殴り込み杖
豪華な扉の前に浮く、白い杖。
三つの刃を携えた、撲殺十字。
『────分析完了。
名称【 スリーフォウ 】
(スキル媒体/アイテム)
分類:魔杖
状態:活発
スキル:"価値交流"
────────半同期状態です。』
「──! すでに少し"同期"しているのね……!」
……間違いない。
今までの"過去の記憶"に出てきた、
あの人の使っていた、杖の実物だわ。
『────謝。半同期状態の解除は不可能判定。杖自身の固有スキルの効果だと予測。』
「そうなん、でしょうね……」
目の前の杖はまさに、
"お待ちしておりました"
って感じだわ。
この杖にも、先輩やサキみたいに、
魂が宿っているのかな……。
この世界のアイテムって、意識ありすぎでしょ。
……あれ、私がおかしいのか?
普通はこんなに出会わないのかな……??
ま、まさか、時限結晶が呼び寄せてるんじゃ!?
ん? ……あれ?
「! この杖、真ん中の穴にあった"紫の宝石"が無くなってるわ!」
十字架のクロスしている所の穴が、
ポッカリと空洞になってる!
─────────────────────────────
>>>! ホントだね!
お城での"記憶"では 確かに
中央の空洞に
浮くように固定されてたのに……
─────────────────────────────
ど、どういう事だろう?
あ、そうか!
"紫の時限結晶"が暴走して、
周りのお城と街ごと、
消し飛んじゃったのかな……?
多分、こ、これからその記憶、見るのよね……?
……ぶるぶるぶる。
私の相棒、それより強力なの積んでるんだけど、
まさか、"再現"されたりしないわよね……?
頭の上……こっわぁ。
『────むっ。アンティ。私達ほど"時限結晶"を使いこなしている者などいません。』
「あ、おこった。ふふ」
……まぁ、だいじょぶか。
それに、"紫"の方が無くなっちゃったなら、
それはそれで……いいかもしれない。
やばいブツに、変わりなかっただろうし、
やっぱり、何かの争いの火種になるかもだし。
「お城を、吹っ飛ばしちゃってるっぽいしなぁ……」
─────────────────────────────
>>>うーん そうだねぇ……
猿辞典には、お城ひとつ分は
容量があったって書いてた
でも、周りの街まで
湖になっちゃってる所を見ると
もう少し大きな容量だったのかも
しれないね……
─────────────────────────────
な、なるほど……お城ひとつ分なんて容量、物を入れて試すだけでも大変だもんな。
うーん……私の"赤い時限結晶"で同じようなことをしたら、
どうなっちゃうんだ。
……世界、滅びたりしないよね?
─────ス──────……ッ。
「──!」
白の杖が、私の側まで、
ゆっくりと宙を浮いて、来た。
……もう、これくらいで狼狽はしない。
知らないウチに、勝手に動くアイテムには
随分、耐性がついてっかんね……。
「……あなたが、私を呼んだの……?」
大きな杖に、話しかける。
……。
……。
……あんりゃ、静か。
「……こいつ、しゃべんないわね」
なんだろ……じっと私を見てるみたいな……。
……んだこの野郎。あ、お姉さんか。
私のカッコウになんか文句あっか。
あれか。実物見て絶句してんのか。
おうおうおぅ。
『────……。』
─────────────────────────────
>>>つ、杖にケンカ売らないでね〜
─────────────────────────────
「! だっ、誰がケンカ売ってるのよ! チンピラみたいに言わないでくれるっ!?」
ホンット、たまにデリカシーないコト言うんだから……!
ドニオスに帰ったら覚えときなさいよっ!
────チャキ。
「……────!」
杖が、ずいぶん近くまで、きてた。
……この高さ。
まるで、握ってくれと言わんばかりだわ。
「あなたを……持てばいいの?」
……応えは、ない。
肯定、かな。
「……よし」
金のグローブで、そっと、握りを持つ。
────ヴォヴォヴン。
「!!」
なんだ今の感じ!
『────同期強度が更新。敵意は検出されません。流路が形成されています。』
────シュウウウウウぅぅ──……
杖……"スリーフォウ"っつったっけ?
を見ると、金色の筋のようなものが、
表面の白を駆け抜けている。
これってまさか……私の流路?
「きれい……」
思わず呟いた。
よく見ると、杖の色が少し変わってる?
『────魔杖"スリーフォウ"の流路と、当機の流路が直結交流しました。』
「! それってまずい?」
『────否。操作系統の流路も交流しています。こちらも干渉を受けますが、逆に思い通りに操作することも可能です。』
「──! "流路を交流させる能力"──!」
『────的を射た解答。流路に介入:増幅:拡大する等の能力があるようです。』
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>>>なるほど!
アンティ見て 杖の表面
きみの金色の流路の他に
白く光る筋もあるだろう
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「! ほんとだ!」
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>>>恐らく それはレエン湖の
ヒールスライムの流路だよ!
この杖を通して
きみの亜空流路と繋がってるんだ
"中継地点"なんだよ
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──!
最後の言葉はよくわからなかったけど……
この杖は、流路と流路を繋ぐのね!
んでもって、お城を再現しちゃったと……。
──"価値交流"、すごいスキルだわ!
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>>>そ そのスキル名は、
どうかと思うけどね……
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「? そうなの? なんかしっくりくるケド……」
先輩のシュミはよぅわからん。
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>>>しっくりきちゃダメだよう……
あ──……
その杖は 時限結晶の流路を
引き出して 使っていたんだね
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『────同意します。術者と、アイテムの流路を交流させる事は、安定した操作系を確立します。"記憶"の中の彼女の時空弾は、この杖あっての産物と予測。』
……安定した、操作……。
「……でも、じゃあなんで暴走なんかしたんだろう……」
『────……。』
─────────────────────────────
>>>……ホントだね……
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────クぃッ!
「──!」
キィん──!
手に持った杖が、私をひっぱり、
身体が一歩、前に出る。
目の前には、豪華な、大きな二つ扉がある。
真っ白なので、材質はわからないけど……。
「……この先に、進むのね?」
静かに、杖は、こたえた気がした。
扉にグローブを押し当て、
力を入れる。
──ゴゴゴゴゴゴゴ──……!!
────白い光と共に、扉は、開いていった。










