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36話 自己紹介



入学式の翌日。


今日は初めての授業日だ。

と言っても教材配りやらクラス内でのレクリエーションやらの、いわゆる学活にあたる授業だけだろうけどね。


ということで朝、学校に登校する。

今日は馬車じゃない。エマ姉さんと一緒に徒歩での登校だ。

わざわざ馬車で20分かかる道のりを歩くのは嫌だったが、乗り物酔いが激しいエマ姉さんの猛烈な反対により馬車は使えなかった。くそっ。逃げられたか。

しょうがないので登下校中は身体強化と極歩を練習しながら歩こう。



*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*



学校に着いた。

スキルを使いながらだとこのくらいの距離でも疲れないもんだね。感心感心。

校内に入り少し進む。

ここでエマ姉さんとはお別れだ。

もちろん一生の別れではない。

家に帰る時間帯は別々だから帰り道で会うこともないだろう、とすると夜までのお別れだな。


「じゃあね。頑張ってくるのよ、ルーラ。」


「うん、頑張る。」


なにをどう頑張ればいいのだろうか、なんていうアホな疑問をよそに置き、エマ姉さんを見送る。


2度目の学校生活。しかも見慣れない異世界の学校。

建物自体は普通の学校だが、あちらこちらに色とりどりの魔法陣が設置してある。

魔法陣からは水が出たり風が出たり光が出たりと効果もそれぞれだ。妖怪は出ないみたいで残念。

そんなファンタジーチックな光景が校内の至る所にあるのを見ると、異世界だなぁと改めて思い知らされる。


暫くその光景に見とれた後、満足した俺は2階の指定された教室へ向かう。

階段をのぼり、真ん中が吹き抜けになっている廊下を進んでいく。

そして一番奥の教室の手前で止まり、おもむろにドアを開ける。


ああ、今日から小学生かぁ。

まだ2歳だけど、小学生を2回やるって感慨深いものがあるなぁ。

でも異世界の学校だから前世と違うことも多いよなぁ。

教室の中とかも変わってたりするのかな。

ちょっと中を見回してみ……ッ!!


俺は唖然とした。

そう、唖然とした。その目の前の光景は信じがたい、いや生理的に受け入れがたい、いやもはや見ているだけで汚染されるほどにひどかった。

俺の口は驚きのあまり開いたまま閉じようとしない。

逆に扉は高速で閉じられた。

俺の手によって。


いやいやいや、なんでここに貴族のガキンチョがいるんだよ。

一番会いたくなかったやつと同じ教室とか、もうこれ人生終了の鐘が鳴り響くレベルだよ。


一旦廊下に出て深呼吸しながら心を落ち着かせる。

スゥ〜ハァースゥ〜ハァー。

よし、冷静に心を鎮めて行こう。

あれは貴族の子ではない、沢山いる子供の中の一人だ。そうだ、そう考えよう。

気持ちを切り替える。


深く深呼吸し直して、俺はもう一度扉を開けた。

ガラガラっと開けて素早く体を入れる。

ささっと教室に入り目を合わせないよう気をつけながら端っこにある自分の席へ向かう。

周りから変なものを見る視線が飛んできている気がするが、この際気にしていられない。無視だ無視。

競歩の選手になった気持ちで足を高速で動かしていく。

自分の席までの最短ルートを脳内で算出し、最も効率のいい移動方法で歩く。

道中にある他人の机を華麗に避け、立っている人達のわきすれすれを掻い潜り、一刻も早く我が領域(俺の席)へ———進む!


ふぅ、とため息をひとつ。

そしてストンと椅子に腰を下ろす。

様々な工程を経て、俺はやっと席につけた。

自分の席に座るだけの作業なのに無駄に神経使っちゃったな。

だけどなんか、やりきった感が溢れ出てくる。俺は……やり遂げたんだ!

なんて一人で盛り上がっていると、聞き慣れた音が校内に響いた。



キーンコーンカーン



……え?終わり?

一回足りない……よね。

いやいやなんで3回だけ?キリが悪すぎるでしょ。

前世のものに慣れた俺からするとありえないチャイムだ。反則だ。

ムカムカする。コレジャナイ感がハンパない。 なんなんだこのやるせない感じは!


と、 俺がうずうずしている間に先生が入ってきた。


「みんな静かにー。これから授業始めるから席につけよー。」


………は?

先生が入ってきた。

が、もしかしたら先生じゃないかもしれない。

ていうか絶対先生じゃ無いだろこいつ……


「よし、席に着いたな。じゃあまず俺の自己紹介からだ。

俺はベイル・ローカス。神父として働いている。ジョブは精霊使いだ。魔法についてなら結構詳しいつもりだから、わからないことがあったら聞いてくれ。

いろいろ困ることもあるだろうが、1年間よろしくな、みんな。」


なんでベイルさんが担任なんだよ!

いや絶対おかしいってそれはないって。というかなんでここにいるんだよ。

神父なんだから教会とかで働くのが妥当じゃないのか。


そんな俺の考もしらずにベイルさんは話す。


「じゃあ次はみんなに自己紹介してもらう。名前、ジョブ、好きなこと、それと将来やりたいことを言ってくれ。」


自己紹介か。学校に入ったらやる恒例の行事だな。

でもこの歳の子供に将来やりたいこと聞くとか難易度高くないか?

と思ったら、他の子は普通に自己紹介している。

時々適当な奴もいるが、ほとんどの子供はきちんとできている。すごいな。この世界の子供はレベル高いね。


「私はセシル・リングスです。ええっと…ジョブは……その……魔法使いです。」


お、俺の中の癒しキャラ一位の座をぶっちぎりでキープ中のセシルたんではないか!

不覚だ。この教室にいることに気づかなかったなんて……でもうれっすい!

ジョブは俺と同じ魔法使いなのか。


「好きなことは本を読むことです。将来は聖女様のような優しい人になりたいです。」


聖女様か。

地下室の本によく出てきたな。

強い、優しい、美しいの三拍子がそろった、人として完璧でありだれもが羨む存在らしい。

昔の大戦争を止め、世界に平和と均衡をもたらした実在する人物という説もあれば、雲の上から人々の安泰を願う平和の神様という説もある。

一種の英雄的な存在だ。

彼女、セシルもその聖女様のようになりたいんだろう。うんうん、凄い人に憧れる気持ち、分かるよ、ほんと。

でも、俺の中では美しいという条件既に満たしてるけどね。

いやぁ〜見てるだけで癒されるわぁ〜。マジ聖女様だわ〜。

と、聖女様を見てると目が合った。

あらかわいい。

するとこっちを見てニコッと笑った。

ぐあっ!目が!目がぁ!

水色ショートボブの小さくて幼い顔がはにかんで笑った!

しかも純粋で真っ直ぐで微妙な雰囲気をかもしだしている感じの、まさに破壊力満天のかわいさマックスの笑顔だ!かわいいっ!

あまりのかわいさに俺の目が耐えられなくて死ぬ!マジで死ぬっ!あっでもこれで死ねるなら俺の本望かもしれないっ!くぁぁあっ異世界最高だぜっ!


「次、ルーラさんどうぞ。」


俺があまりのかわいさに打撃を受け、喜び悶えている状況に釘をさすように言われる。

ああ、もう。もうちょっと余韻に浸っていたかったのに。

あの感動、初めてアニ○イト行った時以来のほどのものだったんだぞ。俺の生涯の思い出になるんだぞ。


はぁ、とため息をつきながらだるそうに立ち上がる。そして2歳の少女こと俺はめんどくさいオーラ全開で自己紹介する。


「あー、私はルーラ・ケイオスです。」


そう言った途端、教室がざわめく。

いやなんでだよ。

あ、もしかして俺が魔王のオーラ的なのを放ってて声を発した瞬間みんな気圧されてしまう的な?俺強すぎる的な?

なんて冗談を考えていると、ひそひそ話しているのが聞こえてくる。


「あのケイオス家か?」


「没落貴族だよね……あの事件の……」


「近づいちゃだめってお父さんに言われてるよ、私」


ひどい言いようだなおい。どんだけ不名誉なんだようちの家は。

昔何かしたのか?でもお父さんもお母さんも何も言わなかったし、俺も何も聞いてない。

没落……事件……。

今度アイザックさんとかに聞けば分かるかな。

まあ、今気にしてもしょうがない。

ざわめきを遮るようにして自己紹介を続ける。


「えー、好きなことはラノベを読む、パソコンでゲームする、あと新着のアニメを見まくる、あ、漫画と映画も結構好きです。」


あー今季のアニメ確認してなかったな。異世界でもどうにかして見れないのかな、アニメ。


「将来の夢はー特に決まってはいないけど、まあ幸せに一人暮らしできればいいかなと思ってます。」


言い終わって椅子に座る。

周りの様子をうかがうと、全員が全員口を半開きにしてこちらを見ていた。

頭の上にはてなマークが浮かんでいそうだ。音で表すと、ポカーンって感じ。


すると右隣の男の子が聞いてくる。


「ルーラちゃん、ええっと、らいとのべる?って何?」


かっこいい女っぽい声にして、俺は言う。


「ライトノベルとは、俺たちの夢と希望とそして叶うことのない儚い夢が詰まった、ワンダフルでビューティフルなパラレルワールド。

一冊の本の中に集約された、いわば妄想の究極系とも言える娯楽の一つである。」


すると男の子はまた頭の上にはてなマークを浮かべる。


「ああ、君たちが理解する必要はないよ。これは メイド イン ジャパン の文化の一つだから、アメリ韓国語の君たちがそう容易く触れていいものではないのだよ。」


ふっ、日本の文化力にひれ伏すがいい。

と、話題が迷走してきたので冗談はこれくらいにしておこうか。


かわいい幼女声でベイルさんに言う。


「せんせー。はやくつぎのひとのじこしょうかいしてくださーい。」


「……っお、おう。分かった。次のやつ、自己紹介してくれ。」


いやーこういう自己紹介ってなんか新鮮だなぁー。

すごいスッキリするわ〜。ほんと。


そしてこの自己紹介の影響で、今後周りの人から距離を置かれることが確定したのであった。

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