エックスメガネ さーしーえー
食後のテーブルで。
コココさんと、話していた。
「……しばらく住まわせてもらうことにした。傷んでいる壁から修理しようと思う」
「それは……良かったです」
「やはり、肉食の魔物が遠ざかり、大人しい草食の魔物が近くにいるようだった……家畜になる種も見つかるだろう」
「精霊花って凄いんですね」
「くゆゅぁ……Zzz」
今回はテストの後に来たし、
家の補修とか手伝おうと思ってたんだけど──。
コココさんとリリリさんが居てくれるなら、
とっても安心だ。
バババばーちゃんと子供二人だけでは、
手が回らない事は多いはずだ。
外の花畑では、
大きくなったうさ丸の周りに、マイスナと、
リリリさん、ロロロとラララ、バスリーさん、
それとちっちゃなピクシーちゃんが、
ケラケラと朝日に照らされている。
マイスナの周囲は涼しいので、
バスリーさんのそばに居てあげている。
夏場には、一家におひとつ、狂銀だ。
「……オレたちは、幸運だ」
「くゆー……Zzz」
「……」
コココさん達にとって、
目の前の光景は、奇跡以外の何モンでもない。
瞳を見れば、わかった。
「東の……川の街」
「ん?」
「なんで……コココさんとリリリさんは──……旅に出たんですか? 人の暮らす街で……生活していたんですよね……?」
「む……」
和やかな雰囲気にかこつけて、
ちょっち、突っ込んだ事を聞いてみた。
「……住みづらくなったワケではない。あそこは良い街だ。この200年で、オレ達が人族に抱く印象は、大きく──変わったよ。でもな……」
「……?」
「……少しずつ、"森の声"を聞けるエルフは、少なくなってきているんだ」
「……森の、声……ですか?」
「ああ……。オレたちの一族はな。精霊の姿や、シンエル、森の声……そういうモノが、少しずつ……見えなく、聞こえづらくなってきているのさ……」
「……」
「……オレは昔は、けっこう頭が固かった。が、最近はやっと──そうだな、君の先人に会った頃から、少々……落ち着きが出たと思う」
「?」
「ふ……何が言いたいのかというとな? "森の声"が聞こえなくなったとしても。それはそれで……良いのだと思っている」
「! ……」
「"順応"していけるんだ……オレ達は。あんなに、いがみ合っていたエルフと人族が、今は共に暮らしていける……。それはそれで、いい事なんだ。だが……それでも──」
「……それでも……?」
コココさんは、
外の花畑を見ながら言う。
「──自分の子供が産まれるかも、と思った時に……最後のさいごに、あがいてみたくなった」
「……!」
「人の街で産まれたエルフ達は、たぶん、気づく事は出来なくなるから……」
「……」
「リリリに話して、あいつは了承した。……頭が上がらないよ、アイツには……」
「──…… 」
コココさんは、かなり濁していたけど、
言いたいことは、よくわかる気がした。
"森の声"……っていうのが聞こえる場所で、
子供を安心して育てられる場所────。
エルフの夫婦さんは、
最後のチャレンジとして、
それを、探す旅に出たのだ。
そして────。
「まず……村にしたい」
「……はい。大まかに月イチで、私達も立ち寄りますし。何か入り用なら、物々交換とかで取引します」
「……助かるよ」
「ふふ、こっちもいい野菜が手に入りますし」
「ふ……。ふむ、村の名前を決めないとな」
「" 花守の村 フラネット "とかでいいんじゃないです?」
「……!」
────おっっっとぉぉお!!!??
私、いまっ、超テキトーなコト、言うたで!!!??
「や、わ、忘れ……」
「……とてもいいな。あやかろう」
にゃ……!?
エルフの村の名前を決めてしまった!
「……まだ、大した礼を言っていなかったな」
「……へ!?」
「いや……正直、まだよくは分かっていないんだ。が、この精霊花を復活させてくれたのは、君なのだろう?」
「あ! いや、まぁ…………そですね」
先輩が仕込んだタネを、
お披露目しただけなんだけどね?
「ううむ……実はオレは、人族の街では細工職をやっていた」
「!! さいくしょく、ですか……?」
「装備効果のある、アクセサリーなどを売る店を開いていた」
「へぇ! 指輪とか、ネックレスとかですか?」
「ああ。お礼にひとつ、進呈したい」
「えっ!?」
「旅をする前に売り払ったので、あまり女性向けの物は残っていないが……」
「や! い、いいですよぉ! わるいし……!」
そ、そんなに、気を使ってくれなくても……!
マイスナがいれば、ミスリル銀のアクセとか、
造り放題ですし……!
…………。
考えたら、すげぇコトできるな、私らって……。
"役たたずみ台"のミスリル溶かして、
加工して販売しまくったら、
確実に儲け出るし…………。
──い、いやいや!
ヒゲイドさんに泥を、おっ被すようなことは、
ゼッタイにしないけどねっっ──!!!?
「だ、大丈夫ですよっ……! お気持ちだけで……!」
「まぁ、そう言うな。といっても売れ残りのオンパレードだが……ううむ」
──カタン。
「あ、何か落ちましたよ」
ひろった。
「……」
なんだこれ。
「──おお! それは自信作のひとつだ。何故か、ずっと売れなかったが……状態異常耐性が付与されているはずだぞ?」
「……」
クラウンが、
謎のエルフ製アイテムを調べてくれる──。
『────分析完了。
────対象名【 エックスメガネ 】。
────エルフの神秘の技術の結晶。
────全ての状態異常攻撃を5割程度カットする。
────ちょっとダサい。』
……さいごのは、
アンタの個人的なコメントじゃないわよね?
「……コココさんのやってたお店って……その……キワモノ」
「し、失敬だな! 繁盛はしていたぞっ! 中々の老舗だ! 閉店は、かなり惜しまれたんだからなっ!?」
あ、そういや200年……!
ふ、ふむ、それだけ潰れない店ってのは凄いわ……!
でも言い換えると……このだ、ださ……、
へ、ん……不思議なメガネは、
200年くらい、売れ残ってたことになるわね……。
「あげよう。煮るなり焼くなりしてくれ」
「あ、ありがとう、ございます……」
在庫処分のような気も、
しないでもないけんども……。
とりま、もらっておく事にする。
『>>>そんな特技があったのか……いや、そのメガネ。スキルだけなら中々の凄さだと思うよ?』
『────むむ……完全にカットできないというのは:
────少々危険かと判定しますが……。』
クラウンと先輩が、
キワモノメガネにコメントする。
うーん……それに、いっこしか無いしなぁ……。
このデザインだと、仮面の下にも付けらんないし……。
仮に私が掛けたとして、
マイスナにも耐性効果、適応すっかな……??
しかし……奇抜なデザインだわぁ……。
──たたたたた────……!
「アンティ! うさ丸、ブロコロ食べないよー!」
「お姉ちゃん、知ってたでしょー!」
お、こっち来よった。
「ロロロ、ちょっとちょっと──」
「? なにー??」
近寄ってきたロロロに、
キワモノメガネを装着する。
「何コレー!!!」
「あははははははははははははははははは!!!!!」
ラララが爆笑してるトコを見ると、
エルフのセンス的にも、これはオモロイみたいだ。
よかった……。
エルフ的にはカッコイイ意匠とかだったら、
どうしようかと──……。
「な、何が面白いんだ……?」
「んー? あー! それですかぁー……」
リリリさんは、こまりんスマイルを浮かべていた。
エ──────ックス!!!
( ✧Д✧) カッ!!










