よびかけ さーしーえー
{{……、すぅ───……、すぅ───……}}
ねむる。 ねむる。
ねむって、まつ。
レエンの底。
聖なる水域が天を覆う、
大きな大きな、穴の下。
私は、ねむって────……。
『フシャ───────!!!』
ベシベシベシベシ。
『 ……──ガ、ガルルロロォォ──……! 』
『うむ……。今日もネコ殿は、荒ぶっておられるな……』
{{ん……}}
『おお、イニィよ、目覚めたか……!』
『フニ"ャニ"ャ────!!!』
バシバシバシバシ。
『……──ガッ、ガルンガルゥゥ────ン……!!』
{{む……貴方達……またやっているのですか}}
湖底であるはずの、この空間。
しかし、水は無く。
空からは、光が、水を通った。
ゆらめく、幻想的な光の中、
もう、慣れ親しんだ騒音で、
私はまた、覚醒した────。
{{……うるさくって、とても寝ていられませんね……お父様、前から、どのくらい経ちましたか?}}
『うむ。正確にはわからなくなった。だいたい70年くらいであろう』
{{おおお、おっ父様ッ!?}}
『も、問題ない。かの黄金が来れば、今の私とお前なら、わかる。その時を、待つしかないのだ……』
{{そ、それは……そうですが……}}
お父様ったら……。
その姿になられてから、
随分とのびやかになられて……。
『フニ"ャフニ"ャニ"ャ─────!!!』
バコバコバコバコ。
『……──ガッ、ガルゥゥウウウ───ン──……!!!』
{{……}}
『……い、イニィよ、私は体が動かん。ガルン殿を、助けてやってはくれまいか……』
{{はぁ……こらっ。またこの子は……ガルンをタコ殴りにするのは、およしなさい}}
『ニ"ャンニ"ャン!』
『……──ガガガッ、ガガガッ──……』
ふよふょょ〜〜……、ぴとん。
『ニ"ャ』
{{……}}
悪魔である私の肩にも、臆することなく。
この金色のキャットのような流路体は、
ちょこんと、乗っかってくる。
……まぁ、今の私は、悪魔は悪魔でも、
見た目的には、随分、幼い女の子だが。
『ニャンニャン!』
{{……やれやれ}}
へんなのに懐かれたものだ。
だが、この子は、とても大切だ。
この子がいないと、彼女を起こせない。
来たるべき時が来た時、
私と彼女の流路を繋ぐのは、
この子の、金の流路だ。
この、小さな金の精霊を、
私は、守り抜かなくてはならない。
……と言っても、ちょっと流路を分けているだけだけど。
『ニャンゴロゥゥ────!!』
『……──ガ、ガルッ──……!?』
{{ガルン……貴方も怯え過ぎです……貴方が本気で吼えれば、この子を気絶させるくらい、造作もないのですよ……?}}
『……──ガル──ン─……』
{{……何故に貴方は、"あんこくの総大将"的な立場なのに、そんなシャイなのかしら……}}
『うむ……これだけ体格差があるのになぁ……』
ガルンの上顎は、また少し、小さくなった。
私の身体を維持するための闇魔法は、
彼から少しずつ、削り取っている。
ただ、まだでかい。
なかなか大きい。
でも少し、不安にもなる。
もし、"彼女"が来る前に、
ガルンの闇魔法が無くなってしまったら……
私とガルンが、消えてしまったら……
私の流路に依存している、
この金色の精霊も、消えてしまったら……。
ここにいる"彼女"に干渉する手段は、
永遠に、失われてしまう──……。
『……だいじょうぶだ、イニィよ』
{{……お父様}}
ガルンの大きさを、気にしていたからだろうか。
お父様が、私の心配を見透かして、声をかける。
大きな、白い花を咲かす、
大木となったお父様を、見上げた。
『かつて、この金色の少女は、私達を助けてくれたであろう? ……確かに、確かに、この者は、ここへと、辿り着くのだ……そして、また、過去へと飛ぶ……』
{{……く}}
……そう。
もし、彼女が過去に行くことが、
この場所に、とらわれることが、
"さだめ"、ならば──……。
何も知らない彼女は、ここに、くる。
また、私達を、助けに、くる。
そして、おそらく、
私が、彼女達を、送り出すのだ。
────あんな、地獄のような、場所に────。
{{……わ、たし、は──……}}
『……』
『……ニャンニャ?』
『……──ガルルロ──……?』
目の前には、大きな金の歯車が浮いている。
天から注ぐ光の帯に、キラキラと照らされている。
その、輪の中に、私には、見える。
半透明に輝く、金色の道化師が。
髪が、なびいているのが、わかる。
腕は、今にも動きそうだ。
目は、虚ろ。
微塵も、動かない。
仮面は下にずれ、
彼女の顔が、いかに整っているかが、わかる。
まるで、ガラスの彫刻のようだ。
{{送り、出さねば、なりませんか……}}
『……イニィ』
{{このような姿で、時が止まる事になるのに……}}
『……──ガルルロロォ──……』
{{何も知らずに、私達を助けにくる、この少女を……あんな過去に……}}
『イニィよ、わかっておろう……』
{{……}}
『……もし、ここにいる少女を起こし、未来に産まれるであろう黄金を、過去に送らない選択をすれば……全く同じ存在が、ふたつ、出来てしまう……』
{{……はい}}
『……同じ時代に、同じ概念が分裂する……その時に起こりうる影響を、私は不安に思う……』
{{……}}
『───ニャンニャン?』
『それにだ……。おそらく、過去の私達だけでは、愚かなる王を封ずることは出来なかった……』
{{く……}}
『イニィよ……。入れ替えねばならん。この時が止まりし"少女"と、未来より来たる"黄金"を……。過去と未来、どちらをも、守るために……』
{{ぐ……く……}}
『助けられた……私達が背負う責務なのだ……』
とまる、少女。
淡い金の、ガラスの少女。
まったく、うごかない。
私は、まきこんだ。
彼女がいるなんて、知らなかったから。
私のせいで、ぬい止められてしまった。
{{ピエロちゃん……}}
もう、500年くらい、経っただろうか。
それとも、もっと?
私にも、わからなくなってしまった。
まだ、こない。
不安は、ある。
眠りについている時も、感じてはいる。
でも、見逃してしまったら、
この娘は、もう、家族にも、友人にも、
二度と、会えないかもしれない。
そんなのって、ないわ。
だから、私は────……。
『時にイニィよ……体調の方は、どうなのだ……』
{{……?}}
『その……杖の色が……』
{{ああ……そうですね}}
私の側に浮く、十字の杖。
もう随分と、真っ白になっている。
あの封印の時から、
じわじわと、白が侵食してきていた。
『……其方は、身体的には、悪魔であるからな……その色は……』
{{ふふ……}}
親愛なる大樹の父が、心配してくれているようだ。
{{よいのです、お父様}}
『イニィ……』
{{たとえ、杖の白に食われようとも、かまわない。それが一番重要なことでは、ないのです}}
『……』
{{これだけ、ながく生きたのです。"役目"さえ終われば、私は……}}
『……──ガァアルンガルゥゥ──ン!! 』
『!』
{{──! ふふ、そうね……貴方がいるうちは、まだ、消えないわね}}
『フシャ────!!』
ふよふよ〜〜、
バシバシバシバシ。
『……──ガ、ガルンガルン──……!』
悪魔と、
大樹と、
精霊と、
暗黒。
会話が出来る存在が、ここに集ったのは、
嬉しい誤算だった。
お父様も、ガルンもいなければ、
たった1人で、私は発狂していたかもしれない。
いま、ガルンを、タコ殴りにしている金は、
かつての彼女の流路を、思い出させてくれた。
……待とう。
彼女さえくれば、
いつ、杖の白に消されても、かまわない。
{{はやく私を、けしにきて アンティ──……}}
湖底であるはずの、この空間。
しかし、水は無く。
空からは、光が、水を通った。
ゆらめく、幻想的な光の中、
私達は、待っている────。
──……
──……
──……
私がもっと小さくなった頃、
きた。
まだ遠い。
でも、いる。
忘れはしない。
こっち。
(──え?)
こっち。
(えと……)
こっち。
(あれ、私……)
こっち?
(どうしたっけ……)
ねぇ。
(は、はい……?)
……こっち。
(ぅ、ええ?)
きて。
(──?)
まってる。
(え、ちょっ……どこで?)
しってるくせに。
(────え?)
……。
ふふ。
あの娘だ。
びっくりしてる。
そうだ。
こんな声だった。
ふふ。
……なつかしい。
{{ こっちだよ、アンティ──…… }}










