Are you G.O.D?
うさぎの勇者は、火が、怖かった。
だって、うさぎさんだから。
『うわわっ、わわわっわ!』
「あわっわわぁぁああっ!」
いや、違う。
違うんだろーね……。
多分だけど、彼は、自分のことを、
勇者だなんて思ったこと、なかったんだよ。
彼はね、ずっと、ぼくらが思っているより、
長い、長い旅をしてきたんだ。
彼は、小さな命から、大きな命まで、
たくさんの声をききながら、ここまできたんだよ。
彼は生きるために戦ったけど、
決して小さな命も、大きな命も比べなかった。
それって、けっこう難しいこと。
彼はね、小さな命も、大きな命も、
一生懸命、生きている事を知っているのさ。
そして、「自分は特別なんかじゃない」って、
大地を踏みしめて、ここまで来ちゃったんだ!
ははっ! どの世界の兎が聞いても、ビックリさ!
だって、あんな心が優しくて、あんな強い兎なんて、
どんな世界にも、そうそう、いやしないってのにさ!
まぁ、何が言いたいかっていうとね?
あいつはさ、ちょっと自分が、
運のいい兎だと思ってるだけで、
ぜんぜん勇者の力を使えるだなんて、
考えてもいないんだよねっ!
まったく、見てられないったら、ないよぅ!
でもね……?
────ドシャあっ!
「────ぐっ!」
『あっ──……!』
今、黄金の髪の女の子がコケたね。
無理もないよ。
だって、ヨロイも全く着けずに、
ただ、生身だけで動いていたんだもの。
あの赤い髪の女の子の魔法で出来た石くれに、
足をとられて、転んじゃったのさ。
「ハァ……ハァ……」
『だ、だいじょうぶっ!?』
「は、はは……流石にバテたかな……」
……みんな、知っているんでしょう?
あの子だって、ただの女の子だった。
あの子が、自分のことを正義の味方だなんて、
心から、思えてると思う?
うんと、ちょっと、違うよね?
彼女はただ、自分の好きなものを、
目の前のモノを、一生懸命、守っただけさ。
そう。だからこそ、キラキラしたんじゃないか。
彼が、なぜ彼女を慕ってるかってったら、そこさ!
彼は、一番よく、知ってたんだよ。
誰かを守るってことが、いかに、
すごく、"わがまま"だって事がね。
だって、命の重さなんて、それぞれの好みで、
勝手に、守りあったり、戦ったり、してるんだからさ?
彼は、今も、
勇者のことは、まるでわかってないけれどもさぁ、
誰が正義で、誰が悪とか、そう簡単なもんじゃないって、
あの、"祭壇"までの旅で、学んだのさ!
だから、大事なんだ。
どれが、"悪"で、だれが"正義"で、
いったい何を、"守る"のかって、
決めていくことがね。
……──ドドドドドドド。
『ぐ、ぐぅぅうううう!』
「う、うさ丸……」
今、うさ丸があの女の子を、庇っているよ。
赤い騎士たちが、剣から火を放っているんだ。
それを、大きくなった体で、さえぎっているよ。
ははは、あんなに必死な顔しちゃって。
ほんとに、自分の付けてるアイテムのこととか、
何にも、知らないんだよなぁ……。
ま、そこが、憎めない所でも、あるんだけどさ?
……──ドドドドドドドドドド……!!
『うっ……うっ……』
「うさ丸……もういいよ、私の負けで。ほら、今の私には、魔法を弱くする魔法がかかっているし」
『うっ……うっ……』
「あんたには、なんの魔法もかかってないから、ほんとにグリルになっちゃうわよ」
『うっ……うっ……』
「なんでそんな、ひっしに……」
──ありゃま。
黄金姫は、地面にぺたんと、座っちゃってるね。
うさ丸が、両手をクロスして、必死に耐えているよ。
いや、ほんとは余裕のはずなんだけど……。
後ろの黄金姫に、傷一つ付けたくないんだろうね。
……まったく、世話がかかるなぁ。
ま、
わかっちゃうんだけどねぇ。
『……いまは、ぼくが……』
「……うさ丸?」
──この二人は、よく似てる。
自分が、決して正義なんかじゃなくて、
でも、わがままに守りたいものがある、ってところがさ。
うさ丸はね、それこそ野性の勘で、
感じているのかもしれないね。
この黄金姫が、今から、
たぁぁッッくさんの戦いの中で、
たぁぁッッくさんの笑顔を、
届けていくんじゃないか。ってことをね。
彼は、仲間の笑顔を守れなかったから。
ひとりだけ、生き残ってしまったから。
でも、もし、そんなところに、現れる英雄がいたなら。
側で、その人の、力になりたいなぁって、思ってるんだよ。
それは、とっても、わがままで、
とっても、純粋な想い。
ふふ、まったく。
なんでこれで自分のことを、
勇者様だと思っていないのか、
私には、理解できないなぁ。
……仕っ方ない。
ふるい付き合いだ。
ちょっと、お節介を、やいてあげようかな?
……───"お〜〜い、うさ丸ぅぅ────!"
……ドドドドドドド……!
『……だっ、だれっ!? さっきから、ぼくにしゃべるのは!?』
「……? うさ丸……?」
ほらぁ、なんだよぅ。
やっぱり、私の声が聞こえてたんじゃないか。
連れないやつだなぁ?
……ドドドドドドド……!!
『だっ、だれですかっ!? と、いま、忙しくて!!』
「え、う、うさ丸……? どったの? ひとりごと??」
う、うーんとね……てか君、その"どらいぶ"の効果……、
『いま忙しいんだ! あ、後にしてよっ!』
あっこら……補正力か……、もぅ、しょうがないなぁ。
うさ丸? 君は、どうせ燃えやしない!
そのまま、よく聞いてね?
『え、ええっ!?』
「? ??」
君はね、確かにそのままでも強いかもしれない。
体も大きいし、筋力も大したもんさ!
……でもねぇ?
私の立場としてはさぁ?
君みたいに、勇者に相応しいヤツがさ?
力を正しく使えないのは、むずがゆぅ────いわけなのさ!
『な、な、なん……?』
……やれやれ。
"きょとん"としちゃってさ……? あのねぇ。
君さ、簡単に言うとさ、レベルアップしか、
してないんだよぅ……。
『 う、え? えっとですね……?』
レベル、"さんびゃくさんじゅうさん"も、あってさ……?
なんで、基礎ステータス振り分けだけなんだよぅ。
いや、それだけでもかなり強いけどね?
……ドドドドドドドドドドド……。
『おととっ! ど、どういうことですか……?』
いや君さ……ようするに。
"りんごポイント"は、ぜんぜん使ってないんだよ!
せっかく"りんごの聖樹の勇者"なのにさぁ────!!!
『り……"りんご"……?』
君はね、基礎ステータス以外にも、
色んなパワーアップが、できるんだよぅ!!
やると、りんごポイントは全部、無くなっちゃうけどね?
『──!? 誰かを守る力を、手に入れられるの? ! わわっ……』
……ドドドドドドドドドド……。
おぉ──すごいすごい。
だいじょぶだいじょぶ、それくらいの炎じゃ、
もう君は料理できないからなぁ……。
でもま、
ちょっとサービスで、
時を、止めとこうか?
────パチんっ!
『────あっ!』
これで、ゆっくり話ができるかな。
──そ。君はね?
いくつかの選択から、力を得ることができるんだよ。
勇者だからね。
『──そ、そうなの!?』
だって、今までの分、全部残ってんじゃん…。
胸のりんご、ピッッカピカじゃん……。
そんだけポイントあれば、
だいたい何でも解放できるって。
さて、じゃあ、おすすめから……!!
──君さ、"人の姿"になりたくない?
『え……?』
君の全部の"りんごポイント"を使えば、
かっこいい、男の子の"神の御使い"にもなれるよ!
おっ、これはこれは……。
予測変換結果が、褐色の肌に、白い髪の毛か……。
なかなか可愛いね!
女の子にはモテモテだろうし、
言葉も自由に話せるよ!
『……!』
もうラビットだからって料理される心配もないし、
どんな武器だって、使いこなせるよ!
どーかな?
『……、……えと、ごめん。ぼくは、"神の御使い"には、なりたくないや……』
ややっ!!
"なりたくない"、ときたか……なんで?
『……ぼくはさ、確かに仲間が欲しかったから、こんな、言葉が聞こえる力を貰ったのかもしれない。でもね? だからといって、ラビットの姿を捨てて、ヒトの姿になるのは、なんか違うかなって……』
……そーぅ?
『──それに、ぼくが旅してきた中で、たくさんの鳥や、動物たちは、ぼくが、ぼくの姿だからこそ、話しかけてきてくれたことも、たくさんあるんだっ? ぼくが、"神の御使い"の……ヒトの姿になってしまったら、あの旅の思い出や、あの感覚は、思い出せなくなってしまう気がする……』
……え──っ……。
『えっと、上手く言えないんだけど……この姿は、ぼくにとって、とっても大切なものなの。そりゃ、ちょっと言葉が伝わりにくくって、困る時もあるけどね……?』
そうなのかー、じゃ、仕方ないなぁ──。
ちなみに性別も変えられたのになぁ──。
『えっ!? い、いや、女の子にはなりたくないな……しかし、すごいね! あの赤い戦士の火が、壁みたいに止まってる! あんまり熱くなかったなぁ……あなたは時の神さま?』
ん? ふふ、どうかなぁ……。
あ、ヒトにはならないんだったね。
じゃあ、どうしよっかな……。
あれ? ヒトにならないんなら、
い、意外と選択肢、少ないぞぉ……?
『え、ぼく、ラビットのままだと、パワーアップできないの……?』
え、いや、いける! いけるよ!
あ、ホラ、これがある!
ほら! "ランクアップ!"
『え……何それ……』
ラビットをベースとした、
別の高位な魔物に進化するんだ!
何になるかはわかんないけど……どぅよ?
『や、やです……。ぼく、一応この丸こい体で、何とか食いつないできたんだ……不本意だけど、モコモコモフモフでご飯が食べれる日もあるんだよ……謎の魔物にはなりたくないなぁ……』
え……まじっすか……。
いや、人間にもなりたくなくて、
高位進化もやりたくないって言うとは思わなかったなぁ……。
あ、じゃあ、これ一つしかないんだけど……。
『どんなの? 神さま』
いや、ちょい違うんだけどね……。
"武装統合"。
……地味だねぇ────!!!
いや、地味だよぉ────!!!
私は反対だなぁ────!!
『ぶ、ぶそーとーごー……?』
君の体に装備している武器を、
強化して一つにする力さ……。
"りんごポイント"を全部使う代わりに、
ちゃんとした武器として使えるようになるってやつ……。
『え……ぼく、今、グローブしかはめてないんだけど……それに、これ大きくなっても破れないし! キッティが洗濯してくれるから、きれいで使いやすいよ?』
そーだそーだ!
武装統合なんてやる必要ナッスィング!!
悪いこといわないから、
人の女の子になっときなよぅ!
うさ耳としっぽは残すから!
褐色うさ耳白髪勇者とか、めちゃいいじゃない!!
"グリルボンバー"と、"ほのおどらいぶ"なんて、
強化なんかせずにさぁ────!!
『え……? "グリ……"、"ほのお……"? 』
君のグローブの名前! "グリルボンバー"!!
君の尻尾のはぐるま! "ほのおどらいぶ"!!
こんな二つを合体させたって……、
うさ耳褐色少女には到底かなわ……。
『──!! このはぐるま、武器として使えるの!? やって、やって!! それに決めた!! ぼく、"武装統合"に全部、"りんごポイント"ってやつ? 使うよ!!』
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ──────!!!!!???????
『……──な、なんだよ、神さま……』
い、いや、だから違うって……。
てか、マジで言ってんの……?
か、"褐色うさ耳少女"、捨てんだよ……?
尊いよ……?
『いや……種族も性別も変える意義がわからないよ……ぼく、この赤いはぐるま、好きなんだ! これがいいよ!! これが、いい……!』
……。
……。
……はぁぁああぁ…………。
しっかたないなぁ。
しゃーねぇ──なぁ──……!
……やってやんよ、"武装統合"……。
じみぃ───────な、使い道、えらんじゃってからにぃ……。
ああ、私の……褐色、うさ耳、女の子がぁ……。
『え、ん? えと……ごめんなさい……?』
……。
……まぁいいよ。
ふるいつきあいだかんな。
『え?』
えっ──と、統合予測は……。
おっ……"ほのおどらいぶ"のスキルが、
"燃焼無効"から、"炎吸収"になるよ。
"グリルボンバー"は、
術者の炎魔法を倍増して打ち出すグローブだから、
この二つが合体したら相性いいかも。
あ、でも注意して!
あんたのスキルの"ちいささ"、
私が時を動かしたら、あと少ししか、もたないからね!
やるならはやく、のしちゃいなよ!
どうせ、相手の赤い女の子は、
傷つける気、ないんでしょ?
『あ、うん……あの赤い戦士は声が聞こえないから、生き物じゃないと思うし……あいつらだけ倒そうかと』
さすが、勇者さまは、おやさしいこって!
じゃ、いくけ?
あ、私とはそんなに頻繁にしゃべれないからね?
この美しい声を覚えておきなさい!
『え……ね、ねぇ、今、ぼくと"ふるいつきあい"、って言ったよね?』
……ぅん? うん、言ったよ?
なんで?
『えと……だれ? ま、まさか、神さまは、ぼくの知ってるラビット……?』
─! はっはッッ!
何言ってんの、うさ丸!!
きみ、よく私の根っこ、
毎日、なぐってたじゃないの!
『え──……?』
しゃ、いくぞこら────!!
───"武装統合"───!!!
"ほのおどらいぶ"!
✕
"グリルボンバー"!
││
"バスターボンバーユニット"!!
────じゃあね、うさ丸!!!
────"私"の勇者なんだ!!!
────しっかり、やんなっ!!!
『 にょ、にょきっとな……? 』
……──キィィイイイイイインン────!!










