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42話 決闘の作戦




 今日も平和だなぁ~


 教室の窓際の席に座りながら、俺は夕日の浮かぶ空を眺めていた。


 雲一つない晴天。窓から入る温かいそよ風。


 平和すぎるといえるほどに、平和だ。


「はぁ~」


 そんな外の景色に反して、俺はため息をつく。

 この世界が平和でも、俺の脳内は全然平和ではないのだ。


 その理由は三日前の魔法学の授業にあった。


 

*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*



 あの後、俺は断固拒否し続けた。


「いや、私は決闘なんてやらないから!これはほんとだから!なんと言われても変わらないから!」


 決闘なんてやりたくないのだ。第一にめんどくさいし、第二も......めんどくさい。うん、超めんどくさい。

 しかしそんな俺の言葉を聞いても、セシルは粘り強かった。


「ルーラ......お願い......!」


 俺の服の袖をつかみながら上目遣いで言ってくる。

 あぁ!今すぐ抱きしめたい今すぐ抱きしめたい今すぐ抱きしめたい!


 っでも!俺は決闘はしないと決めたんだ!

 今ルーラを抱きしめてしまえば、もう俺はこちらへと戻ってこれない気がする!

 抑えろ俺!自分を抑えろ!


 ルーラの腰に回そうとする自分の腕を、もう片方の手で止める。うぐぐぐ。


 すると、ガイも俺に言ってくる。


「ルーラ!セシルもこう言ってるんだ!決闘するぞ!」


 お前も俺を誘惑するのか!

 しかし俺は負けじと言い返す。


「セシルを蹴ろうとしてたくせによくもまあそんなことを言えるじゃないか!反省してるなら決闘なんてよすんだな!」


「せ、セシルはこの話には関係ない。これは俺とお前の問題だ!」


 ガイも答えるが、言ってることが矛盾している。


「『セシルもこう言ってるんだ!』ってさっき言ったでしょ!それに、セシルのことをかけて決闘する時点でセシルが関係ないなんて言えないぞ!」


「あ......そ...そうだけど......」


 ガイがしどろもどろになる。


 全く、小学生はすぐだんまりだ。

 こういうことが起きるから俺は決闘したくないんだぁ!!


 うぐぐぐぐ、と俺が唸っていると、向こうから先生が来た。


 ......校長先生だ!?なんでここに!?

 まあいい、校長先生なら俺の言い分も聞いてくれるかもしれない。

 これはチャンス到来か!?


 校長先生はルーラとガキンチョ3人組、そして最後に俺のことを意味深にじーっと見た後、こちらの方に歩いてきた。


 ────なんて隙のない歩き方だ。体から圧迫感のような、オーラのような何かがあふれている気がする。

 歴戦の戦士というべきか。

 俺がどうあがいても、この人には勝てないだろう。

 そう思えるほどの風格があった。


 が、今はそれどころではない。

 

 早く決闘を断らないと。


 俺の服の袖を掴むセシルを離そうとする。が、がっつりとくっついていて離れてくれない。

 あーうん。幸せだ。けど、ちょっと今はそれどころじゃないんだ。早く離しておくれよ......


 俺がセシルを離すのに四苦八苦していると、校長先生がガイに話しかけていた。


「君は......確かガイ君か。この魔法の授業は難しいかい?」


 すると、ガイは緊張しながら答える。


「い、いえ!そんな難しいなどこれっぽっちも思っていません!」


「そうかそうか。ガイ君は優秀だな。流石、ウェークトンの名を持つものだ。その誇り、大切にするんだぞ。」


「は、はい!」


「いい返事だ。今度校長室に遊びに来なさい。いつでも気軽に来てもらって構わないからな。」


 校長先生って意外とラフな人なのか。

 気軽で優しい感じだ。すごい頼りになりそうないい人って感じだな。


 と、校長先生は再度ガイに問いかける。


「それでガイ君、困っているようだけど何かあったのかね?」


 ガイは聞かれてすぐに答える。


「は、はい!今、ルーラに決闘を頼んだのですが、どうすればいいのかわからなくて......」


 ええ!?

 その言い方、言ってることは間違ってないけど、校長先生からしたら、俺がその頼みを承諾しているように解釈できるじゃないか。

 

 校長先生は、ガイの助けに答えるようにして言う。


「なるほど、わかった。私の方から次の魔法学の時間、二人の決闘ができるように言っておこう。それでいいか?」


 あ、え、ちょ。ちょっと待って。

 俺の、俺の意見も言わせてくださいよ。 


 しかし、話は俺そっちのけで進んでいく。


「はい!あ、ありがとうございます!おねがいします!」


 元気のいいガイの挨拶を見た校長先生は少し機嫌をよくする。


「よし、では来週の決闘を楽しみにしているぞ、ガイ君。二人とも頑張ってくれ。では、私は他の業務もたまっているのでな。それでは。」


 そして、校長先生はその場から離れていった。

 



 ...............なんで決闘勝手に決められてるんだぁぁぁ!!!



*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*



 そしてそれから3日後、俺はこうしてため息をついているというわけである。

 はぁ...ありえないでしょ、ほんと。

 なんで俺の意思関係なしに決めちゃうんだよ。俺の意見聞いてくれよ校長。

 あぁ~なんでだ~。どうしてこうなった。

 俺は何も悪いことしてないのに!

 

 ちきしょう、もうこうなったら創神化で一気に......

 

 ......っと、焦りは禁物だな。

 決闘で創神化を使ってもメリットはない。

 奥の手は隠し持っているからこそ奥の手なのだ。不特定多数の人に見られていいものではない。


 それと極歩、身体教化も同じく見られたくないな。 

 多分誰でも習得できるようなスキルだろうけど、でもぎりぎりまで見せないようにするのがセオリーだと思っている。

 

 問題は創神化無しで、スキルの使用も極力避けてどうやって勝つか......

 

 決闘の日まではあと4日ある。その間にどういった対策をするかがカギだな。

 俺が思いついた作戦は3つある。

 まずは俺自身を強化するという作戦。

 俺のステータスを、スキルなんて使わなくてもいいぐらいに強化する。

 そしてウェークトン家の長男、ガイをフルボッコにするという単純明快で合理的な方法だ。

 あ、ウェークトン家じゃなくてウェークトン毛だったっけか。まあそれはいいか。


 しかしこの方法は難しいだろう。

 女の子で魔法使いの俺が、LVが少々高いぐらいで男の子で剣士のガイに勝てる保証はない。いや、恐らくステータスではガイに劣っているだろう。

 それをあと4日で、しかも剣を使うガイに対抗できるところまで上げる。そんなこと、強力な魔物を倒しまくったりでもしない限り不可能だろう。

 よって却下。


 次に、創造魔法で新しいスキルを作って対抗するという方法。

 無属性のスキルなら俺でも使える。

 だから、ガイに対抗できるようなスキルを作ってそのスキルだけでフルボッコにしてやる。

 創神化とかはもちろん、身体強化とか極歩とかは一切使わない。

 なので俺のスキルを誰にも知られずに勝てるという方法だ。

 

 この方法は案外悪くないかもしれないと思った。

 俺はスキルを作るだけ。

 最初の方法みたいに、ステータスを上げるために魔物を倒しに行くために森に行くために準備をする、なんて面倒くさいことは一切なしだ。

 とりあえずスキルを作って、あとは適当に強化しておけば準備完了だ。

 すごく楽な作業である。


 しかし、この方法にも欠点がある。

 そのスキルだけでガイを倒せる、なんて、そんな都合のいいスキルが果たして存在するのか?

 身体強化とかのスキルならそういうこともできるだろう。だけど、それは筋力強化を鍛え、スキルを進化させたからだ。

 スキルは最初は弱いが、鍛えれば鍛えるほどに強くなる。これは確かなことだ。

 逆に言えば、初期状態ではほとんど役に立たないものだってあるということ。

 

 例えば【鑑定】。このスキルはとても使い勝手の良いスキルだ。

 自分の知らないものでも、鑑定を使えばそれがどんなものか見抜ける。

 他人のステータスをも看破できてしまう優れもの、というかチート級スキルだ。

 でもこのスキル、進化する前は【識別】で、レベルを上げないと満足に識別もできやしないというゴミスキル。

 

 つまりだ、スキルは鍛えて進化させないとあまり意味がないのだ。

 

 今までの経験上、スキルの進化には5日以上はかかるだろう。

 特に使えるスキルほど鍛錬には時間がかかると見た。

 これでは決闘に間に合わない。

 

 もし万が一、スキルの強化が間に合ってスキルの進化をできたとしたら?

 そのスキルを使って勝ったら、それこそ自分の大事な手の内を明かすようなものだ。

 

 つまりだ。今創造魔法でスキルを作ったところであまり変わらないということだ。

 ということでこの方法も却下。


 残るは3つ目の作戦なんだけど......

 この作戦はあまりやりたくないんだよなぁ.........

 いや、正直言って、この作戦を使えば戦わなくても済むだろう。創神化も身体教化も極歩も使わずに、ガイを圧倒できるだろう。

 恐らくこの方法が一番簡単でコスパがいい。

 

 でも、なぁ...


 やはり気乗りしない。この作戦は実行に移したくないんだよなぁ......

 

 俺がいろいろ考えていると、教室の扉が開く音がした。

 誰か入ってきたみたいだ。

 視線を扉へと移す。

 そこにはセシルがいた。

 今は放課後。この教室に来る理由はないはず。忘れ物かな?

 と思っていると、セシルは俺の席の前に来た。

 

「ルーラ、どうしたの?もう放課後だよ。みんな帰っちゃったけど...」


 そうだな、みんな帰っちゃったな。

 だがしかし、前世と同じく今世でも俺のボッチ属性は働いている。

 セシル以外にクラスメートで顔を覚えている人はゼロに近いだろう。

 なのでクラスのみんながいてもいなくてもさして変わりはしないのだ。

 

「ぼーっとしてただけだよ。それよりセシルこそ、なんでこんなところに?」


 すると、セシルは嬉しそうな顔をして言う。


「うん!ルーラと一緒に帰りたかったの!一緒に帰ろう!」


 なるほど、だからわざわざ教室まで来たのか。

 なんてかわいいやつだ。俺のために放課後まで残っているなんて。

 もしこの体が男だったら今すぐにでも抱きしめていたぜよ。

 まあ男だったらの話だが。今は女なのでしない。レズではないよ?


 でも、作戦のための許可を取るにはちょうどいいタイミングだな。

 今のうちに相談しておこう。


「よし、一緒に帰ろうか。」


 俺がそういうと、花が咲いたようにセシルは笑う。


「やったぁ!一緒に帰れる!」


 だが俺はセシルにお願いせねばならないことがある。

 はぁ、ほんとはあんまりやりたくないんだけどなぁ。

 まあこれもセシルたんのためと思えば、だね。

 仕方ない仕方ない。


「帰る前に、セシルにお願いしたいことがあるんだ。」


 あまり気が進まない中、俺は作戦について話した。


 セシルは真剣に聞いてくれた。

 少し難しい話だったかもしれないが、大体の概要は伝わったみたいだった。

 そして話が終わると、俺のお願いを聞き入れてくれた。


「うん!ルーラがそれでいいなら、私もいいよ。」


 ああ、ありがたい。

 これでセシルの許可も得たことだし、決闘に関してはかなり立ち回りやすくなったはずだ。

 ほかの二人分のことはしらんが......まあ、あの三人組のことだし、どうせそんなに気にもしないだろう。


 しっかしなぁ。やっぱり気乗りしないなぁ。

 もし壊されたとしたら、セシルが良くても俺の心がダメージを受けるんだよなぁ。

 やっぱりやめよっかなぁ。


 ......いや、これもセシルのためだ。

 決闘に勝つにはこの方法が一番強い気がする、いや絶対これが一番楽だと思います。

 他の方法も思いつかないし、やるならきっちりとやらないとね......


 俺はセシルに礼を言う。


「セシル、ありがとうね。」


 しかし、セシルは全然気にしていないようだった。


「ううん、私がルーラの役に立てるなら、それぐらいどうってことないよ!決闘、頑張ってね!。」


 ルーラの声を耳に通すとさらに心が痛むよ。

 はぁ、決闘頑張らなくちゃなぁ。

 そのためには、準備もしっかりとしていこう。


「うん。じゃあ、帰ろっか。」


 俺は町の中を通って家に帰るが、その帰り道の途中にセシルの家はある。

 なので、途中まで一緒に帰れるのだ。


 俺は4日後の作戦について考えながら、セシルと一緒に帰るのだった。


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