実直なるロメオの学習 下 さーしーえー
挿し絵、2枚目たしたん♪
Yeah!(●´ω`●).*・゜
「いやぁ〜〜! まさか、今日の今日で半休が貰えるとはぁ。感謝、感謝ですよおー、キキキ……!」
ホールエルギルドの受付嬢、
キキ・ネーザルの生い立ちは、
中々ファンキーである。
彼女は当初、冒険者を夢見る女の子であった。
農園から発展したバヌヌエルの村では、
当然、ギルド関連の施設は、ほぼ皆無である。
村の外には、いつも夢や憧れが溢れ、
それは幼いキキにとっても例外では無かった。
彼女が4歳の時に、
雷の魔法の適性がある事がわかった。
「わたし、ぼうけんしゃになるー!!」
「まぁ、キキちゃんったら。危ないわよぉ……」
生粋のバナナ農家である両親は、
もちろん我が子の行く末を心配したが、
瞳に輝きを灯した幼子の行動力は、
それはもう凄いモノだった。
彼女は自分の大きさほどもあるリュックに、
めいいっぱいのバナナを詰め込み──、
「とやーっ!!」
ギルド行きの馬車に、
コッソリ忍び込んだのである。
「わたしはぜったい、ぼうけんしゃになる!!」
10日が経ち、
なんと彼女は、ギルドにたどり着いた。
「わたし、ぼうけんしゃになります!!」
「──お、お嬢ちゃん、どっから来た!?」
ホールエルの冒険者ギルドに、である。
彼女の乗った荷馬車は王都を通り過ぎ、
真っ反対の東の街まで突っ切っちゃったのだ。
「バ、バヌヌエルの村だって……!?」
「真反対じゃないか……嘘だろ……」
「馬車にお金払っときました! どうしましょう……」
「──わたし、ぼうけんしゃになります!
とうろくりょうは、バナナでいいですか!!!」
当然、4歳の女の子は、
ギルド職員に保護される事となる。
次の馬車が来る日まで、
彼女はホールエルギルドの、
受付カウンタの後ろで椅子に座って過ごした。
最初は、様々な冒険者を見て楽しんでいたが──、
「こちらが今回のクエストの報酬になります」
「その装備は研磨依頼ですね?
強化+5まではギルドで仲介しております」
「支給品のポーションはこれが最後です。
お気をつけて」
「コッコ鳥の捕獲クエストは、あと一組です!
誰か、いらっしゃいませんか!」
「ゴブリンが目撃されたのは、この辺りですから、
現地入りしているクランと合流してください!」
「石化解除薬が上がってきました!
パジリスク討伐予定のパーティから優先販売します!」
「すげぇー……!」
お揃いの制服でテキパキと働くギルド職員たちは、
とても、カッコイイものである。
やがて、西に向かう馬車の来る日となった。
ホールエルのギルド職員は、
総出で彼女に挨拶をする。
「じゃあな、キキちゃん。お父さんとお母さんに、ちゃんと謝るんだぞ?」
「や〜〜、この数日、楽しかったわ。ホールエルに旅行に来る時があったら、また寄ってね!」
「ははは。いや、今度ここへ来る時は冒険者だろう?」
「わたし!! ぎるどのうけつけじょうになるっっ!!」
「「「「「 あれッ……っ!?!? 」」」」」
行きしと同じ日数の馬車を、
ホールエルギルドの料金持ちでチャーターし。
バヌヌエルの村に帰ったキキを待ち受けていたのは、
それはもう心配しまくった両親であった。
「おおおおおおおおおおおお前というヤツはぁあああああああああ!!?」
「どどどどどどどどどどれだけ心配したと思ってるのぉおおおおお!!?」
「──わたし、ぎるどの、うけつけじょうに、なるっ!!!」
「「っ……、は、はい……?」」
彼女が両親に見せた手紙には、
こう書かれていたのだ。
……ペラリ。
──────────────────────
キキさんのまたのお越しを、
心よりお待ちしております。
ホールエルギルド一同
──────────────────────
彼女は、勉強した。
幼くして定まった夢には、ブレが無かった。
両親は冒険者になるなら反対しようと思ったが、
ギルド職員ならば、
魔物と戦うことはないだろう、と、
娘の夢を応援する事に決めた。
村の中にいても、様々な噂が耳に入った。
近くの炭坑でダンジョンが発生したけど、
すぐにその場で攻略された、とか。
ブラッドオーガ殺しの冒険者が、
ドニオスのギルマスになったらしい、とか。
自分と同じ年頃の受付嬢が、
"キッティ式"という、
画期的なクエスト登録書式を考案した、とか。
届く物語は、
近くにあるドニオスギルド由来の、
ものばかりである。
だが、キキは────。
「私は……東に。ホールエルに、行く……!」
彼女が憧れたのは、
東の街の、あのギルドである。
人の縁を大切にしたかった事もある。
それに、なにより彼女は。
ホールエルギルドの制服姿が、
好きだったのである───。
「キキキ……! じゃあ、いってきます!」
「あ、ああ……! 頑張ってこい……!」
「身体に、気をつけるのよ……!」
ホールエルに行くと、
幼い彼女を受け入れた若いギルド職員たちは、
皆、中堅の職員になっていた。
バナナを使って冒険者になろうとした彼女を、
皆は、よく覚えていた。
彼女は面接と試験をイッパツ合格し!
見事、ホールエルギルドの受付嬢となったのである──。
「キキキ……! ショッピングの前に……酒場の皆さんに、薬草入荷のご連絡を差し上げないと……!」
彼女は、まだお気に入りの制服のままである。
ずっと働き詰めだった彼女は、
皆の勧めもあり、半休をいただいたのだ。
実は、彼女の制服は特注品のワンオフである。
その理由は、後ほどわかるのだが……。
「アンティさん達には、ほんと感謝だなぁ……村の両親とも気軽に文通できるようになったし……キキキ♪」
晴れやかな気分で、彼女は酒場を目指す。
みんな、薬草が手に入らないから、
クエストに行かずに、
昼から飲んだくれているはずだ。
その予想は──大当たり。
酒場"おふざげぇと"に顔を出した彼女が見たのは、
ケラケラと笑いこける冒険者たちだった。
ずいぶんと明るい空気だ。
原因は、よくわからない──。
「 ──あれー? 何だか賑やかな雰囲気ですね! なんか面白いことでもありました?」
「──おっ!! 受付嬢のキキちゃんじゃねぇかあ!」
「おおっ……! 久しぶりの、お休みかぃ!? こっちで飲みなよ!」
「キキッ♪ ご機嫌ですねぇー! どうしたんですか? 実は私からも、明るいニュースがあるんですが……!」
「ぎゃはは! 実は今よぉ……!」
「さっきまで、ここに義賊と狂銀がいたんだよ!!」
「「「「「わはははははははは!!!」」」」」
「……………………詳しく、聞いても……いいですか?」
──さて。
実は、受付嬢キキ・ネーザルは、
ホールエルギルドにて、非常に頼りにされている。
それは努力により勝ち取った知識と知恵もそうだが、
それだけではなく、天性の才能にも起因する。
彼女は、優秀な受付嬢でもあると同時に。
卓越した、"電撃使い"でも、あるのだ・・・!!
「──んで、マント剥いだら泣いちまってなぁー!!」
「ロメオの奴が、"済まなかった……旅芸人の方だろうか?"とか言うもんだから、キッ、て睨んでよぉ!! わっはっは!!」
「腹を割って話そうとか言ってたけど、へそは丸見えだったな!! がははははは!!!」
「ていうか、あのぬいぐるみ、動いてませんでした!?」
──・・・ピリッ…………カッッ!
ことのあらましを聞いたキキ・ネーザルは、
────豹変した。
バチッッッ・・・!!
バチチチチチチチチチ・・・!!
「「「「「「 ぃ── 」」」」」」
笑い声が、一瞬にして消え去る。
彼女のこの姿を知らぬ冒険者は、
ホールエルでは、三流であった。
「──い、"怒りの"・・・!?」
「──"獅子猿"・・・モードッッッ・・・!?」
「な・なぜっっ・・・いきなりっっ!?!?」
彼女の電撃魔法は、威力ランクがC+。
そして────帯電時間は、B+である。
以前、彼女のヒップを触った、
けしからんBランク冒険者は、
感電し、三日間気絶した。
そう──受付嬢にして、用心棒。
ホールエルで調子にのった冒険者は、
まず、彼女の電撃を食らうのである────。
──バチチチチチッッッ・・・!!
──コォォオオオッッッ・・・!!
「「「ひ、ひぃ・・・!」」」
逆だった、ツンツンの髪。
電気ほとばしる、三つ編みの、おさげ。
特注のギルド制服は、一部が展開し、
余分な電撃を、空気中に放電する。
赤ブチ眼鏡は──発熱し、輝き始め、
──誰かが、言った。
「、、、イエロー、モンキー・・・!!」
放電受付嬢の、降臨である。
「やってくれたなぁ……ボンクラどもがァァァァあああ ╬」
──バリバリバリバリ・・・!!
キキ・ネーザルは、
恐ろしい放電音と共に、語り出す・・・!
100を超える冒険者たちは、
固唾を飲んで、
耳を、かたむけた……!
「…………フザけんなよ……おめぇら……プレミオムズなんだぞ…………わかるか……? ……"至高の配達職"……最近復活した……運送専門のぉおおおおお……!!」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「……あ、あの、キキちゃん……?」
「な…………なんかの、冗談、だ、ろ……?」
「6000株だぞ……薬草……配達じゃねぇんだぞ…………? わざわざ、集めてきてくれたんだぞ……、一等級、ばっかをよぉぉぉおお。三等級の7倍の効果が、あるよなぁ……? おめぇらも、知ってるよなぁあああ……??? 冒険者してきたもんなぁ……??? 42000株ぶんの薬草、ポンって、くれたんだぞ…………」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「な……なにィ、それぇぇ……」
「単位、おかしくね……?」
「…………この前、コッコ鳥とれなくなった時に、マジカさんが魚の調理法、教えに来てくれたよなぁああああああ……?? あの情報提供してくれたの、アンティさんなんだぞぉおお……?」
「「「「「────ッ……!?」」」」」
「「「「「────ッ……!?」」」」」
「「「「「────ッ……!?」」」」」
「「「「「────ッ……!?」」」」」
「「「「「────ッ……!?」」」」」
「ま、まじかよ……! そっ、それが本当なら……ッ!?」
「だだッ、だ、大恩人じゃねぇかぁぁぁ──ッッッ!!」
「は、は。それだけじゃねぇだろ? な? おめぇら……キキキ……。この街に、今、いちばん頻繁に足を運んでくれる、プレミオムズさんなんだぞぉおおお……? わかるか、ボンクラ共ぉおおお。ウチのギルマス、アレだろぉ……? いざとなったら、全てのプレミオムズとギルマス、全員に緊急メッセージ送れるの、あの人達だけなんだぞォォ……?????????」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「ご、ごくり……」
「ぁぁぁぁぁ……」
「どぉすんだおめぇら、お? 緊急クエストとか、薬草ないまま発生してみろ? 武器はどうだ? お? 知ってっか? この街の流通金属の27パセルテルジが、あの御二方の運搬で賄われてんだぞ…………?」
「「「「「 ……まじでッ!?!? 」」」」」
「「「「「 ……まじでッ!?!? 」」」」」
「「「「「 ……まじでッ!?!? 」」」」」
「「「「「 ……まじでッ!?!? 」」」」」
「「「「「 ……うそやろッ!?!? 」」」」」
「さ、三割じゃねぇか……!?」
「うぞぉぉ……!!!」
ここで、放心気味のロメオが、
雷人と化した受付嬢に、質問する。
「ほ、本当なのだろうか、キキ殿……?
本当に、あの二人の少女が?
プレミオムズ、だと……?」
キキ・ネーザルは、嘲笑った。
「キ・キキッ、キ……! それだけじゃねぇしな……。ウチの偏屈なギルマスのなぁ、メイドさん達から聞いたんだけどよォォ…………。オルシャンティア王女殿下の誕生パーティに、国王推薦枠で招待されるような御二人だぞぉおお………?」
「「「「「 」」」」」
「「「「「 」」」」」
「「「「「 」」」」」
「「「「「 」」」」」
「「「「「 」」」」」
「……それ…………アカンやつや……、……」
「は!? えっ……はァァァァァッッ……!?」
「オルシャンティア王女殿下をな……? 抱き抱えて、フルスイングできるような仲なんだってよぉお……!!! わかるか? 王族の方と、御友人なんだよぉぉおおお、あの義賊ちゃまと、狂銀ちゃまはよぉぉおおおおおお!!!!!」
「「「「「がたがたがたがた」」」」」
「「「「「ガクガクガクガク」」」」」
「「「「「ガタガタガタガタ」」」」」
「「「「「……あばばばばば」」」」」
「「「「「……ぐごごごごご」」」」」
「お、オレら、全員で……」
「わ──……笑いとばしちまった、ぞッッッ……!?」
「あの御二人はなぁぁあああ、"西のギルマスの懐刀"って、モッパラのウワサでなぁぁぁあああああああああ。西のギルマスって誰か、おめぇらもお、知ってるよなぁぁああああああああああああああ」
「「「「「…………に、にしって……」」」」」
「「「「「…………まさか、あの……」」」」」
「「「「「…………昔、恐れられた……」」」」」
「「「「「…………Aランク冒険者……」」」」」
「「「「「…………"山の如く修羅"……」」」」」
「──にゃあああ……!!
──"ブラッドオーガ殺しのヒゲイド"にゃー・・・!!」
「むっ!? では、まさか……!!」
「……!!!
彼女たちは、ドニオスギルドの指示で、
こちらの街の資材調査を……!?」
どんな強い酒も、
ハラの底冷えを、抑えはしない。
受付嬢は。
さらりと、トドメる。
「 王都とドニオスから
物資とめられたら、
おまえらのせいだけど? 」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
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「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「「「「「……………………」」」」」
「キキキ……。実は仮面で顔を隠した、
貴族様って噂もありますなぁぁああああ?」
「「「さ、探せぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」
「「「「「うおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
ドダドダバゴベコベコズダダダダダタドタバダズゴバゴドベバベバタバタビダノシノシズゴバゴドベバベドダドダバゴベコベコズダダダダダタドタバダズゴバゴドベバベバタバタビダノシノシズゴバゴドベバベドダドダバゴベコベコズダダダダダタドタバダズゴバゴドベバベバタバタビダノシノシズゴバゴドベバベドダドダバゴベコベコズダダダダダタドタバダズゴバゴドベバベバタバタビダノシノシズゴバゴドベバベドダドダバゴベコベコズダダダダダタドタバダズゴバゴドベバベバタバタビダノシノシズゴバゴド!!!!!
真っ青になった冒険者達は。
酒場から駆け抜けたという。
ロメオの取り巻きだけが、
雷人の前に残った。
「わ………私は、な、
なんと、いうことを……。
あ、謝らねば…………」
「キキキ……おい、ロメオ・ホアン・カーン」
──バチチチッッ・・・!!
ドスの効いた受付嬢の声が、
四人だけの酒場に響いた。
「 謝って済む問題ばかりと、思うなよ? 」
「 …… 」
「にゃー」「むむぅ……」
・・・バリィッ──── ── ─ ─ ─
ロメオは、学習した。
(`・ω・´)アッ……










