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30話 俺にできないこと、俺にしかできないこと




すると、魔物がゆっくり、高く、今にも振り下ろさんとするように腕を上げた。


この状態を一言で表すとすれば、絶体絶命がぴったりだろう。死の直前といってもいい。ここで俺は何をできるのか。はっきり言って俺にどうこうできる話ではないよな。相手をするにも、こんな魔物相手だと指一本触れるだけで弾き飛ばされそうだ。それぐらい圧倒的な力量差がある。それぐらい俺にも分かる。

思考もネガティブだ。逃げてもデメリットはない。むしろ逃げるが勝ちだ。余計なことに首を突っ込むべきじゃない。見て見ぬふりはやむをえない選択であるべきなんだ。そういう考えが渦巻く。実際俺もそうしたい。前世でもそうだった。はっきり言って逃げるということは勇気が必要だと思う。今までを捨て、プライドをズタズタにする勇気が無いと決して真っ向から逃げるなんてできやしない。

だから逃げる勇気は大切だ。逃げれる俺はしっかりしている。そう思っていた。


だが……こんな俺でも、できることがあるんじゃないか?

側から見ればゴミだ。側から見なくても俺はゴミだ。そうに違いないだろう。前世でも今世でも逃げようとしたんだから。俺も否定しないさ。

でもさ、やっぱりさ。


少女一人の笑顔ぐらい、守ってやりたいよな。


「『両手剣』作って」


《【創造魔法LV∞】によって 両手剣 が作成されました》


空中に大きめの両手剣が生成される。それを両手で軽く握る。身体強化をかけているので重くは感じない。

ここで諦めて一目散に逃げてしまいたい。どこかでそう思う。だが、俺はもっと思う。こんなところで無理だと割り切って投げ出しても、何も変わらない。目覚めが悪くなるだけだ。それにこの子を救えて死ねるのなら、この苦境に立ち向かう意味も出てくる。腐った俺でも、少しは光って死ねるかな。


「創神化」


ぶわっと溢れ出た魔力が周囲を圧する。剣と体に青白い光を纏い、人知を凌駕した力を限界以上に引き出す。耐えきれなくなりそうな体がギシギシと悲鳴をあげ、剣に亀裂が入るが構わず進む。


妄想だって分かってる。願望だなんて分かってる。だけど、こんな俺でも、腐った俺でも、……目の前のこの子だけは守ってみせたい!


「うぉぉおおおおおおおお!!」


魔物が縦に爪を下ろしたと同時に地面を蹴り、極歩を使って一瞬で魔物の爪の前に出る。両手で握った剣で、勢いを乗せた渾身の剛撃を横薙ぎに放った。激しくぶつかり合った爪と剣の間で火花が散る。そのまま両者の力は少しの間せりあう。が、爪の力が僅かにゆるいだ瞬間、剛力のこもったその刀身が爪を一刀両断し、勢い衰える事なく剣を振り払い魔物を吹っ飛ばした。

魔物は周りの地面と木を巻き込みながら飛ばされて行き、100m飛んだところで地面に爪を立てようやく止まった。剣を突き立てられた魔物の胸は硬い表皮をも貫かれて赤く滲んでいたが、致命傷ではないようだった。

魔物はしばらく倒れたままだったが、一回ビクっと痙攣してからむくっと起き上がり、こちらを少し睨んだ後森の奥の方へと俊敏に逃げて行った。


「ハァ……ハァ…っぐ…ハァ……なんだ……意外と、…楽勝じゃないか……」


行きをたえだえにしながらも呟き、気づく。そういえば後ろの少女はどうなっただろうか。

振り返ると、少し後ろの地面に少女が座っていた。目は赤くなっており、頰には涙の伝った跡がある。が、彼女の顔には不安な表情など一切なく、代わりにこちらの腕を見つめる驚きの顔があった。その後ろにいる男性も同じ表情でこちらを見ている。

なんのことかと思い、自分の腕を見てみる。肘から先はボロボロになった血管が浮き出て、皮膚が引き裂かれたようにちぎれ、間からドクドクと赤黒い血が流れ出していた。しかし痛みは全く感じない。神経が麻痺しているのだろうか。


なんだこの腕、俺の、なのか?そうだ早く、止血、しな…い……と……。


そこで俺の意識は途絶えた。




やっとまともな戦闘をかけました(一つの念願)

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