39話:異世界の授業は簡単すぎてつまらない
「今日からDクラスになる、セシルです!」
「「「「えええええええっ!」」」」
あまりに突拍子のない出来事に、みんな声を揃えて驚く。
どういう事だ?セシルは魔力測定の結果が一位でAクラスのはずだ。
それがどうなったらDクラスになるんだ?
すると先生が俺の思っていることを代弁するように言う。
「せ、セシルさん?一位のあなたがなぜここに?あなたはAクラスでございましょう?」
セシルは元気に答える。
「Dクラスでいいの!校長先生もいいって言ってたからいいの!」
いまいち理由になってない気がするが、まあ小学生の受け答えって言ったらこんなものなんだろう。
先生は納得できずに説得を試みる。
「で、ですがセシルさん?Dクラスはいわば底辺なのでございますよ?そんなところにわざわざ……」
「なんで!いいでしょ!校長先生もお父さんもいいって言ってたの!ルーラと一緒がいいの…うぅ………」
セシルは言いながら涙目になる。
先生何泣かしてるんすか。
あ、でも涙目セシルたんもかわいいというか守ってあげたくなるというか、保護欲をそそられるね。
一周回って、うん、かわいい。
すると先生はルーラという単語に反応する。
「ルーラさん、ですか?あの一番底辺の子のためにDクラスに入るのでございますか?そういうことならわたくしが止めますわ。クズの為にセシルさんが苦労することなど」
「ルーラは底辺じゃないもん!わたしを守ってくれたの!ぜったい一番強いの!」
ええっ、そんなに期待されてもなぁ。
属性適正なんもない俺ができることと言ったら、ほとんどないぞ。
というかAクラスなら将来有望だ。幸せな生活が約束されている。
貴族だって夢じゃない。
先生の考えを肯定するのもなんだが、ここで俺の為にDクラスに入るのは愚策だろう。
俺のために入ってくれるというところなんとも申し訳ないが、セシルの為にも説得してAクラスに行ってもらおう。
「セシル、私のことはいいからAクラスに行ってきなよ。」
するとセシルではなく先生が反応する。
「こら!ルーラさん!セシルさんを呼び捨てはいけません!Aクラスの子供の半分は貴族と関わってございますし、一位の子なんて言ったら伯爵になれるほどの器をお持ちなのでございますよ!もっと丁寧に!」
Aクラスの生徒の前では機嫌をとって、Dクラスの生徒の前だと偉そうにするのかこいつ。
……まあ貴族ってそんなもんか。
無視だ無視。
先生の言葉をスルーしていると、いつの間にかセシルが先生の横で紙を持って立っていた。
会話に夢中で移動してたのに気付かなかった。
先生も急に出てきたセシルに驚いているようだ。
………いや、違う。
セシルの持っている紙に目を奪われ、驚いている。
どうしたんだ?
すると先生が驚嘆の声を漏らす。
「これは………ベイル先生と校長先生の……直筆のサインでございますか!?」
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*
あの後なんだかんだあって、結局セシルはDクラスに入る事になった。
証拠も何もなしに来たのなら普通に追い返しただろう。
しかし、校長先生とベイルさんのサインがあるとなっては、Dクラスに入れるほかなかった。
席は俺の隣だ。すごいウキウキしている。かなり嬉しいんだな。分かりやすい子だ。
だが、そんなセシルを見ていると、Dクラスで本当に良かっただろうかと思ってしまう。
だってAクラスってつまり、何もしなくても出世できるようなクラスって事だろ?
まあそれは言い過ぎかもしれないが、前世のもので例えると、入試で絶対入れるクラスって感じなわけだ。
その権利を自らの手で、しかも俺の為に捨てるなんて、逆にすごく罪悪感を感じる。
もうなんか、ほんとに申し訳ない。
けど前向きに考えてみれば、俺は一切損害を受けずにセシルと過ごせるという事だ。
あのイヤなオバハン先生を見て腐ってしまった目を、セシルの神々しさで癒すのである。
目の保養だ。パワースポットだ。ああ、癒されるわぁ。
そう考えれば、まあ別にいいかな?
どちらにせよぼちぼちやっていくしかないって事だな。考えすぎはやめよう。
それはさておき、今は算数の授業中だ。
数字を覚えたり、足し算をしたりといった授業を受けている。
異世界の数字は大変なもんだね。
かなり複雑な形をしている。
1はカタカナのタが歪んだような形をしていてまだ分かりやすい。
が、数字がでかくなっていくほどに文字も複雑になっていく。
7とかなんて酷い有様だ。ひらがなのほを横にして、下から漢字の目を半分切り取ったものをくっつけた感じ。
うーん、分かりにくい。
覚えられる自信が全く無い。
まあでも俺はスキルの影響で、勝手に頭の中で翻訳される。
数字が分からないということが無いのだ。
記号とかも意味不明なはずなんだが、読んで頭の中に浮かんでくる文字は前世基準にされている。
それだけではない。
逆に異世界語を書きたいって時も、そう念じながら日本語で書くと、いつのまにか異世界語になっている。
この機能にはびっくりした。
というか翻訳万能すぎるでしょ。
ちなみに他の生徒はというと、この意味不明な言語を普通に理解できてるみたいだ。
形が複雑な数字でも、問題なく理解できてる。
まあ今までの人生で何回も数字を見る機会があったんだろう。
転生した俺とは違う生き方なんだ。
そうなるのもあたりまえか。
そして次は足し算。
正直俺にとっては簡単すぎて寝そうだが、こちらは理解できない人もいるようだ。
顔をしかめて苦戦している人が多い。
セシルもよく分からないようで首をかしげている。
………でも、やはり俺にとっては何も考えずともできる、もはや作業だ。
楽勝だよ。
まあ、前世のキャリアがあるからな。
ここは増長しないできちんと勉強もしたい。
…これじゃ勉強しても大して変わらないと思うけどね。うん。
「ルーラさん、この問題の答えは?」
ぼーっと考えてたら、先生から問題が出た。
やべぇ全然授業聞いてなかった。
「えーっと……」
黒板を凝視する。
うーん……3+4か。
「3+4だから……7ですか?」
俺が答えると先生はひどく驚いた。
目を丸くしてこちらを見ている。
なんだ?俺なんかしたか?
普通に足し算しただけなのにこの反応とか、あ、まさか間違った?異世界基準の計算になってなかったとか?
それとも俺が気づいて無いだけで変なことしちゃってたとか?
他の生徒も何にも言わないし。
え?な、なんだ。みんな俺のことを変な目で見てくるぞ。
いや、驚いているだけか?
でもすっごい、なんかすっごい視線を感じる。
ちょ、ここまでくるともはや怖いんだけど。
俺がしどろもどろしていると、横からセシルが小さい声で言ってきた。
「ルーラちゃん、なんで習ってないのにできたの?」
「えっ……まだ習ってないの?」
セシルが言うには、今の足し算はまだ教えられていない範囲らしい。
そして、足し算なんてみんなできないよって状況だったのに、俺が当たり前のように問題を解いた。
案の定みんなおったまげたということだ。
なんで教えていないことを問題として出すかなのだが、それは先生がわざとやっていることらしい。
なんでも毎年恒例の事で、生徒が答えられないだろう問題を出しては悩ませ、それを知った上で先生が怒る。
これにより生徒の無駄なプライドをズタボロにして真面目に勉強する気にさせるという。
だが、される側からしてみればウザさMAXの所業でしかない。
しかもこれを行うのはDクラスだけときた。
どう考えてもDクラスへの嫌味を言って、優越感に浸りたいだけだろう。
子供かよ。
教師としてあるまじき行為だな。
まあそれもこんな状況からして、異世界では関係ない事なのかな。
……なんでこんなことをセシルが知ってるんだ?
ちょっとおふざけ混じりに聞いてみるか。
「そんなことよく知ってるね。いやぁ〜セシルは物知りだなぁ〜」
するとセシルは頬を赤らめ、モジモジしながら恥ずかしそうに言う。
「い、いや…。その…お父さんが言ってたの。Dクラスはそういうことがあるかもしれないって。だから私は話を聞いただけで……」
なるほど、ベイルさんか。
確かにあの人ならそう言いそうだな。納得納得。
ていうか今の、ちょっと冗談めかした感じに言ったつもりだったんですが。
笑わないどころか、若干ツンデレの返答が来たぞ。
全く、セシルたんは可愛く返すことしかできないようですね。
でも可愛いから許す。
赤くなって恥ずかしがるとかマジ反則っす。
話していると、先生がまたなんか言ってきた。
「で、ではルーラさん!この問題はとけますでございましょうか!?」
おいおい、俺のゴールデンタイムを邪魔するんじゃないよ。
慌てすぎて敬語がおかしくなってるし。
と、先生が黒板に問題を書いていく。
……5×7?
「どうでございますか?解けないでしょう。フッフフ。」
「35ですね」
俺が即答した瞬間、先生がより一層ひどく驚いた。
まるでこの世界の境地でも見ているような顔だ。
心臓発作でも起こしたのかな?かわいそうに。
すると先生はまたもや黒板に問題を書いていく。
しつこいなぁ。早く終わってくれないかなぁ。
と、問題を書き終わった先生は自信ありげに言う。
「これなら!これなら解けないでしょう!」
ー0.05×4、か。
「ー0.2ですね」
「ホワアァァァァァァァァァァ!!」
あ、先生が奇声を発しながら倒れた。
心臓発作かな?かわいそうに。
ていうかすごい奇声だったな。
キーボードク○ッシャーかな?怖えよ。
と、そんなことをしているとチャイムが鳴った。
全く、先生がこれだと授業が全然進まないね。
今度校長先生に直談判してみるか?
……怖いからやめとこ。
次の授業は……魔法学か。
今回は実践授業だから外だな。行くか。
俺は授業中ずっと続いていたクラスメイトからの視線を背中に受けながら、外へ出て行った。
………先生は放置しとこう。




