29話 止められない衝動と暴走
最近なんか気だるい街に行った日からかな。多分慣れない環境になって疲れが出たとかそんな感じだろうけど、めっちゃだるい。後ろめたいというかネガティブ思考というか、本を読む気にもなれない。ずっと寝てたい。なんでだろうね、急にやる気失せるなんてね。
アメリーさんとかエマ姉さんとか、顔を合わせるのもめんどくさい。お父さんお母さんも言わずもがなだ。別に俺もあっちも何もしてないけど、逆にそれがいらつくというか、親としてもっとやれることあるんじゃないかというか、見ててムカムカしてくる。あとエマ姉さんもあんな性格なんだしあんまり関わりたくなくなってきた。
アメリーさんはよくしてくれてるとは思うけど、それだけだ。それ以上でも以下でもないと思ってる。まあ人ってそんなもんだとは思うが、やっぱりもう少し気を使うだとかそういうのが欲しいよな。全く、最近はなんか嫌な感じだ。気持ちが落ち着かない。
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外に出た。アメリーさんは他の仕事中らしく気づかなかったみたいだ。
外は3日前町へ行くときに見た時と変わりない感じだ。きちんと手入れされている庭が横にあるがどうだっていいや。手入れされていてもされていなくても俺には関係ない。
前には町へ続く道がある。粘土質の土が固まった荒道で、雨が降ったりすると踏み込んだだけでグジャっとなるような感じだ。いい道とは思えない。が、今の俺には丁度いいなと思った。こんな不貞腐れてると自分でも思える今の俺が通るぐらいならこんなんでも十分だろう。そうだ、この家にいてみんなに迷惑をかけるんだったら街に行って出稼ぎでもすればいいんじゃないか?地下室にこもってたって魔法は使えないし、本だってほとんど読んだし、この家にいるメリットはあまりないと思うしな。
そうと決まれば善は急げだ。早速町へ向かうか。身体強化を使って町の方へ走り…
走ろうとしたら後ろから持ち上げられた。もがくが抜け出せない。
「こら、ルーラちゃんだめですよ勝手に抜け出しちゃ。」
ちぇ、見つかったか。めんどくさいな。ああこの家にいても何もかもがめんどくさい。はやく外に行きたいな。魔物でも殴っていたい。
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3日たった。
何回も町へ行こうとしたがことごとく止められた。何回かお父さんにも怒られたが、知らんぷりだ。
ああ、最近ほんとにだるい。
もう本当にやる気がなくなっちゃって、というか無くなりすぎて、街に行った日以来何もしてない。どうせ何しても属性適正ないし……みたいな感じ。なんかどうでもよくなってきた。最近はお父さんやお母さん、エマ姉さんもあまり俺の事を見なくなってきた。心配して色々言ってきた時期もあったが、もう相手をするのが面倒なんだろう。まあ心配をかけていないなら別にいいんじゃないかな。1人で苦しんで1人で悩めばそれで十分だと思うしね。
ただアメリーさんだけは俺を心配してくれている。毎日地下室に来て声をかけてくれるのだ。でも、なんかやる気が出なくて結構無視とかもしてる。反応するのもだるい。属性適正が無いって思うだけで疲れがどっと出る。もうこれ以上はいいんだよな、こういう理不尽な待遇って。ああ、前世と同じような感じになって来ちゃったな。まあそれでも、いっか。どうせ俺はこんなちっぽけな存在なんだよ。これくらいが妥当な人生なんだよ。うん。
だが何もしないというのも癪なので、街ではなく反対方向の森の方に抜け出して来た。案の定アメリーさんには気づかれなかったみたいだ。うまくいったな。
という事で、今日は森に来ている。魔物が時々出てきて危ないらしい。けど、別にそれで死ぬんならそれくらいの器だったんだなぐらいにしか感じないし、いいでしょ、それでも。もはや誰も悲しまないんだし、こんな無能な俺なんていない方がマシだとか思ってる奴もいないとは限らないし。
ああ、ケモミミ……、しょうがないか。俺の力が及ばなかっただけだ。もしできるならもう一回転生したいな。普通に男として、できればこういう縛りプレイ無しで。
森の中を歩いていく。家の裏からまっすぐに、深い森を歩いていく。もう既に方向感覚は曖昧だ。憂鬱な曇天の空模様の中、気の抜けた足取りで道もない荒地を進んでいく。と、遠くから何かの遠吠えが聞こえてくる。そろそろ魔物に会ってもおかしくないところまできているのだろう。だが、躊躇いなく進む。諦めの感情からというのもあるが、進化したスキルを使い、戦って勝つとまではいかなくとも逃げるぐらいならできるだろうと見立てている。それに死んだとしても何も失わない。何も心配することはなかった。
歩いていると、さっきの魔物のものと思われる雄叫びが聞こえてきた。さっきよりも近い。魔物はそんなに叫ぶのが好きな生き物なのだろうか?まあ、どうでもいいか。
すると、今度はかなり近いところで聞こえた。少し歩けばその主の顔が拝めるだろう。親には、魔物の叫びが聞こえたらすぐに家に戻れ、魔物を見つけたらすぐに逃げろ、と釘を刺されている。…が、好奇心がそれを許さない。ちょっとだけ、ちょっとぐらいなら大丈夫。逃げるだけなら俺にもできるだろうし、魔物がどんな生物でどの程度の強さなのか。それも知りたかった。ので走り出した。
と同時だった。前の木がなぎ倒され、馬車が粉々になって破壊され木と一緒に吹っ飛ばされてきた。極歩を使って逃げるが、頰をギリギリかすめて血が滴る。
見ると、それは虎だった。でかい。3mはある高さ、鋭い爪、そして鬼のような形相。見ただけで怖気付く者もいるだろうその貫禄は、周りにいる生物を軽く圧倒しているかのように思える。魔物だ。
しかし、その目はこちらではなく足元の子供をしっかりと捉えていた。身長が110cmぐらいで俺より少し大きい女の子だ。年は5、6歳ぐらいだろうか。恐怖に打ち震え泣いてしまい、何もできないと行った様子でへたりこんでいる。そしてその子の後ろには男がいた。親だろうか。だが全身打撲したような感じでまさに満身創痍だ。片膝をついた状態で子供の方に手を伸ばしているが、間にある数メートルの距離が縮まることはない。もうこの状況では起死回生の一発逆転なんてできないだろう。
すると、魔物がゆっくり、高く、今にも振り下ろさんとするように腕を上げた。




