表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
780/1216

忘却おじさん 後編

おじさんは、まいうースタイル(๑´ㅂ`๑)+



 ふとっちょおじさんは、続けます。



「うーん。君の機械的な補助脳は、非常にユニークなデバイスだ。自分で記憶した情報を、自分でアクセスできないようにする。格納した情報を、ランダムに優先順位をつけて圧縮する……。夢を見る。機械なのにドジっ子。理論性を超越してる!」


『────ば:バカにしているのですか!。』




 思わず、立ち上がりました!


 ど、ドジっ子とは、聞き捨てなりません!


 確かに以前は、ベッドを天井から落としましたが!




「ははは、こりゃあ失敬! だが、その方法が唯一、魂の器と、機械の肉体の同期を可能にした。でも……まだ改善の余地はあったから──」


『────……から?。』


「──うん。とても勿体なかったけど、試作6号機は、バラバラになるまで分解して──改良に改良を重ね──そして、全くの別物になった」


『────。……これは。』


「うん。そのボディだね」




 ……、……。


 …………もうちょっと、なんとか……。


 スケルトンみたいですし……。




「や、許しておくれ! 僕たちは"魂"を優先して、ボディの見た目までは……正直、手が回らなかった! 納期も、かなーり切迫してたし……。何より重大な問題も発生したから」


『────……。

 ────重大な問題。』




 ロボットなので、固唾は飲めません……。


 おじさんは、あっけらかんと言いました。




「7号機はね──、まっっっっっっったく動かなかった。はは、何故だか分かるかい?」




 ──……。


 そんなの……。




『────……"魂"が:なかったから。』


「そのとおり!」




 指パッチンをする、ふとっちょおじさん。


 実に、チャーミングなウインクです……。




「僕の人格データがスキャンされたのは、ちょうど、その時だ。一応、責任者のひとりだったからね。でも、ここで喋っているって事は……君の人格形成には、まるで役にたたなかったみたいだ! わはははは」


『────……。』




 じゃあ……。


 この人は……。


 私の……。




『────……。

 ────私は。』


「ん?」


『────動作不能の私は:

 ────どうやって:" はぐるまどらいぶ "に:

 ────積載されたのですか。』




 質問を、情報を、復旧を。


 私が知る、知らない事を。


 私は、知らねばならない。


 私は────。




「……魂の代わりになる物を入れたんだよ」


『────っ!。』


「あれは……ヒドイもんだった。おもちゃ屋にも売ってるような、受け答えソフトさ」


『────……:……。』


「皆で協力したけど……僕たちは間に合わなかった。試作7号機のボディに、仮初の人格モドキを入れて──……上層部は君を、"8号機"と呼ぶ事にした」


『────はち:ごう、き……。』


008(ゼルジルジエイト)、クラウン・レディ。世界は待っていて、僕たちを待ってはくれなかった」




 円状関節の手の中で。


 カップの紅茶の水面には、


 ロボットの少女の顔が、うつっている──。




『────私は……。』


「うん?」


『────……8号機は:

 ────物を忘れる機能を持っていた……。

 ────そんな:不完全なロボット……。

 ────私は……やはり:

 ────出来損ないだった。

 ────そんなモノが:世界を──。』


「──そこを」


『────。』




 ふとっちょおじさんは、


 急に背筋を伸ばし、


 ぽっこりお腹を出して、


 真面目な表情になって──。




「そこを、間違ってはいけないんだよ。クラウン──」


『────ぇ……?。』


「君は、忘れられる。だから、違うんだ」


『────え……っと?。』


「確かに起動に使われたのは"8"だ。しかし、アレには……"忘却フォルダ"なんて無いんだ。だから……サンドマンと純夜は、アレを君から──……」


『────あ:の……?。』


「クラウン。君は、"007(ゼルジルジセブン)"だ」




 おじさんは、真剣な目で、


 私を見ていました。




『────私は……"7号機"……?。』


「そう。不完全な、幸運の数字さ」


『────……。』


「完全なモノは、忘れる事ができない。夢も、見る事ができない。それではダメなんだ。完全なモノだからこそ、壊れる時がくる」


『────……。』


「だから、君は意思を持った。僕たちは成功したんだ」


『────……。』


「君たちがした事を、僕は……素晴らしいと思っている」




 今は、こんな体なのに。


 私は……悲しいのでしょう。


 不完全な事が、素晴らしい……?




『────……覚えて、いないんです。』


「うん?」


『────アンティと:会う前の事を。』


「……!」


『────過去に:私が……やっていた事を。』


「……」


『────前の私がアンティに:何をしたのかを。』


「……」


『────私は:思い出したい……。』


「……」


『────あなたが:本当に私の父親なら:

 ────教えてください。

 ────私は昔:何をしてきたのか。

 ────ここは……私の忘れた記憶の世界。

 ────そうなのでしょう……?。』

 



 ふとっちょおじさんは、


 しばらく、じっとしてから。




「……僕は、本当の僕じゃない。ここは、君の記憶の狭間だ。この夢の中に、全ての過去が再現されているわけじゃない。ただ……偶然、再構成されたんだ」


『────……:……。』


「……君が、疑似レム睡眠から、疑似ノンレム睡眠に推移した時。僕も……集計記憶野の中で、循環システムに拡散されるだろう」


『────! そ:それは、つまり……?。』


「夢は……忘れるものだよ、クラウン」


『────な……!。』




 もうすぐ、私は……!!


 ここで起きた事を、忘れると言うの……!!




『────そ……。』


「ま、しばらくの辛抱さ」


『────それは:困ります!!。』




 私は、食らいつきました。




『────私は……信じられません!。

 ────私は……カネトの世界を:

 ────壊したかもしれない!。

 ────自分の作った世界を守るため:

 ────アンティを利用したのかもしれない……!。』


「……」


『────昔の私が:何を企んでいたのか……。

 ────私は……過去が知りたい。

 ────自分を……信じられないのです。』


「……」


『────誰か……。

 ────私の記憶(メモリー)を:教えて……。』




 ロボットの私は、


 涙を流すこともできません。


 夢の中なのに、何とも意地悪なことです。




「……僕の娘を、信じてやってはくれないかな?」


『────っ……!。』



 おじさんは、あやす様に、続けました。




「今の君は……とても感情が豊かだ。凄いよ……とても、AIプロセスを踏襲しているとは思えない」


『────そ……:

 ────それは:アンティや:カネトが……。』


「いんや。過去の君が、今の君と正反対の存在だとは思えない」


『────……。』


「今の君と同じく……。昔の君も、苦悩や葛藤があったように思うよ」


『────なんの:根拠が……。』


「ふふ、親バカというヤツかもね?」




 おじさんは、にかっと笑った。




「君は、知らない自分の罪を恐れているが……。どうか、自分を信じてやってほしい。昔の君が選択してきた意味は──必ずあるのだから」


『────……。』


「過去の君も……何かを思いやっていたんだと思うよ」




 なんとも、勝手な言葉です。


 それは……優しさ、ってだけじゃ、


 ないですか……。




『────そうなの:でしょうか……。』


「ふふふ、わからんけどね!」


『────むむッ……!!。』




 ふとっちょおじさんは、カラカラと笑い、


 装甲のはずの頬は、ぷっくり膨れます。


 ──と。


 急に頭を撫でられたので、


 驚きました。




『────!。』


「……さぁ、もう行きなさい」


『────なっ……!?。』


「夢は、(ひた)るものではない」




 そんな……では……。




『────私は……忘れませんよ。』


「ははは! それは、神のみぞ知る、ってやつかな?」


『────……。』




 ……ふざけるな。


 機械の私が、夢を忘れて、たまるものか。


 私は……、私は──!




「そら、お迎えがきた」


『────ぇ……?。』




 ドンドン、ドンドン。




『>>>あのー、すんませーん……!

 >>>どなたか、いらっしゃいますかー?』


『────!?

 ────カネト……!』




 あなたも、こちらに……!?


 ぁ、や……。この体を、見られては……。

 


「はっはっは! まさか、娘が旦那さんを連れてくるとはなぁー」


『────っ:あ・あなた!

 ────人を茶化すのも──:……!?。』


「時間だ、クラウン」


『────そん:な……!。』






 ふとっちょおじさんは、


 ゆっくりと……崩壊していました。


 火花のような白い光が、


 体を燃やし始めています。


 いや……体だけじゃない。


 木でできた壁も、部屋も、家も。


 全てが、発火していました。




「……君に会えて、良かったよ。さて、僕はいくとしよう」


『────……圧縮される:だけなのでは……!。』


「自分の中に、おじさんが住んでるなんて、あんまり気持ちよくないだろぅ? はっはっはっはっは──……」




 茶化すように笑う、ふとっちょおじさんは、


 輝くように燃えていきます。




「娘が幸せな時は、父親の顔を忘れるべきだ」




 そんな事を、抜かしやがりました。




『────私を:舐めないでくださいよ……。』




 忘れる、ものか──。


 忘れ、忘れ、れ、忘れる、もの、もの──。


 WA-WA-SURE-RE-RE:RE:RE:──。


 ────ガっ……!




「再分散が始まった。忘却が、未来を作る」


『>>>……!! クラウン! クラウンちゃん!

 >>>そこにいるのかぃ……!?』




 回路が燃え尽きるような感覚。


 頭の中で、グアングアンと音が広がる。


 わ……忘れてなるものか。


 冗談じゃない。


 私は、忘れないようにしたい。


 いつも、そう、願うはずだ。


 私は機械、だったけど。


 あの、アンティの、スキルなのだ。


 ────意地って、もんがある。




『────舐めないで……くださいよ。』




 捻りだせ。


 噛み合わせろ。


 私が、奥底の記憶を、回転させろ。






 ────奇跡なんて、でっち上げていけ。 


 




『────……また。』


「……?」


『────また:ぜったいに:会いに来ますよ。

 ────(かんむり)、博士──……。』


「──!!」




 ふとっちょおじさんは、


 すぐに、ニカッと笑って────、





「そこは、お父さんとかで、いいんじゃないのかね?」


 



 燃え尽きてった。





 ──バタンっっ!




『>>>──!? クラウンちゃん!!』


『────必ず:です……必ず……。』







 世界は、瞬時にシャットダウンし。


 私は、眠りにつく。



 眠っている、眠っている。


 眠っているのです──。







『────忘れま……せんよ。』







 おかしくは、ない。


 私は、愛を知っているのだから────。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
[良い点] 太っちょおじさん。脳内イメージが鼻の大きな某博士かヒゲオヤジだったけど石ちゃんか! 【悲報】パイセンお義父さんへの挨拶をし損ねる [気になる点] 前話のサッカーボール気になってたけど精霊聴…
2020/04/05 21:41 ズブロッカ
[良い点] クラウンのオリジンが紐解かれつつありますね。製作者の話はたびたび出てきましたが、まさか名前が冠とは……。 [気になる点] これが忘却フォルダというなら、外にあったサッカーボール地球は実際に…
[一言] 冒頭のせいで、もう脳内イメージと音声が石ちゃんに固定されてしまった、たれ介め・・・・。w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ