31話 事後整理
諸事情で投稿できませんでした。すいません。
真面目回です。
……ゆっくりと瞼を上げると天井が見える。あれ、俺外にいたよな、と思いながら身体を動かそうとする。
「……んうぅ…いたっ」
腕が痺れるように痛い。なんでだ?……ああ、さっきの戦闘の反動か。そうか俺は気絶してたのか。
ここは……家の寝室か。ということは一応助かったみたいだな。
「ルーラ?ルーラっ!生きてる、良かった!」
エマ姉さんか。てか俺は森の中だったはず。なんで家にいるんだろ。そういえばあの後……そうだ、助けたあの子は大丈夫なのか?
キョロキョロと周りを見ていると、近くにいたお母さんが状況を察したようで話してくれる。
「安心してルーラ。あの子は無事よ。」
ふうーと、ため息をつく。良かった。あんなに苦労して魔物追い払って、あの子だけ助かりませんでしたじゃあ悔やんでも悔やみきれないからな。
すると急に部屋の扉がバタンと開いて慌てた様子のお父さんが駆け込んできた。すぐに俺のそばに寄ってきて声を出す。
「ルーラ!起きたのか!大丈夫か?体が変だったりしないか?俺が誰だかわかるか?」
「わ、分かるよお父さん」
「そうか……良かった。本当に無事で良かった……」
そのままお父さんに泣きながら抱きしめられる。あれ?俺ってお父さんに嫌われてたよな。こんなに心配してくれるぐらい関係良くなかった気がするんだけど……
そう考えているとまた扉が開かれ、知らない男の人が入ってきた。あれ、この人どっかで見たことがある気がするな。誰だっけか…
と、その人が喋る。
「無事目を覚ましたようで何よりだ嬢ちゃん。それじゃあ嬢ちゃんの容態も落ち着いたみたいだし下で状況を話し合おう。」
みんな俺のことを待ってたのか?ていうかどういう状況なのかうまく飲み込めない。
俺の混乱をよそに、みんな一階へ移動する。お父さんも泣き顔から切り替えて移動し始めた。
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ということで一階の食堂にみんな集合した。俺は体を動かせないのでカゴに入れられて持ってこられた。
みんなそれぞれ食堂の椅子に座っていく。俺はお父さんの隣の席に置かれたカゴの中に座っている。特等席かな?嬉しくないけど。
「みんな集まったみたいだな。じゃあまず俺が今までの経緯をまとめて話す。」
さっきの男の人が話すみたいだ。すると椅子から立ち上がってお父さんが話に割り込む。
「待て、その前になぜここにベイルがいるんだ。」
ベイル……ベイル……ああ、町の武器屋にいた人か。どうりで見覚えがあるわけだ。
「まあ落ち着けハドソン。それも含めて話をする。」
ベイルさんの言葉にお父さんも座り直す。するとベイルさんは落ち着いた表情で話し始めた。
「俺は今日の朝方に馬車でこの森に来た。調合の素材が足りなくなったから、ここに取りに来たんだ。
それで、この森に着き素材を取り始め少したった時、ヘビの魔物が現れた。そいつは変なヘビで、倒した瞬間紫の煙を出してそれ以外は消えたんだ。気味が悪いったらありゃしなかったぜ。そして倒したらものすごく嫌な予感がした。そこから離れないとやばいって感じの、まあ勘だ。それで俺は採集をやめようと思い馬車に乗ったが、もう遅かったのかもしれねぇな。
馬車に乗った瞬間、あいつが現れた。四足歩行の黒い虎で、でかい魔物だった。前足の筋肉をパンッパンに膨ませてこっちに飛びかかろうとしてるところだった。
恐ろしさで震え上がったぜ。一目で俺の敵う相手じゃないと分かったぐらいの威圧感だった。俺は急いで馬車を使って逃げたが、あいつの足は速かった。馬車で逃げ切れるほど甘くねぇってこったな。少しして追いつかれると爪で馬車が破壊され、移動手段が無くなった。もう打つ手が無くなって絶体絶命だったな。もう終わったと思った。
だが諦めかけたそん時に、いきなり横の方から尋常じゃない気配がしてな。そしてその気配の主が虎をぶっ飛ばしたんだ。虎は死にはしなかったが一瞬気絶して怖気付いたみたいで、立ち上がった後逃げてったよ。
それで虎を吹っ飛ばした奴はどんな強者なんだってことだが、それが嬢ちゃんだったって訳だ。これには虎を見た時より驚かされたぜ。まあ嬢ちゃんはすぐにぶっ倒れたし恐ろしい気配もなかったがな。しかも攻撃を食らったわけでもないのに重傷だった。俺は急いで嬢ちゃんをこの家に運んでライリーさんに治療してもらったってわけだ。これが今までの経緯だ。」
なるほど、俺が気絶した後はベイルさんが運んでくれたのか。そしてお母さんが治療してくれたと。結構ひどい怪我と出血だったと思うけど、これも魔法の力で直したのかな?お母さんすげぇ。
するとお父さんが何か納得しないような顔をしながら口を開く。
「そういうことがあったのは分かった。だがとりあえずそれは置いておいて、その子はなんなんだ?」
ベイルさんの横に座っている青い髪の少女を指差す。それにベイルさんが答える。
「こいつはセシルだ。捨て子というか孤児みたいな感じで、俺とハンナの二人でかくまってやってる。熱があったんでライリーさんに診てもらおうと思って連れて来たんだが、この事態じゃそんな暇無かったという訳だ。」
俺が助けた子はセシルっていう名前なんだな。短い水色の髪に小さい顔、異世界特有の可愛さがある。まあ恋愛対象にはならないと思うがな。俺の体、女だし。
と、お父さんがまた喋る。
「そうか……すまない、別にベイルにあっちの趣味があるのかもしれないと疑ったわけでは無いんだ。許してくれ。」
「疑ってないのなら謝る必要が無いだろうが……全く、なぜこんな時にそういう事を考えられるんだ。」
お父さんそんなこと考えてたのか。もっと重大な事を考えてるのかと思ったけど、意外とユーモアだな。
くだらない話題からベイルさんが話を戻す。
「まあそんな話はいいんだ。それより俺が言いたいのは、嬢ちゃん。何か言いたい事とか言わなくちゃいけねぇ事、ないのか?」
急に話を振られてびっくりする。そうか、確かに魔物に襲われた時の状況とかを一番よく知っているのは俺だ。俺はどういう力を使ってあの虎を吹っ飛ばしたのか。なぜそんなことが出来たのか。俺は一体何者なのか。それらを全て俺は知っている。自分は誰で、何なのかを。
しかしそれを全て話していいのか。それを話した家族は俺を見放すかもしれない。見放さないとしても家族として扱ってくれなくなるかもしれない。話すべきことと話すべきじゃ無いことは一体どれとどれなのか。
俺は何から話せばいいんだ?言葉にしようとしても全然出てこない。
「あ……ぅ……えっと……」
うまく言えずに迷っているとベイルさんが再度声をかけてくれる。
「そう難しい事を言えというわけじゃねぇ。家族に対して言うことだ。何か少しぐらいあるだろ、言いたい事。」
俺はそれを聞いてハッとした。俺は一体何を考えていたのか。一番最初に言うべきことなんて決まっていたじゃ無いか。なぜそんなことも分からなかったんだと自責の念を噛み締め、言う。
「お父さん、お母さん、エマ姉さん……ごめんなさい、勝手に森に行って……」
すると、お母さんがふふっと微笑む。
「いいのよルーラ、ルーラが生きていれば十分だわ。あなたもそう思わない?」
「ああ、母さんの言う通りだぞルーラ。ただ今度からは、森に行くときはちゃんと声をかけるんだぞ。」
お父さんとお母さんの優しい言葉が逆に胸に刺さる。自分のことしか考えてなかった自分が情けないよ……。あれ、エマ姉さんの反応がないな。
「………ぅうん……」
あ、話の途中で疲れて寝てたみたいだ。いいなぁ、何も感じないって。
するとベイルさんが笑い飛ばす。
「ガハハハッ!お前のお姉ちゃんは呑気に寝てるじゃないか。まったく、平和でいいもんだな。嬢ちゃんも見習って能天気になったらどうだ?」
ベイルさんにつられて苦笑してしまう。本当に呑気なことだ。でも、考えすぎるっていうのもいいことではないし、少しは見習おうかな。
っと、そういえばお父さんに聞きたいことがあったんだった。
「お父さん」
「うん?なんだ、ルーラ」
「お父さんって、その……私……のこと嫌ってたのに、なんで今は普通なの?」
「ああ、その話をしていなかったな。ベイル、説明してやってくれ。」
するとお父さんに代わってベイルさんが説明してくれる。
「他のみんなには嬢ちゃんが目を覚ます前に言ったんだが、嬢ちゃんには状態異常がかかってた。しかもかなり高度で精密な魔法陣が刻まれたものだ。すぐに破壊したからあまりよく内容は読み取れなかったが、精神を乱して特定の場所に誘導する感じの効果だったと思う。今までの状況を見るに、それのせいでうつ状態にされた上で森に誘導されたんだな。」
え、俺そんなデバフにかかってたのか。
「その影響が強く出て、周りにいる家族に負の感情を持ったんだと思うぞ。そうでもなければ家族に嫌われてるなんて普通思わないからな。」
なるほど、言われてみれば確かにあの時の俺の感情はおかしかったな。根拠もなしに後ろめたいことばっかり言って、そして自暴自棄になって魔物に突っ込むなんて普通はしないだろう。臆病な性格の俺なら尚更だ。でもそれが無くなったからか、今は普通に元気だ。
ベイルさんは続ける。
「多分お父さんとお母さんに嫌われてるというのは思い込みだ。だから安心していい。二人ともお嬢ちゃんのことを一番に考えていると思うぞ。」
お父さんとお母さんの方を見る。どっちも優しい顔で頷いてくれる。
なんだ、俺の勘違いだったのか。まじかよ。じゃあ俺の考えてたこととかは全部取り越し苦労だったってわけか。なんか無駄に働いた気分だ。でもこれでやっと肩の荷が降りた。問題解決してスッキリだ。ふぅ。でも状態異常を直したのってベイルさんなのかな?どうやって直したんだろ。質問してみようか。
「ベイルさんが直してくれたの?」
これにはお母さんが答えてくれる。
「そうよ、直してくれたのはベイルさんよ。だからきちんと感謝しなさいね。」
すると苦笑交じりにベイルさんが言う。
「これでも精霊使いの端くれだからな。それぐらいできて当然だ。それよりも俺は嬢ちゃんには助けられたし、どちらかというと感謝しなきゃいけねぇのは俺の方だ。」
え、ベイルさんって精霊使い?結構ムキムキだし顔からして鍛冶師とか剣士とかそういうのだと思ってた。人は見た目によらないって奴だな。
と、不意にお父さんが口に出す。
「そういえばルーラがどうやって魔物と戦ったのか聞いてなかったな。」
うっ。それはちょっと、いやかなり答えにくい。何気一番嫌な質問だ。どうしよう、なんて答えようか……。とかんがえているとお父さんが言う。
「……まあ今日はいろいろあって疲れたし、それはまた今度にするか。その前に腹も減ってきたしちょっと遅いが昼食を食べよう。みんなそれでいいか?」
あ、あっぶねー。これ以上追求されたら危うかった。セフセフ。でも次同じことがあったらもうピンチだな。ちゃんとどう答えるか考えとかないと。
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その日の夜中、ハドソンとベイルは食堂で話していた。
「ハドソン、今日起きたことについてなんだが」
ベイルが眉に皺を寄せながら言う。
「はっきり言ってかなりおかしいと思っている。」
それにハドソンも共感する。
「お前もだったのか、ベイル。今回の一連の騒動には俺も引っ掛かりを感じていたところだ。ここの森は魔物も一応出るには出るが、お前が対処できないような個体が出るなんて聞いたことがない。」
「ああ、あの魔物は異常だったな。あんなに強いのを見たのは久々だ。パーティ組んでしっかり準備してから戦うようなデカブツだったしな。
でもそれを言ったら、お前の娘さんも異常だったぞ。なにせそのデカブツをぶっ飛ばしたんだからな。しかも移動速度が速すぎて目で追えねえときた。あれは2歳児が出せる実力じゃねぇ。何かしら裏があるぞ。」
自分の娘のことを指摘されたハドソンは少したじろぐ。ベイルはさらに問い詰める。
「お前も親なんだから何か知ってるんじゃないのか?このことに俺は無関係じゃねえし、真相を知ってるんなら教えて欲しいんだが。」
「い、いや、俺の持ってるルーラについての情報は、ステータスについてだけ言えばほぼ皆無だ。何も知らん。」
ハドソンが慌てて答えるがベイルは引かない。
「本当か?嬢ちゃんにかかってた状態異常もかなり高度なものだった。あれも人為的なものと見て間違いない。つまり嬢ちゃんは誰かに狙われてるかもしれねんだ。」
「……ベイル、つまり何を言いたいんだ」
するとベイルは真剣な表情で答える。
「俺は小せえ頃に妹をなくした。もうその事については気にしてはいない。だがな、お前が同じような目にあって悲しむ姿を見たくねぇ。そのためにも協力させて欲しいんだ。だが今は圧倒的に情報が足りねぇ。このままじゃどうにも動けないんだ。」
「それで俺に情報を?」
ハドソンの言葉にベイルはコクリと頷く。しかしハドソンは苦言する。
「すまない、本当に何も知らないんだ。自分の娘の事も知らないなんて情け無いな俺は……」
そんな様子のハドソンを見て、ベイルはため息をつく。
「はぁ、そうか。別にお前が自分を責める理由はない。先に聞いたのは俺だしな。俺も変なことを聞いて悪かったな。」
「ああ……だが、この件はアイザックさんにも報告しないとな。ルーラにもそのうち事情は聞いてみようと思う。その時はよろしく頼む。」
「ああ、わかった。一人で抱え込むなよ。」
おやすみ、と言ってベイルが2階に上がっていく。ハドソンはなんとも言えない欠落感を感じながらベイルの背中を目で追った。そしてベイルの姿が見えなくなるとため息まじりに呟く。
「ルーラの事は好きだが、ルーラの変な性質は好きになれんな………特別な物とか新しい物はいいから、普通でいてくれよ……」
くぐもった声を響かせ、そのまま椅子で眠りにつくハドソンだった。
1話を長くして投稿ペースを落とそうと思います。気まぐれで逆もありうるかな?