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37話 魔力測定



さて、今日は魔力測定の日だ。

久しぶりにステータスを確認してみる。


—————————————————


【ルーラ・ケイオス】《全熟練度詳細》

2歳 女 魔法使い LV 7


HP :62/62

MP :780/780

SP :470/470

攻撃 :52

防御 :53

魔攻 :0

魔防 :0

俊敏 :16


-スキル-

鑑定LV4

身体強化LV3

極歩LV3



-魔法スキル-

創造魔法LV∞(神域限界突破)

閃光玉LV1

盲目玉LV1

火玉LV1

水玉LV1

風玉LV1

土玉LV1


-パッシブスキル-

翻訳LV9

魔力操作


-固有スキル-

創神化LV4


-称号-

異世界人

創神


-加護-

創神の加護


—————————————————



0という数字が目に痛いぜ。まあそれは気にしたら負けだ。


いまだにMPとSPを毎日消費して鍛えているおかげで、両方ともどんどん増えてきているのがわかる。

一回鍛えただけだと増加する最大値は雀の涙ほどだが、ちりも積もればなんとやら。

なんとなくやっているうちにそれが習慣化しちゃって、気づいたら結構増えていた。やったね。

しかし、本当にわずかづつだが増加するペースが落ちてきている。

歳をとるとこの方法では増やせなくなるのだろう。

まあでも。今のところ普通に限界量を増やせるし鍛えるに越したことはないな。


それとスキルのレベルが上がった。

身体強化、極歩、鑑定それぞれ少しずつ上がっている。

その効果も出てきている。

消費するMP・SPが減り、効果が上昇してきている感じだ。このままこつこつ強くしていきたいね。

それに対して翻訳はLV9から全然上がらない。

なんでだろうと思って熟練度見てみたら、次のLVまで一万ポイント貯めなきゃだめだった。

今まで3桁代だったというのに一万だよ一万。どんだけだよ。

まあでも、その分期待できるというか、LV10になった時にどうなるかが楽しみだ。


そして創神化がLV4になってるっていうね。

使ったの一瞬だった気がするけど、それでこんだけ上がるってキチガイスキルだよほんと。

もはやLV10になったら呪われそうな気がしてきた。創神様のお怒りを買うみたいな。

本当にこのスキルだけは使用注意だね。


まあそれはさておき、これからクラス分けをする。

昨日の入学式の時のクラスは仮のもので、いまから行う魔力測定の結果で改めてクラス分けしていくということだ。

魔力の多い子はAクラス、普通の子は

Bクラス、少ない子はCクラス。

そしてDクラス。落ちこぼれた子のクラス、だよね。

流石に俺でもBは行くと思う。これでもかなり鍛えた方だと思うし。

Dは……まあなるわけないか。本当に落ちこぼれたしか入らないから人数も少ないらしいし。

特別学級的なやつかな。


あと、魔力測定というのだからMPを調べるんだろうと思っていたが、 一緒にSPも調べるらしい。

MPだけだと剣士の人圧倒的に不利だしね。あたりまえか。

でもSPってスペシャルポイントとかスタミナポイントの略だよね。魔力関係ない気もするが……まあいいか。そういうもんだとしておこう。


ここで、別に測定なんかしなくてもステータスで見れるから良くね?と思う人もいるだろう。

しかしだ。そうなると問題が発生してくる。

虚偽報告などだ。

落ちこぼれのDクラスに入りたくない。

Aクラスに行けば将来安泰だ。

そんな事を考える子供は結構いるらしい。特に貴族の子供とかに多い。

そんなんで自己申告させたら間違いなく盛るだろう。

私のMPは53万です。ってな。


じゃあステータス画面見せて貰えばいいんじゃないの?と考える。

だがこれも駄目な理由がある。

ステータスは基本自分以外の人には見えないし分からない。つまりステータスがこの世界では一種の個人情報として扱われるわけだ。

日本でもそうだったように、この世界でも個人情報は特別なものらしい。

簡単に人前で見せびらかしていいようなものでもない。プライバシーがどうたらこうたらってやつだな。


この件では昔も何回かもめたらしい。

そして、普通に測定する。多分これが一番早いと思います。ということが最終的に決まって、もめごとが落ち着いたらしい。面倒臭いこった。


まあそんなわけで、今体育館前の廊下に並んで待ちながら、ついでにステータス確認作業中ということだ。

いちいち体育館前の廊下に並んで待つのは癪だが、身体測定みたいなもんだと割り切ればそう辛くもない。

ただ待つだけ。これが子供にとっての一番の苦痛らしいが、俺の中身の精神年齢なら苦痛でもなんでもない。痛くもかゆくもないな。

ちょっとばかしめんどうなだけだ。むしろ待つのには慣れている。一人でいられる時間が増えるしな。

それに………


「おはよう、ルーラちゃん!」


前からセシルが声をかけてくる。

昨日の学活を通して仲良くなったのだ。

と言っても、本人は生鈴式の時にお世話になったからお礼を言いたかっただけらしいが。そのことで話しているうちに仲良くなったのだ。これでぼっちの心配はなくなったな。

でも、いやぁ〜まじで癒されるわぁ〜。ほんと、並んで待つだけなのにこんなに楽しいなんて最高だね。

君の顔を見ている方がドキがムネムネしてワクテカだよって言いたい。あ、ムネとドキ逆だったわ。


「今日は楽しみだね!」


「そうだね、セシル。わた……し……もすごい楽しみだよ。」


だけど女の子と喋るの苦手なんだよなぁ。俺の性別も違うし。自分のこと「私」って言うのに違和感ありすぎて鳥肌立っちゃう。いっそボクっ娘でいこうかな。私よりかはまだましだと思う。

その上どういう会話をすればいいのか分かんない。

この歳の子供ってどういうコミニュケーションの取り方してるのかな。

わーきゃー騒いでるだけだと思ってたけど、意外と普通に喋るみたいだし。


「あ、私の番が来た。ルーラちゃん、行ってくるね!」


「いってらっしゃい。」


色々考えてたけど、かわいいから全部許す。

いや〜。どんな悩みを抱えててもセシルたんを見れば全部吹き飛ばせる気がする。いや吹き飛ぶ、絶対。

俺は勉強が嫌いだけど、遊園地に行くか、セシルと一緒に勉強するかと聞かれたら後者を選ぶだろう。

多分ずっと横だけを見てて勉強にならないと思うけど。

それほどに癒される。かわいい。


と、そんな事を考えていたら前の方でざわめきが起きた。

なんだ?事故でも起きたか?列から少しずれれば見えるか。

……うーん、よく見えないが、どうやら魔力を測定する担当の人たちが歓声をあげているらしい。その周りの子供たちにも驚きの様子が見られる。

だがここからじゃ何があったのか全然分からないな。

……次に測定するの俺だし、行くついでに様子を見に行ってみるか。


とことこ歩いて行くと、測定官の人たち、セシル、そして3つの水晶があった。

長机の上にハンカチぐらいの大きさの白い布が3枚敷いてあり、上に水晶が置いてある。手前から、無色、薄水色、橙色のものだ。


そしてセシルの手は手前の無色の水晶の上に置かれている。

それに反応するように、水晶の中には7色の光の玉が浮かんでいた。

それぞれ赤、青、緑、茶、白、黒、ピンクの光を放っている。色とりどりだな。

すると、周りの測定官の一人が言う。


「な、7属性もの適性を持っているだと!?」


それに呼応するようにして周りがざわめく。


「ありえんな…」


「おぉ……!」


「すごいな…」


なんだなんだ、どういうことだ。

みんなそんなに驚いて、一体何がどうだと言うのだ。


「普通1つか2つ、多くて3つだというのに、どういうことなんだ。」


…うん?つまり、言葉から察するに、あの無色透明の水晶は適正属性を見極めるためのものなのかな。

触れると光の玉が浮かんで、その玉の色次第で自分の適性を知ることができる、と。

じゃあ、セシルは7個属性適正を持っているってことなのかな?

普通は1〜2個だって言うから、素晴らしい才能があるということなんだろう。天才ってやつだな。

まったく、うらやまけしからん。1つぐらいゆずって貰いたいところだ。


それからしばらくして、だんだんざわめきが収まってきた。

こっちに様子を見に来ていた他の列の大人も、自分の配置に戻っていってる。

結構な人数が動いてたみたいだ。それほどにすごいことだったんだろう。そのうちセシル一人で無双とかしててもおかしくないかもな。

と、MPとSPの測定も終わらせたセシルが俺の方に駆け寄って来た。


「ルーラちゃん!私、適正いっぱいあったよ!」


目がきらきらしている。余程嬉しかったんだろう。


「すごいね!これでどんな魔法でも使えるね!契約して魔法少女にもなれるね!」


「うん!まほうしょうじょになれる!」


やばい、ネタのつもりで言ったのに純粋な返し方されてしまった。こやつ……やるな。

……でもかわいいから許す!


「ルーラちゃんも頑張ってね!」


「うん、頑張るよ。うん…」


まあ俺は頑張っても属性適正無いんだけどね。

戦う前から勝敗は決まっているというやつだ。おれの適性はもう、死んでいる。ばたんきゅー。


「ルーラ・ケイオス。来てください」


ちょっと落ち込んでいると前の測定官に呼ばれた。

嫌だなぁ。どうせ1つも適正出ないんだろうし。

でもまあ、俺と同じように適正無い人いるだろうし、悲しんでもしかたないな。

それに俺はMP結構増やして来たわけだし?属性適正が全てじゃないからね。


ということで、水晶の前まで歩いて行く。

改めて近づいてよく見ると綺麗な水晶だ。

中に細かな粒子みたいなのが入ってて、それが並んで魔法陣みたいなのを形成している。

粒子は淡い光を持っていて、これがファンタスティックな雰囲気を引き立てている。


「では、水晶に触れてください」


ゆっくりと手を出して、ごくりと唾を飲んでから優しく触れる。もしかしたら適正があったりするんじゃないのか、という薄い期待が手にこもる。


水晶に触った。

…………何も起きない……か。やはり俺は適正は無いみたいだな……はぁ。分かってはいたが実際に見てみると結構残念……だ………って、うわ?!


急に測定官が慌て出す。


「こ、これは………まさか—————無属性適正……!?」


測定官が言葉を発すると同時に、水晶が光を放ち始めた。

光の色は無色透明。何色?と聞かれても無色としか答えられないような色だ。

しかもセシルの時よりずっと光が強い。

車のハイビーム以上の明るさだ。

適性がかなり強いのだろう。


…だがしかし、それだけだ。

光は一色。恐らく無属性の適正がある。

でも逆に言えばそれ以外の適正はないということだ。

無属性だけ。それはつまり、魔法で火を出したり風を起こしたりといったことができないということ。

俺の夢が完全に打ち砕かれたことを意味する。


異世界魔法といったら手からファイヤボールを出したり、かまいたちで敵を薙ぎ払ったりするものだろう。

そのロマンに誰しもが憧れ、やってみたいと思い、そして不可能という現実を突きつけられたことだろう。

俺もその一人だ。

昔は夢を持っていた。


雷の魔法で悪魔を倒す。


土の魔法で剣を作って火の魔法で炎剣にする。


水の魔法でバカでかい津波を作って魔王の城を押し流す。


…………最後のはちょっと違う気もするが、まあそれなりの妄想を頭の中に描いていた。

そういうことができればどれだけ楽しいだろうか、と。

しかし、それはどんなに努力しても手に入らない物だということも知っていた。


空想。妄想。幻想。

そう言ってバカにする人は多かった。

俺も意地を張ってバカにしていた時期もあった。

そんなの考えるだけ無駄だと。

夢を見ている暇があったら勉強でもしてろ、と。

夢なんて捨ててしまえ、と。


だが、俺は異世界にきた。

もといた世界とはかけ離れた、だけどどこか似ている異世界。

幻想的で夢のような世界で、魔法を使うことだってできる場所に。


中世風の馬車、生きている本、魔獣の出る森。

危ないこともあった。辛いこともあった。

けど、俺の目にはこの世界の全てが輝いて見えてしょうがなかった。

神様が俺を導いてくれたのかもしれないと思えた。

そしてふと思い出したのだ。

昔抱いていた夢を。

不可能と割り切り、頭の押入れの隅っこに追いやっていた妄想を。


そして俺は希望を抱いた。


雷の魔法で悪魔を倒し、土の魔法で剣を作って火の魔法で炎剣にし、水の魔法でバカでかい津波を作って魔王の城を押し流す。


今まで不可能だった俺の願いに光が差した。

夢が叶うかもしれない。

そう思わずにはいられなかったんだ。


………でも、その希望も今日までかもしれない。


無属性だけ?

火は?水は?そういうの無いの?

神様は俺に希望を与えて、大いに期待させて、そこから落としたの?

それともこれが運命なの?

このひどい結末が運命なの?

そう現実に訴える。

だがそれとは対照的なことを呟く。


「まあでも……夢なんて大抵そんなもんだよなぁ。」


諦めていなかった自分が悪かった。

少しでも期待した心がダメだった。

世界はそんなに甘くない。楽に行ける方法なんてない。

そう思い知らされた。


慢心すればいつもこんなもんだ。

そうだ、自分は力なんて何もないし、自慢できるようなことなんてはなっから持ち合わせていない。

そんな俺が期待するのがおかしいんだ。


じゃあこれからどうすればいいのか。

使えない属性に夢を持つのはやめる。

自分のできることから———無属性の魔法を極めることからやっていく。

この属性適正はかなり強いと思われる。それはこのまばゆい光が証明してくれている。

こんなに強い光を出す人はそうそういないだろう。

つまり俺の強みは、無属性だ。

火が使えなくたって水が使えなくたって、無属性だけしかできないこともある。それをやっていけばいい。

昔は何もなかった俺。だが、今は無属性の適正がある。

よし、決めた。

俺は、無属性で頑張っていく!

誰になんと言われようと自分の道を進んでいく。

迷わずに一直線に突っ走ってやるぞ!


水晶のまばゆい光を前にそう誓った。


……と、水晶の様子がおかしいことに気がつく。


中の光の粒子が荒ぶってる。

ビリヤードの玉が並んでいるところを突いた時のように、大量の光が激しく不規則に動き回っている。

そしてだんだんと光も強くなってきてる。

眩しすぎて目がおかしくなるぐらいだ。

不思議と目を開けていても平気な光だが、それでもいかんせん明るすぎる。


と、水晶がきしみ始めた。

キィーと超音波のような高い音を出しながらどんどん光が強くなっていく。


え、なんかこれやばくない?

そう思った時にはもう遅かった。

だんだんと強くなっていた光が一気に解放され、水晶を中心に強烈な光の奔流が広がった。

その光は体育館全体を明るく照らすほどで、俺は一瞬で飲み込まれた。




すぐに光は収まった。

周りの人たちが目を開け始める。強烈な光に思わず目をつぶったのだ。

するとすぐに一名の変人を発見する。


「目が!目がぁぁ!」


水晶の前で目を抑えながら騒ぐ幼女、ルーラ・ケイオスである。

水晶の光を前に目を瞑るのが遅れたのだ。


もろに極光を食らい目が潰された俺はム○カ大佐のような感じになっているというわけだ。

と、俺が見えない中測定官の人が声をかけてくる。


「水晶の故障が起きたみたいだから、ちょっと待っててください。あ、あと故障のため属性適正は無しということになります。」


……は?今の……俺の聞き間違いだよな?


「あ、あのすいません最後の方よく聞こえませんでした。」


「故障のため属性適正は無しとい」


「ええぇぇぇえええっ!?」


言い終わる前に叫んだ。

無属性だけで頑張ると誓ったのにぃ!

そしてバルスされてもがいたのにぃ!

なんでや!なんで俺がこんなに被害うけなあかんのや!

俺の誓いの意味は一体……


俺はがくりと膝をついてうなだれた。

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