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33話 貴族は嫌な奴だ



俺は体の痛みを無視して、無理やり体を動かす。


極歩を使う。一瞬のうちにガキンチョの前まで移動する。足が筋肉痛で痛むが気にしない。

目の前に蹴りが迫ってくる。慌てずに身体強化を使う。

そしてそいつの足を両手で掴みにかかる。手のひらに力を込めて、ガッツリだ。


パフ、と乾いた音を出してそいつのキックを止めた。

しかし手を離さず、そのままガッチリと掴み続ける。


「おらっ……え、う、うわ、なんだ!」


突然幼女が出現し、しかも自分の蹴りを止められた彼は酷く取り乱す。


「何をするんだ……!このっ……なんで足が動かないんだ!うああ!」


ぐいぐいと動かそうとするも、彼の足はビクともしない。

まるで金縛りでも受けているかのように固定されている。

そして彼は焦りながらも言う。


「ぼ、僕は貴族なんだぞ!こんな事をやっていいと、お、おもってるのか!」


噛みながらなんか言ってくる。対して俺は強く睨みつける。

そしてできるだけ声を低くしてそいつらに言う。


「お前ら、自分がされて嫌なことは他の人にするなって、お母さんに教えてもらわなかったのか?」


「ひ、ひいぃ!」


怖がってきちんと反応できていない。ダメなやつらだ。威張ることしか頭になかったんだろうか。


まあいい。とりあえず危ないところは止められたし、警告してからさっさとカゴに戻るか。

俺は3人に告げる。


「もうここで暴れるなよ。だがそれでも暴れた時は……分かったな?」


言い終わったら、掴んでいた足を解放してやる。

なんか自分が悪役に思えるようなセリフだな。厨二くさくてはずかしい。邪王心眼かな?まあいいか。

これでもうこいつらが面倒事を起こしはしないだろう。

ひと段落ついたので、キックをもろに受けた男の子の様子を見る。

もう回復したようで、驚きの表情でこちらを見ている。ていうかそれ以外にもいろんなところから視線を感じるが気にしないでおこう。

次にセシルの方に振り返る。


床にへたりこんでいるが怪我などはしていないようだ。でも驚愕の表情をしたまま立とうとしない。


「大丈夫か?」


声をかけると、表情そのまま首を縦に振った。

精神的な面とかでダメージを負ってないか少し心配だ。が、本人が大丈夫と言ってるのなら大丈夫だろう。俺はここらでカゴに戻ろうか。


と、戻ろうとした時、後ろから声をかけられた。


「あの……ありがとう…!」


この世界に来てから人に感謝されたのは初めてかもしれない。俺は少し微笑みながらセシルに返答する。


「どういたしまして」


そして、極歩を使ってカゴの中に戻った。




*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*



「ルーラ、自分が何をしたか分かってるのか?」


「何があっても暴力はだめよ、ルーラ。争いに勝つよりも争いをしない方が大事なのよ。」


俺は今、怒られている。

生鈴式も終わり片ずけも終わり、これでやっとひと段落だな、と思った矢先。お父さんに呼ばれ、なんだろうかと行ってみたらこうなった。


怒られている理由はこうだ。

まず、俺の考え通り3人組のガキンチョ達は貴族の子供だったそうだ。

そいつらはそれぞれの生鈴式が終わった後、事のあらましを親の元へ報告。

一部始終を聞いた貴族のおばはん達はどういうわけか俺が加害者だと言い始めた。

その場を見ていて事情を知ってる人は沢山いるし、2歳の子供にそんなこと言っても意味ないだろうとも思える。

が、そこを無理やり押し通して責任をこじつけて来たみたいだ。

そしてなんやかんややっているうちに情報があやふやになり、お父さん達はこういう事を耳にした。


「幼女が貴族の子供を追い返した」


そう、これはまぎれもない事実だ。

事実だが、これだけを聞いたらどう考えても勘違いするだろう。俺が何かしでかしたと。

例に漏れず勘違いしたお父さんとお母さんは貴族のおばはん達の元へ事情を聞きに行った。

そして、子供を力づくで追い返す幼女がいたんだがどういうことだ。と言われ自分の娘がやったかもしれないと謝罪する。

そしてその件について怒られてるなう。というわけだ。


全く、貴族には誇りとか自重とかそういうのが足りてないんじゃないのか。情報改ざんにもほどがあるぜ。ファイアウォール仕事しろ。

にしてもお父さんは貴族の嘘に気付かないのだろうか。

気付かないにしても本当に俺がやったのだろうかとか疑ってくれないのだろうか。


そんな事を考えているとお父さんが聞いてくる。


「ルーラ、反省しているのか?」


ほら、これだ。最初から悪いのは俺だと信じきっているじゃないか。もう少し信じてくれてもいいんじゃないかな。

まあとりあえず自分の身の潔白を証明しておく。


「お父さん、追い返したは追い返したけどその事には理由があるんだよ。」


そう言うと、お父さんの顔が不機嫌になる。


「ルーラ、今更そういうのはやめなさい。ちゃんと反省するのが一番だとお父さんは思うぞ。」


言っている事は優しいが、言葉に少し怒気が入っている。

意味がわからない。なぜここで怒るんだ?

もしかして俺が悪い事をしたと勘違いしているのか?

だとしたら貴族の言葉をうのみにしすぎだろう。逆になぜ家族の言葉を信じないんだ。


俺はもう一回言う。


「だから理由を聞い」

「言い訳はいらん!なぜ親の言うことが聞けないんだ!そんな子に育てた覚えは一度たりともないぞ!ルーラが悪い事をしたんだから、きちんと反省しろ!」


お父さんが部屋中に響き渡る声量で怒鳴った。

……は?え?なんで怒鳴られたんだ。


「いやだから悪いのはあいつらで」

「うるさい!それ以上喋るんじゃない!黙って反省しなさい!」


え……いやいやいやなんだよこれ。

話が通じない。というか、熱くなりすぎじゃないか。もっと熱くな……んなくていいから。

するとお母さんがなだめに入る。


「あなた落ち着いて。何もルーラ一人に責任を押し付けなくていいのよ。」


「だが!」


「悪いのは私たち親でもあるでしょ?」


お母さんの真っ当な言葉を聞いてお父さんはハッとする。


「それに、私たちだけ一方的に怒るのはかわいそうだと思わないの?ルーラだって言いたいことはあるのだから、ちゃんと聞いてあげるべきよ。」


お母さん……ありがとう。

お父さんも少し冷静になれただろうか。


「……ああ、そう……かもしれないな。ルーラ、言いたいことがあるなら言ってみなさい。ただきちんと反省はしないと駄目だぞ。」


まだ怒りっぽいけどさっきほど怒ってはない。どうやら言い分を聞いてくれるみたいだ。


「それじゃあ話すよ。」


そして俺は、貴族の子供達が迷惑をかけていたこと、セシルが蹴られそうになったこと、俺がそれを止めたことを話した。

あくまでも中立の立場で、俺の感情が入った話し方にならないよう注意しながら話した。


話が終わると、お母さんとお父さんは笑顔になっていた。

お母さんが喋る。


「それならそうと最初から言って欲しかったわルーラ。疑っちゃうじゃない。」


ふふ、と微笑しながら話すお母さん。信じてくれたみたいだ。

お父さんも話す。


「本当にすまない、ルーラ。お前の言葉に耳を傾けすらしないなんてひどい事をした。疑って悪かった。」


「信じてくれるの?」


「ああ、もちろんだ。」


よかった、信じてもらえたみたいだ。これで冤罪をかけられる心配はなくなったな。


「しかしルーラ、どうやって蹴りを止めたんだ?」


ぎくっ。

ど、どうしようか。

身体強化してやりましたなんて言えるはずもない。

ばれたらまずいぞこれは。


……あの作戦で行くか。


俺は少し泣き目になりながら上目遣いで言う。


「お父さん、おなかへったよぉ…」


かわいい子アピールで切り抜ける作戦だ。 男とか女とかもうこの際構ってられねぇ。かわいいは正義である。


お父さんはまんまと作戦にはまる。


「……そうだな。そろそろ夕食の時間にするか。」


やったぜ。

かわいい子には男は弱い、全世界共通の法則だ。異世界でも申し分なく使える。中身男だけど。



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