A:side
Aランクサイドです(*´ω`)。
羊を数えて得た眠りが覚め、
迷える贄は何処へ行くのか。
──VAAAAA!!
──VAAAAA!!
──VAAAAA!!
「──あぁっ、もうっ! こんな……!」
剣技職の訓練時代でも、
こんな、くそみたいな起き抜けは無かったッ!
お日様は、まだ地面の向こう側に沈んでいる。
ああ、起き上がる時に、
胸が、世界に抵抗する!
私の左太もものプレミオム・アーツは、
聞いたこともない音を、
寝起きの頭に叩きつけてくる。
すこぶるサイアクだわ……。
──VAAAAA!!
──VAAAAA!!
──VAAAAA!!
「うるさいったら!!」
深夜に、一番出しちゃいけない音だってーの!
「いやーな予感しか、しないったらねぇえ……!!」
深紅の肌着の上に簡単に着込み、
アイテムバッグを持って、一階に降りる。
即座に、妹に声をかけた!
「──ヒキハ! あの二人は何処!?」
「おっ、お姉ちゃん……!」
──……!
ちっ……おそかった──!!
すでに店内のベンチに、
金と銀の少女はいない!
「説明なさいッ!」
「っ……! 変な音がして、私もあの二人と飛び起きたんです! ふたりは血相を変えて……出ていってしまいましたわ!」
「ジーザス! レベルダウンの事は伝えたの!?」
「いっ、言おうとしたのですが、あっという間に外へ──」
妹は可愛くヒヨっている。
あぁ……、サイアクだわ。
この分だと間違いなく、
あの主人公ちゃん達のプレミオム・アーツも、
私のと同じく……ヴァーヴァー、
意味のわからない警報音が鳴っている。
いや……意味は、
わかって、いるんだけれどね。
詳細は不明だけれど……、
この、"表示"は、つまり────。
──ドタ! ドタタダダ……!!
「──おっ、おま、おいオシハ!? な、なんだおぃ、このアーツはよォ!?」
「──マジいみわからぁあああんん!! むっちゃ音鳴ったこれマジむりぃいいいい!!!」
私と同じようにアーツに叩き起された、
くまとマジカが上から降りてきた!
重要な案件から、私は斬り出す!
「──くまっ! クルルカンちゃん達がいないっ!!」
「えっ……お、おまっ!? ふ、服ぅーッ!! ちゃあんと、ふくっ! 着ろよぉおおおおおおまぁあああい──っ!!?」
「バカっ、そんな場合じゃないでしょおおおーっ!?」
「お姉ちゃん……」
深夜に轟く、私とクマのボイス。
やはりベアのプレミオム・アーツからも、
まったく同じ、けたたましい音と、
金色の文字が浮かび上がっている──!
──VAAAAA!!
──VAAAAA!!
──VAAAAA!!
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▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
レイドクエストが 発生しました!
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
──クエスト情報を読み込んでいます…▼
──クエスト情報を読み込んでいます…▼
──各メンバーは 戦闘に備えてください▼
──────────────────────
「お姉ちゃんのにも……プレミオム・アーツ、全部に……!?」
「は、戦闘……ですって? これ、誰から送られてんの!?」
「ぁあ、くそ……くまったもんだ……! こんな真夜中に、冗談キツイぜッ!!」
「マジでよぉー!! マジなんなんだよコレ、マジこれよぉー!?」
「── 戦で、ござろう ──」
「「「「……──!!」」」」
声の方を向くと。
すでに着替え終えたヒナワが、
いつもとは違う顔つきで立っている!
「ヒナワ、おま……!」
「仔細は某にもわからぬ……されど、此度の金文字の、このような物言い回し! まず間違いなく、戦の報せに相違あるまいて!!」
「ま、マジで言ってんのか……!? そもそもギルドからよぅ、レイドクエストなんてモンは……! マジなんも発令されてねーはずだぞ!?」
「マジカ殿……!! お手前も、隠されしアーツの謎の力……! その屈託なき眼にて、目の当たりにしたはず……っ! 明確なる火急の事態と、某は見受けます故──!」
「おま……じゃ、なにかァ!? この、変になっちまったプレミオム・アーツにはよォ……やべぇ魔物が湧きやがったら、それを察知するチカラが、あるっつーのかよォ!? くあぁ……! まったく、くまった憶測だぜ──ッ!! つーか、この事を、この街の聖女は把握してんのかあァ──!?!?」
──とたたたたた・・・!
「ま、マジカちゃん……!? さっきの、どうなったのっ!?」
「にょわー!!」
「くゆっくゆ!」
慌てて着替えてきた様子のエコープルが、
うさ丸とカンクルと共に降りてきて──、、。
プレミオム・アーツの表示が変わったのは、
ちょうど、その時だった。
──ヴォオオン──・・・!
──────────────────────
▼▲▼▲▼ クエスト情報 ▼▲▼▲▼
──敵対モンスター情報を更新中…▼
──敵対モンスター情報を更新中…▼
──敵性勢力が確定しました▼
[ ブレイン・イーター ]が発生中!▼
[ ブレイン・イーター ]が発生中!▼
──────────────────────
……!
ブレイン、……イーター──……?
「──……!? "ブレイン、イーター"……だ、と……!?」
「っ!? くま、あなた……知ってるの?」
今の、ベアの顔の表情は、
まるで、バーグベアのそれだった。
ろくでもない事が起きる前、
ベアは真っ先に、この顔になる……!
「うそ、だろ……? そんなハズ、ねぇだろがよっ……」
「なんと……! ベア殿、よもや! ブレイン・イーターとは! 彼奴らの事でござるか……!」
反応を見るに、くまとヒナワは、
"ブレイン・イーター"という魔物を知っているらしい!
私は初めて聞いた……。
たぶん……ヒキハも知らないはず!!
「くま!! ソイツ、どんな魔物なのっ!?」
「……、……お前もよく知ってるヤツだよっ!! ブレイン・イーターってのは……"デストロイ・クラブ"の別名だっ……!!」
──ッ……。
……" デストロイ・クラブ "──……!?
そ、それって──……!?
「……──"死喰い蟹"、のこと言ってんじゃ、ないでしょうね……?」
「──あぁ、それで合ってんよッッ、こんちきしょうがっ──……ッ!! "ヨロイガニ系"の中で、いちばんデカくて厄介なヤツだッ……!! まじぃぞ……くそ、冗談じゃねぇ。もし……本当に、20〜30くれぇの群れで発生してたら……そこらじゅうのモン、かたっぱしから食われちまうぞ──ッ!!」
ヨロイガニ系は、
甲殻系の魔物の中でも、
特に厄介だと……、普段、
私やヒキハは、部下に教えている。
やつらはまず、刃が上手く入らない。
関節は思ったより隙間が無く、
的確な急所を知っていないと、
駆け出しの剣技職は命取りになるからだ。
"死喰い蟹"は……、
デカいドラゴンの顔みたいな胴に、
槍みたいな多脚とバカでかい鋏がついた、
正真正銘のバケモノだ。
口がデカくて、固くて、
油断したら、こちらが挟まれて……、
そのまま、頭から喰われる──……。
そんなやつだ。
そして、厄介なことに。
それらは、よく群れる。
まだ、こんなおっぱいじゃなかった時。
私は4体、全力で血を使って、
殺したことがある。
そして、逃げた。
素材なんか、拾ってるヒマはない。
死んだ同種を食ってるうちに、
逃げなくてはいけないのだ。
「マジかぁ……! マジマジマジでマジかよ!? 聞いてるだけで、マジヤバ一直線じゃねーかぁ!!」
「ぶ、ぶるるる……!」
「にょわー……」
「くゆゆゆゆぅぅ……」
「おまっ、こんなの信じられるか……! なんかの、デマに決まってらぁ……っ!」
現実から目を背けたいベアを差し置き、
プレミオム・アーツの表示は、
変化する──。
──ヴォオオン・・・!
──────────────────────
▼▲▼▲▼ クエスト情報 ▼▲▼▲▼
[ ブレイン・イーター ]が発生中!▼
[ ブレイン・イーター ]が発生中!▼
──マップ情報が更新されました▼
──暫定の出現地域が特定されました▼
──────────────────────
──ヴォオオン・・・!
なっ……。
私たちは何もしていないのに、
プレミオム・アーツの地図機能が、
勝手に表示された……!
「こ、こりゃあ……!」
「くま……これ、ホールエル近辺の地図だわ! 南東あたり一帯が……オレンジ一色に、点滅してるっ!」
「ここに……出現している、という事でござろうか」
「ま、マジやめろよ……こんなん、けっこう近くじゃねーか!」
マジカの言う通りだわ。
それなりに街から距離があるけど、
この地点は……そんなに離れているとは言い難い。
──────────────────────
▼▲▼▲▼ クエスト情報 ▼▲▼▲▼
[ ブレイン・イーター ]が発生中!▼
[ ブレイン・イーター ]が発生中!▼
──ホールエルの街に侵攻しています▼
──ホールエルの街に侵攻しています▼
──────────────────────
「ふ、ふざけ……」
「マジやめろって……」
"侵攻"、という文字に、ゾクリとする。
──ポン!
─────────────────────
1000 / 1000
─────────────────────
「……んだ、コレは」
「なにかの、鑑定……?」
最初は、ステータスか何かだと誤認する。
だけど──。
──ピッ。
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999 / 1000
─────────────────────
減ったわ。
サムライが、最悪な仮説を立てる。
「…………"千匹"……、いるのでは、あるまいか?」
「お、ま……よせ、よ……」
──ピッ。
─────────────────────
残 998 / 1000
─────────────────────
ヒキハが言った。
「アンティが……倒し始めているんだわ……!」
──ガチャン!! と、音がする。
ユユユが瓶の入った木箱を床に置いたのだ。
「──リスクさんに言って、上級以上のHPポーションとMPポーションをあるだけ出してもらいました。アイテムバッグはありますね? 入る分だけ入れてください」
「おっ、おぅい、ユユユ君やぁ……! い、いったい、これは…何事なのじゃ……!?」
リスクのジィさんも、起きたのね……。
ユユユは声のトーンが抑えられている。
マジカが問う。
「お、おい、マジで言ってんのかよ、ユユユ……」
「"デストロイ・クラブ"は体長5メルトルテの金属外皮を持った甲殻系です。通常の30体ほどの小コミューンのリーダーは、体長10メルトルテ程にもなります。それが……1000体いるかもしれない。わかりますよね?」
騒音エルフは、笑わない。
「……油断してたら、ボクらでも死にますよ?」
「ひ、ひえぇ……」
「にょや……」
「くゆーっ!」
エコープルがおびえ、
誰かが、ゴクリと唾を飲む。
ユユユ、コイツ……!
「くそっ……くそ! クソッタレめ……!! ほ、本当に千体いるなら……そんなモン、街に入れたら……戦争みたいになるぞ……!?」
ベアは、まだ葛藤している。
無理もないと思う。
「な、何事なのじゃ、ワシにはサッパリ状況が飲めん!」
「──オシハ!! さっさと胸隠してこい!!」
「──!!」
クマが、戦士の顔になっていた。
私は、すぐに鎧を出す。
ヒキハも予備の装備を即、点検する。
「くそ、くそ! やべぇぞ……今、この街の冒険者のほとんどは、街より西向こうの中継地に寝泊まりしてやがる……!!」
「っ!! そうでござった!! メタルゴーレム狩りにて、遠征中のご様子!」
「ああ、ああ、くそっ! 千体のブレイン・イーターとなると……ド畜生っっ! 本来なら、軍隊レベルで対応すんだぞっ……! それを、おれ達だけで……っ?」
「──!? ぶ、ブレイン・イーターが千体じゃとおお……!? べ、ベアくんっ! それは本当なのかのっ……!?」
「おいクマ!! ウチがマジかっ飛ばして、冒険者ども、呼んでくっかっ!?」
「──ダメだっ!! オメーの最大範囲魔法は、確実に切り札になる……っ!! 今、この街から戦力は出しちゃいけねぇ……!! 呼べたとしても……冒険者が反対側から、チンたらやってくる間にカニ共が来たらどうすんだっ……!!」
「ま、マジかよ……」
「くっそ!! おい、ヒキハ!! おまえらの予備の剣は何本ある!?」
「わ、私の物が3本!! お姉様の分が2本でしてよ!!」
「く、足りねぇ……!! 絶対に、途中で刃が欠けるぞ……!」
その想像は、正しい……。
私とヒキハは訳あって、
ミスリルの剣は好まないからだ。
「……くま。私達は、いざとなったら血を使う」
「バカヤロぉー……!! 千体いんだ。あんなもん使ったら、時間切れぶっこいたら最期、囲まれて喰われるぞ!!」
「……」
思わず黙ると、ヒキハが継いだ。
「あ、アンティ達は、少しずつ敵を倒しているようです……! まだ、希望は……」
「……ヒキハよ。千体いるってことは、それだけ広い地域にいるってこった。あの嬢ちゃん達のちっせぇ体で、まかなえると、本当に思うか……?」
「……!! くっ──……!」
ベアの……言う通りだわ──。
この身に宿る、吸血鬼のチカラも、
あまり長時間、使うことはできない。
ここぞと言う時に、とっておかなければ……。
「──おぃ!! リスクのジっちゃん!! この事を何としても、聖女サマに伝えてくれ!!」
「な、なんと……!! このような深夜にか……!?」
「何してもいいから、必ず叩き起こせ!! 頼んだぞ!! エコープルはここに残れ!! ぜったいにこの街から出るな!! 街門は朝になっても閉鎖しとくように、おれから声をかけておく!!」
「そ、そんなぁ……く、クマさん……!」
「にょ、にょきっと……!?」
「くゆーっ」
慌ただしくなる私たち。
メッセージが届いた。
──PON。
───────────────────
from:ゴウガリオン
─────────────
さきにいく
───────────────────
「……!! ゴウガのやつが、ノッてくれた……!!」
「ボクも出ます!!! 回復職ですから、ベアさんと組みますよ!!!」
「くそ……それが良いな。頼んだぜ……!!」
「某は単独先攻する。遅れは取らぬ故」
「オシハ!! 義賊の嬢ちゃん達に、メッセージ、送っちまえよ!!」
「──ああ、もぅ!! さっきからやってんのよ!! でも、何故か送信できなくて……」
「なんだと……!? くそっ……!! おれもやってみる……!」
──ビ──ッ!!
──────────────────────
──ERROR▼
──マスターサーバークラスへのテキストは▼
──該当サーバーの初期承諾が必要です▼
──────────────────────
「んだよ、コレ……ッ!!」
「皆様方……!! そろそろ行かねば……!! 出遅れるでござる!!」
「くま、一体でも多く、倒さないといけない」
「ベア殿っ! ともかく、アンティ達と合流を……!」
「ちくしょう! なんとか現状を、確認しねぇと……!」
装備が整い、それぞれに分かれようとする時、
また、メッセージが届いた。
「──なんだ!? ゴウガからの報告か!?」
出発前に、場の全員で確認する。
──PON。
────────────────────
from:カオコ・トバシ
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──こころして 読んで▼
──この干渉は 一回しかできない▼
──アンティ達は まだキッチリとは▼
──あなた達のデバイスを 承認していない▼
──敵より前に 彼女たちを見つけて▼
──今の現状を ちゃんと伝えなさい▼
──彼女たちは 常に 二人でいるべき▼
──このままだと あの二人は▼
──敵の多さに 別行動する事を考える▼
──そうなったら 終わり▼
──二人が二人でいる内に▼
──あなた達を 承認させて▼
──それが 唯一の活路──!●▼●.*・゜
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「おま、これ……っ!?」
「こいつ……マジだれだっ!?」
その問いに、答えられる者はいない。
でも──。
「──くま。やる事が決まった」
「──この様な時に与う助言、誠の真心なり!」
考えてる時間は、ないのだ。
「──くそ!! おまえら、死ぬなよ! リスクのジィさん!! 必ず聖女に伝えてくれっ!! バラけてクルルカンの嬢ちゃん達を見つける! 合流したら、すぐに連絡しろっ!! くそったれがぁぁあああ!! 行くぞガオオオオオォォオ!!」
真っ先にヒナワの姿が消える。
私も飛ぶように街の外周門の壁を飛び越える。
ヒキハが、ピッタリと後ろに着く。
プレミオム・アーツは、
反吐が出る"夏休み"の始まりを、
私たちに、示し続けていた────。
──ピッ。
──ピッ。
──ピッ。
────────────────────
▼▲▼▲▼ クエスト情報 ▼▲▼▲▼
残 992 / 1000
▲▼▲▼▲ ▲▼▲▼▲
────────────────────
おあぁーっ!!(つд⊂)










