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32話 生鈴式のお時間



今日は朝から慌ただしく、家族みんなが動いている。

なんでも生鈴式というのをうちでやるらしい。

その準備を朝のうちに終わらせなければならないそうだ。

でも何をする行事なのか分かんなくて、生鈴式について父さんに聞いてみたら


「生鈴式は、6歳の時に行う式の事だ。この式で6歳の子供は神水晶に触って、剣士か魔法使いのどちらかのジョブを授かる。それと6歳になったことを祝い区切りをつける意味もある。大事な式だ。」


ということだそうだ。ついでにそれ以外のジョブにはなれないのかなぁと思って聞いてみたら、稀に勇者とか賢者とかになる子供もいるらしい。

が、ほんっとうに稀なので期待するだけ損と言われた。そんなこと言われたら逆に期待したくなりそうだけどね。

まあ期待するといっても俺はもう俺魔法使いになったし。あ、でも魔法自体は適正ないから使えないのか。身体強化とか極歩とかも持ってるし、どちらかというと剣士寄りかな?完全にジョブ詐欺だな。



*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*



準備開始から数時間ほどたった。

地下室に行くまでの道には赤い絨毯が敷かれ、地下室は見違えるように綺麗に掃除されている。もうほとんど生鈴式の準備はできたみたいだ。


いつも使ってる地下室が、こう綺麗になっているところを見ると爽快だね。

もはや地下室が綺麗すぎて水晶が光って見えるよ。飛○石かな?まあこれ元々光ってるんだけどね。


と冗談はさておき、そろそろ子供達が来る時間帯だ。

お父さんとお母さんが定位置につく。地下室前で人を並ばせる役割のお母さんと、水晶前で子供を相手にする役割のお父さんだ

ちなみに俺はというと、2階への階段に置いてあるカゴの中だ。囚われの身である。まあ創神化の反動で体のそこかしこが痛むから動かなくてもいいし、この位置ならお母さん側の廊下と玄関側の廊下が同時に見渡せるからいいんだけどね。


少しすると、子供がたくさんやって来た。親も一緒に歩いて来てる。どちらも楽しそうな表情だ。

そしてそのまま子供が家の玄関をくぐり中に入ってくる。親は入らず外で待つみたいだ。


入って来た子供達を慣れた手つきで誘導し、地下室への階段の前に並ばせるお母さん。

お母さんが誘導した子供を、今度はお父さんが相手する。地下室で水晶に触らせて救いの言葉的なのを言うらしい。

それが終わると子供は元来た道を歩いて親の元へ向かう。この一連の流れを繰り返していく。


時間が経つにつれだんだん子供の数も増えて来た。子供達の列も玄関付近まで伸びている。子供が沢山いて微笑ましい光景だ。まあ子供達の顔は不安そうだけど。人生の区切りとなる式らしいし、不安になっても当然か。

しっかし、不安なくせに口は動くのな。廊下が子供特有の高い声でざわついててなんか落ち着かない。全く、それさえなければかわいい子達だっていうのに、ちょっとイライラする。


と、玄関前にベイルさんの姿を見かける。この前会った時のような怖い顔はしておらず、にっこり笑顔だ。こちらまで笑顔になっちゃうぐらい明るい顔だ。あれが本当のベイルさんなんだな。すごく優しそうだ。

隣にはハンナさんもいる。ハンナさんは、俺を見て「きゃーかわいー!」と言って顔を手で覆って、また少しすると俺を見て、を繰り返している。どこの女子高生だよ。

でもなんでここに二人がいるんだろう。あ、そういえばベイルさん、かくまってる子がいたんだっけ。もしかしてその子の生鈴式をしにきたのかな?

ちょっと周りを見渡してみる。

と、子供達の中に見覚えのある水色の髪が見えた。

あれは、この前魔物から助けたセシルじゃないか。小さい顔にショートの髪がよく似合ってて今日も愛嬌が溢れ出てますね。うん、かわいい。

ちょっといいものを見たから俺のイライラが消えた。ストレス解消だね。


なんて一人で盛り上がっていると、玄関の方からうるさい声が聞こえてきた。

なんだなんだと思って見てみると、男の子3人がふざけながら喋り散らしている。ときおり笑い声を上げるが、それがまた廊下に響いてうるさい。周りの子供達も迷惑そうにしている。

まったく、しつけがなってないな。親は一体何をしてるんだ、と思って玄関の方を見ると親らしき女性が3人いた。女性、というよりかはおばはんだな。大人は入っちゃダメなはずの玄関の中に足を踏み入れ、子供に向けて何か言っている。


「いい子だから勇者になりなさい!勇者よ!」

「ああなんてかわいらしいわたくしの子供!」

「坊ちゃんなら普通の平民とは違う特別なジョブにつけるはずだわ!」


ひどい親バカだな。そんなに甘やかすからあんなだめな性格になるんだよ。周りの人のことも考えずに行動するダメ人間にね。

でもまあ、そんなことやってればそのうち周りからヤジが飛んで来るだろう。俺が文句を言うまでもないだろうし放置でいいかな。


……誰も何も言わない。どういうことだ。ここには結構な人数の大人がいる。みんな分かってるはずだ。この人たちのやってることは良くないことだと。早く止めたほうがいいと。

なぜ止めに入らない?そう思っていると、周りの人たちの様子がおかしい事に気づく。

見ているのだ。3人の親バカの奇行を、まじまじと。それでいて見て見ぬふりをしている。なんでだ?早く止めに入ろうよ。


もういっそ俺が止めてくるか?

いや、早まっちゃだめだ。もしかして俺が勘違いしてるだけかもしれない。理由があってやってるとか、こう言う時に怒ってくれる人がいてその人が来るのを待ってるだとか。

俺はこの世界のことについての知識が乏しい。生鈴式だって今回が初めてだ。はっきり言って分からないことの方が多いだろう。

ここで止めに入っても俺が悪い事をしたというふうになるかもしれない。

それに他の人が止めに入るかもしれない。

ここは我慢だ、我慢。見て見ぬふりをしたいわけではないが、俺が手を下さないといけない場面でもない。我慢しよう。




ガキンチョ3人が騒いでいる。他の子供はみんな嫌な顔をして見ている。我慢だ我慢……


少し列が進んでうるさいのが近づいてきた。ゲラゲラうるさいなほんと。でも我慢我慢……


っと、ちょうど俺の前に水色の髪が来た。セシルだね。目の癒しだ。これでうるさいのも我慢できるな。


列が進んでさらに奴らが進んできた。うるせぇ。けど我慢しないと……


と、急に3人が静かになった。

なんでだ。改心したのかな。急に静かにされると拍子抜けするんだけど。

そう思っていると、3人はひそひそ声で話す。そして話し合いが終わると、前に並んでる子供を蹴ったぐった。そして3人の中で一番図体のしっかりしてるやつが言う。


「僕の前に並んでいいと思っているのか!平民はそっちの方にいけ!」


……は?何言ってるんだこいつ。ありえないだろ。誰か止めないのかよ。

しかし誰も動かない。大人すら動こうとせず黙ってそっぽの方を向いている。分かっているはずなのに。


なんだよ、これが普通なのかよ。あれか、こいつらはお偉い貴族さんだから手を出したらいけないって言うルールでもあるのか。

今俺が助けに行ったら怒られるのは俺になるのか。悪いのは俺なのか。いやそんなのが許されるなんてありえない。くそ。


……落ち着けよ俺。まだ子供が一人けられただけじゃないか。ちょっとじゃれあっただけかもしれないぞ。俺は異世界について知識が少ないんだ。いっときの感情に左右されちゃダメだ。我慢我慢……


腹を蹴られてうずくまってる子供を越してあいつらは先に進む。我慢……


セシルの前まであいつらが来る。なんだか、嫌な予感がする。でも……我慢……


すると、図体のでかい奴が言う。


「おい、お前も邪魔だからどけ!」


そして思い切り蹴ろうとする。




……………もう我慢できねぇ!


痛みを無視して俺は動き出した。


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