プロローグ
キキィィィ! ガトン!
鈍い音を立てて飛ばされる。あばらを何本か折ったのだろう少年は、あまりの痛みに悶絶している。
「キャァァァッッッ!」
少女の悲鳴が轟く。
目の前で酷い惨事を見たその少女は驚きと恐怖で地面にへたり込んだ。
目の前の少年は頭から血をだらだら流している。もう長くは持たないだろう。
少年は死に際に呟く。
「これで……俺の生きていた意味が……できたな……ゴフッ」
吐血すると共に少年は深い暗闇に落ちて行く。
(女の子、パンツ見えてるなぁ)
それを最後に少年の思考は完全に停止した。
*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*
「……さい」
……ん。なんだこの声?
「……てください」
……眠いんだけど。もうちょっと寝させてくれよ。
「起きてください」
バサッと音を立てて起きる。
……なんか眠いな。うーん、まいいや。気にしたら負けだ。寝よう。
「起きてくださいぃぃ!!」
「……ゔぁっほい!!」
っておい驚かせるなよ! びっくりして変な声出しちゃったじゃないか。
悪い目覚めだな……って、え?
そこには、白にも黒にも見える、不思議な色の髪を下げた、美?少女がいた。
頑張って俺のことをにらみつけようとしてるみたいだが、あんまりにらまってない。うん、めんこいなやぁ……いたっ!
「誰が『めんこい』ですか! 私はあなたより千も二千も年上です! 敬ってください!」
キンキンうるさい声だな。てか千も二千も年上とか、見た目は子供で中身は超ババァじゃねぇか。どっかの名探偵もびっくりだな。
……あれ?
「俺の心を読んだ?」
「まあ、あなたの心を読むぐらいどうってことないですね。あと中身ババァじゃないです!」
「よく俺の心読めんな」
「でしょう? すごいでしょう?」
「わーすごいすごーいぱちぱちぱちぱち。……で、ここどこ?」
「あーもーいいです! 一回しか説明しませんからちゃんと聞いてくださいね!」
全部聞き終えた。
「ええっ! それってつまり、俺は死んじゃったけど、死に方がかわいそうだから今から異世界転生しますよってことじゃねぇか……ちょ、ええっ!」
びっくりしすぎて二回回驚いた。
こいつの話によると、ここは次元の狭間(死と生の狭間とか、世界と世界の中間とかとも言うらしい)であって、目の前の子供は言わば神様。
そして、儚く命を散らした儚いこの僕の儚い運命に悲痛を覚えた神様が、転生者として儚い僕を生き返らせた、ということらしい。
いやぁ、聞いてるだけでゾクゾクしたなあ。いやぁ、まさかこの俺が異世界転生をすることになるなんて、いやぁ、日頃の心がけが良いからだな。うん。
「要約すればそうなります。まあ半分は別の理由ですが。」
別の理由?
「はい。あなたが行動するたびに、いやあなたが存在するだけで、なぜか定められた運命や世界の理がぶれるのです。もうすでに、時空の歪みまで発生しています」
「俺つえぇぇ!」
「そんな存在を天界に送り込みでもしたら、一体何が起こるか見当もつきません。天界に綻びが生じたり、崩れたり、最悪天界ごと消滅するかもしれないのですよ。
だから仕方なく私が転生させてるということですね。もう半分は、いや、9割以上はその理由ですよ」
「いや、9割以上の理由がそれっておかしいだろ! 俺かわいそうだから転生させてくれるって話だったろ!」
「いえ、私女神なので、いつもなら女神っぽく慈悲を差し上げますよ。というか、送られてきた方が私を敬い崇めるのが普通なんですよ。でもあなたを見ていたら面倒になってしまいましてつい本音が」
「いやでも、死ぬ直前に女の子助けたし! 僕良い子だよ!」
「ああ、言い忘れてましたね。もしあの時あなたが助けに入らなかったとしても少女は助かってましたよ」
「……は? いやでも怪我したり」
「しません。無傷です」
「え? なんで?」
「実はトラックの運転手はあの少女の父親で、いつも通りカッコつけて派手に車を止めようとしただけです。
それをあなたは少女が引かれそうになっていると勘違いして飛び込み、あなたが死んだ。ただそれだけです」
まじ……かよ。
「ふふっ、覚えていますよ。確か『これで……俺の生きていた意味が……できたな……(キリッ』でしたっけ? かっこいいですねぇ」
「やめてくれ! 俺は良いことをたくさんしてきた善人だからやめてくれぇ!」
「あらそうでしょうか。あなたのやったことといえば、女の子のパンツをチラッと見ようとしたとか、生涯ぼっちだったとか、女の子の」
「やめろ! それ以上掘り返すんじゃない!」
「あら、まだまだあるのですが……」
「分かった俺が悪かったから! もう終わりにしようその話題!」
「しょうがありませんねー。転生先ぐらいではちゃんとしてくださいね?」
「はいはいちゃんとしますよ。それで、転生先の情報とか」
「それじゃあそろそろ時間なので転生してどうぞ。」
「ちょ、まだ説明されてな」
なんの説明も受けず転生した。