34話 招待状
「ルーラ、話があるから食堂に来なさい」
生鈴式から3日後。
昼飯を食べ終わったので地下室に行こうとすると、お父さんに呼びとめられた。
またあの時の貴族の話かな。
あのガキンチョ達と親バカ貴族の周りは面倒ごとしか起こらない気がするから、極力関わりたくないんだけどなぁ。
それよりもケモミミを拝みたいです、はい。
と思ってる間に食堂についた。
お父さんは既に椅子に座っている。
俺もお父さんの横の椅子に腰を下ろす。
すると、お父さんが懐から一枚の紙を出した。
高価そうな羊皮紙だ。紙にはたくさん文字が書いてあり、文章の一番最後にハンコみたいなのが押してある。
ハンコがあるって事は何かしらの書状とか文書かな。
わざわざ羊皮紙を使ってるあたり、大事なものなのかもしれないね。
でもなんでこんなのを俺の前に出したんだろう。
するとお父さんが説明する。
「ルーラ、単刀直入に言う。——学校に行きなさい。」
…………………は?え?
いやほんとに単刀直入というか唐突と言うか、話の流れが急すぎてついていけない。
ていうかこの文書はなんなんだ。
「まだ2歳で分からないことも多いだろうが、お前ならやっていけると信じている。安心しろ、何かあったら俺がすぐ助けに行ってやる。」
「ちょっと待ってよお父さん。一体どういうことなの。この文書は何なのかも分からないよ。きちんと説明して。」
するとお父さんは手紙を指差す。
「この手紙の内容を読めば全部わかる。とりあえず読み聞かせてあげ」
お父さんが言い終わる前に手紙をパシッと取る。たくさん本を読んできた俺に読めないはずはない。
どれどれ、何が書いてあるんだ。
—————
拝啓ケイオス男爵殿
肌寒い風が吹く季節となっておりますがいかがお過ごしでしょうか。
先日は生鈴式で息子たちが大変お世話になりました。感謝しております。
さて、年も変わり新しい行事や取り組みも盛んになってきました。
その中で新しい学校への入学に関する事で一つ提案をさせて頂きたく存じます。
先日のお礼という形ではありますが学校への招待状を進呈させて頂きたいのです。
招待状を使用していただければ入学に際する試験を確実に通れますし、入学後もとても有利に学習を進められるようになります。
息子たちも小等校への入学を心待ちにしておりますのでどうでしょうか。
よろしくご検討くださいますようお願いいたします。前向きな返事をお待ちしております。
ウェークトン 子爵 より
—————
なんだこれ……
生鈴式でお世話になったって、差出人あのバカ貴族じゃないか。
しかも文面からして俺を入学させたいだけにしか見えない。
蹴りを止められた腹いせに2歳の幼女を学校でいじめてやろうとか考えてるんじゃなかろうか。
「これは………ひどい…」
「ルーラ、もしかして読めるのか?」
「今まで地下室で何冊本を読んできたと思う?」
「……すごいな、それなら学校に行ってもなんとかなるかもしれんな……」
なんだその楽観的な考えは。
2歳の娘を自分の手の届かないところに預けるようなものなんだぞ。
忌避感とかそういうものがもうちょっとほしいところだな、お父さんは。
ていうか思ったんだが、
「これさ、断らないの?」
すると、お父さんは眉をひそめる。
「手紙をよく見てみろ。最後の方だ。」
ん?どういうことだろ。
最後の方って言ったって差出人の名前くらいしか………あ。
『ウェークトン 子爵 より』
お父さんはだるそうに言う。
「ルーラ、貴族には爵位っていうのがあるんだ。この場合でいえば男爵より子爵の方が位は上になる。自分より上の位からの依頼だとか食事の誘いだとかは断ると不敬罪にさせられかねない。つまり、そういうことだ。」
うん、そういうことなんですね。断れないとね。
わざわざ子爵って部分を強調してるし。ウザの極みですね。ていうかこんな文書書いてる暇あるんならもっと他にやることあるだろうに。
のん貴族だね分かります。
「でもまだ2歳だよ?入学して大丈夫なの?」
「ああ、7歳から入るのが普通だが2歳だとしても入れないことはない。規定では7歳以下からなら何歳でも大丈夫らしいからな。」
へー。飛び級制度みたいなもんなのかな。
でも周りが5歳も年上の中で暮らしていくって大変だと思うんだが。
最悪友達0人とかもあり得るぞ。
でもまあ、学校とか行ってみたかったし、ちょうどいい機会かもしれないね。
2度目の学園生活だね。うきうきが止まらないってね。
あ、これ前世の知識使えば超無双ゲーとかできるかも?
突然入学してきた2歳の赤ちゃんがテストで好成績を収めまくってヤパーみたいな。うんうん、夢じゃない気がする。
それにあれだ、異世界ならではの魔法の授業とかあるんじゃなかろうか。
魔法を使って的を射るとか、身体強化でマラソンとか、実践的な模擬戦をやったりとか。
魔法使いに俺はなる!うん、いい響きだ。
よし決めた。俺は行くぞ、異世界の学校。
するとお父さんが言う。
「やはりルーラにはまだ早いか…………。しょうがない、どうにかして断」
「ルーラ、いっきまーす!」
「…………」
…沈黙された。
このネタは通じないか。しょうがないな。
「行くよ、学校」
「本当か!」
「うん、行ってみたいと思ってたしね。色々大変だと思うけど、頑張るよ。」
すると、お父さんがガッツポーズを決める。
あの貴族の申し出を断るの、そんなに嫌だったのか?まあ俺も同じ立場だったら絶対嫌だけどね。
なんだかんだで、半ば強引に学校へ入学することが決定した。いや、強制送還と言うべきか。嬉しいけど。




