブルは背の低いこっちの奴だ!」
「おっと、間違えちゃったみたいだ。ごめんね木工ボンド君」
「誰が木工ボンドだ!ボウドはそっちのでかい方だよ!そして俺はガイだ!前あったときからまだ1週間もたってないぞ!なぜ忘れる!」
うーん、名前を覚えるのって難しいな......
「あ、でもこれは覚えたよ。ウェークトン毛。」
「違う!ウェークトン家だ!はぁ...もうそれはいいとするか...。」
ガイは観念したのか、諦めて本題を話し出す。
「そんなことより、今日お前に会いに来たのは大事な話をするためだ。」
大事な話?もしかして......こいつも女神の予言を...?
ガイの言葉について思考を巡らす。
だがガイは、俺の考えていることの斜め上のことを言ってきた。
「ルーラ、お前が言えば今なら決闘の棄権を認めてやる。 」
決闘の棄権......だと...
俺は苦笑を通り越して唖然としつつ、聞き返す。
「決闘の棄権...って、つまりどういうこと?」
するとガイは偉そうに説明する。
「フンッ、棄権の意味も知らないのか。笑いものだな。まあいい、説明してやろう。ブル!」
そういう意味の質問じゃないんだけどなぁ......
ていうかガイじゃなくてブルに説明させるのかよ。
すると、ガイの後ろからブルがスッと出てきて説明しはじめた。
「棄権とは、 大会などの行事に参加を表明した上で開催前・開催中に参加を取りやめる場合を言います、ガイ兄さん。」
言い終わるとブルはガイの後ろに引っ込んだ。
ガイはそれに付け加えるようにして言う。
「つまり、まあ、そういうことだ。わかったか?」
いや、どういうことだよ。
棄権の意味はもう知ってる。俺が知りたいのはなんでそんなことを提案してきたか、なんだよ。
まあいいや。もっかい聞き直そう。
「わかったよ。それで、なんでそんなことを提案してきたの?」
俺が言うと、ガイはまたもや偉そうに言ってくる。
「そんなこともわからないのか?」
それはわかる方がおかしいと思うんだが。
「まあいい、説明してやろう。......ブル!」
すると、またもやブルが出てきて言う。
「決闘でガイ兄さんが勝つのは明らかであり、そんな無意味な戦いでルーラに痛い思いをさせるのは男としてよくないということです、ガイ兄さん。」
言い終わるとブルは引っ込む。
そしてガイが付け足すように言う。
「つまり、まあ、そういうことだ。わかったか?」
いや、それブルに説明させる意味ないだろ。
なんでガイが説明しないんだよ。脳筋か。
それで、俺のためを思って棄権した方がいいよと言ってきたのか。
......いや、嘘だな。
ガイの目が放つ光が言ってるんだよ。
早くセシルと一緒のクラスになりたい、そして仲良くなってそしてあんなことをしてそして......
っていうような感じのことを考えている、と。......多分。
気持ち悪い。
俺のためを思って、なんて取り繕っても無駄だ。
決闘をする時間さえももったいないのだろう。
そんな時間があったらセシルと一緒にいる時間に回したいということかな。
まったく、これだから貴族は嫌いだ。
強欲で自制できない。自分中心で周りの人に目を配れない。
ガイだってそうだ。
ガイがセシルのことをどう思っているのかは別として、一番大事に考えるのはセシルがガイをどう思っているのかだろう。
それを全く理解できていない。
相手の心情を予測して行動することを覚えてくれ。
まあ親も親だし、恵まれすぎた環境で、そして望めばなんでも手に入るような状況で甘やかされて生きてきたのなら、こうなってしまってもしょうがないのかもな。
それこそ自分のことを自制できる人間にならなければいけないよな。
と言っても、そんなことを小学校に入学したての貴族の子供に望むのは野暮といったものだろう。
いくら前世に比べて精神年齢が高い子供でも、無理なものは無理だ。
経験の差というものはどの世界にも共通にあると思うのだ。
それは覆せないし、望んですぐ手に入るものでもない。
まあ、10年たてばどんなこともいい思い出になるものだ。
こういう細かいことを気にしすぎてもだめだろう。
子供の遊びだと思えばなんとでもない。
これからのことも考えて、俺はあまり目立たないような立ち振る舞いをしていけばいいのだ。
ガイがどうとか、セシルがどうとか、そういうのは考えすぎずにやっていこう。
色々考えて自分の中で納得が付いたころ、ガイへの返答を忘れていたことにやっと気づく。
「ああ、ごめんごめん。考え事してた。」
するとガイは不愉快そうに言う。
「考えたいという欲を捨てきれなかったんだな。愚かなやつめ。」
そして、かっこいいこと言ったな、キリッ。的な感じの顔に移行する。
いや、全然かっこよくないですけどね。
てかガイが言えたことじゃない気が......まいっか。
ガイは話を戻す。
「それでどうなんだ?棄権するんだろ?」
俺は素直に答える。
「棄権なんてしないよ。棄権する理由がないしね。それに...」
俺はすこし間を置いて告げる。
「万が一にも、君に負けることはないから。」
そしてガイの瞳をにらみつける。
ガイは俺の言葉に面食らい、あわてて言う。
「お、お前、正気か!?最下位のお前が俺に勝てるなんてことあるはずねぇじゃねぇか!」
後ろに隠れていたブルも、俺の意表を突く言葉に当惑して言ってくる。
「その通りですよ、ルーラさん。ガイ兄さんに勝てる要素は無い。あるとすれば、それはガイ兄さんが何かハンデを負っている時に限る。それ以外は君の勝利は不可能です!」
確信を突くようなブルの言葉に、しかし俺は少しも動揺せずに答える。
「それはどうかな...フフフフフフ......」
そう...ガイにハンデがなければ......の話だな...フッフッフ...
俺は不敵に笑い、ガイたちの方を見ながら屋上の扉へ歩みを進める。
「最下位とか1位とか、そんなの戦いじゃあ関係ない。あるのは勝ちか負けか、もしくは......」
そして扉のドアノブに手をかけ、言う。
「それ以外の最悪だ」
そして俺はドアを開け.........う、うん?開かないぞ?
どういうことだ?この扉開かない!
何回も引いてみるが、一向に悪気配がない。もしや呪われた扉か!
俺が扉に四苦八苦していると、後ろのブルから声がかかる。
「それ押すんじゃ...」
ハッ!とした俺は、扉をゆっくり押してみる。
────開いた......
......決めゼリフてきな感じにかっこよくしゃべってみたのに、ものすごい滑った感というか、あ、これ精神的に悪いですわ。
しょうがない、もう一回言うか...
俺は開いた扉に半分体を入れながら、ガイたちに向かって言う。
「...それ以外の最悪だ(キリッ」
そして中に入って衝撃の事実に気づいた。
行き止まりだった。
ダンボールのような箱のようなものがたくさんある。逆に言えば、他のものは一切ない。
ここはガラクタ倉庫のようだ。
こんな部屋あったのか。
じゃなくて、階段どこ?だってあの二人もこっちからきたよね?
俺は振り返って3人組を見てみる……
するとまたブルが建物の横の方を指差して言う。
「出口そっちでは……」
「…………」
寂しい風がひと吹き。まるで俺の感情を表すように流れる。
少しの間停止する。
誰も喋らない。まるで俺の感情を哀れむような時間が過ぎる。
しばらく沈黙が続いたあと、俺は無言で歩き出す。
もう嫌だ。帰ろう。
さっきとは違う扉に入り、屋上から逃げるようにして俺は去った。
そして屋上には、どう反応すればいいかわからず困惑する3人組だけがとり残された。
3人はルーラみたいにはならないようにしようと心に近い、精神年齢が少し上がったのだった。
最後の方がおかしかったので直しました。
2歳が頭ぶつける天井……
自分で読み返して不覚にも笑いました。




