俺と友達になって下さいっ!
高校の入学式の時に私、九之瀬大和は恋に落ちました。
「なぁーとしみつー・・・あの人とどうやったら仲良くなれっかね?」
「誰と?・・・もしかして小鳥遊とか?」
「そーだよ!それ以外に誰がいるって言うんだね!」
俺はそんな愚痴のような恋心を親友の瀬谷俊褌に相談事のように愚痴っていた。
小鳥遊華希、この緑坂高校に置いてマドンナのような存在の彼女に俺は、入学式の日に恋に落ちた。所謂一目惚れと言うやつだ、そしてなんの縁なのか1年から3年までの間同じクラスなのだ。俺からすれば超ラッキーなのだが1年から3年までの2年間俺は彼女と会話はおろか声をかけることすら出来ていない状況なのだ。
「そんなん簡単だろ?普通に友達になって下さいって言えばいいじゃねーか」
「そんなことが出来てたら今こうやってチミに愚痴ってないの。お分かり?」
そう、マドンナと言うだけあって彼女の周りには人が絶えず集まって来る。男も女も。その中に俺は飛び込む勇気など落ち合わせておらず、よく俊褌には“チキン”だの“ヘタレ”だのと言われ罵られている。やはりイケメンの言うことは次元が違いますね〜。なんて言って囁かながら反抗するのが精一杯な有様。まったくもって情けないな。
「おら、チャイムなったぞー早く教室入れー」
そんなことを考えてるといつの間にか昼休みの終了を告げるチャイムが鳴っていたらしく、職員室から出てきた先生に促されるまま教室に入っていった。
「・・・い・・・。お・・・まと・・・!おい大和!」
「んぁー。何?」
「何じゃねーよ、指されてんぞ」
「え?・・・マジで?どこ?」
「九之瀬ー、さっさと立って読まんか。授業が進まんだろーが」
「えっ、いや、あのー・・・すんません、寝ててなんも聞いてなかったっす」
そう言った途端クラスから笑いが起きた、どうやら今は古典の授業中だったらしく。始まって5分も経たないうちに寝てしまっていたらしくその間に教科書を読む番が来ていたらしい。そんなこととは知らずにあたふたしていると授業終了のチャイムが鳴った。
「じゃー今日はここまで、それと九之瀬は特別課題としてノートに教科書の本文書き写しなー」
「そ、そんなー・・・勘弁してよー」
クラスからはまた笑いが起きた。そんな調子で6時限目も終わり、掃除と帰りのSHRが終わり放課後になった。俺は一目散に教室を飛び出しある場所へ向かった。俊褌を連れて。
「としー!早くしろよー!時間に間に合わないだろー!」
「ちょっと待てや!・・・はぁ、はぁ・・・学校からノンストップで走ってんだぞ!・・・少しは休憩ぐらいさせろや・・・はぁ、はぁー」
「でもよー早くしないとよー」
「“ゲーム”は逃げねえっつうの!!このバカタレが!」
ある場所、それはゲームショップである。そして今日は3ヶ月も前から予約していたゲームの発売日なのである、だから俺のテンションも上がりっぱなしで学校からゆうに3kmは離れているこの店まで走ってきたのだ。
「あの!今日発売の〇〇〇〇って言うゲームを予約した、九之瀬大和なんですが!ゲームありますか!?」
ゲームショップに入るなりダッシュでレジに並び早口気味にそう言った。だが流石店員、少々お待ち下さいと言ってレジの後ろにある棚から商品を持って来てこちらで宜しいですか?と確認までしてくれた。
「はい!それです!」
「かしこまりました。それでは御予約の整理券をお預かり致します。」
少し落ち着きを取り戻した俺はバックの中から財布を出そうとしたが問題が発生した。
「おい、どうしたんだ?もしかして金がたんねーのか?」
「いや違う・・・あれ?・・・財布が無い・・・あれ?あれ??」
バックの中をどれだけ捜しても財布は見つからず制服のあちこちを触ってみてもどこにも無く。頭を抱えていると昼休みに購買でパンを買ったことを思い出した。
「あぁー!思い出した!」
「うぉっ!いきなり大声出すなよ!びくったー」
「机の中だ・・・今日昼休みに購買でパン買ってそんで授業が始まって寝る時に邪魔だからする机ン中に置いたんだ」
「どーすんだよ、今日は諦めて帰るか?」
「俊褌!ちょっとここで待ってて!」
「おい大和!何処行く気だよ」
「ちょっと学校まで財布取って来るから待ってて」
そう俊褌に言い残して、俺は来た道をもう一度走って戻った。
学校に着き、呼吸を少し整えてから校舎に入り教室に向かうと、誰かがいるのに気づき、ドアの影に隠れて様子を伺う事にした。
「くそー、誰だよこんな時間まで残りやがって・・・」
流れる季節の 真ん中で
ふと日の長さを感じます
(この歌・・・どっかで聴いたことあるような・・・それとこの声も・・・・・・!!まさか)
「せわしく過ぎる日々の中に私とあなたで夢を描く・・・だっけ?」
俺の登場により相手は遠くからでも見てわかるくらいに肩をビクッッとさせてこちらを睨んできた。俺は両手を上げてオロオロとしていた。
「べ、別にあ、怪しいものじゃないよ!ほら同じクラスの九之瀬大和だよ!わ、分かるかな?」
「・・・よく授業中に寝ている人?」
「ま、まぁそうだよ・・・・・・それにしても歌上手だねー、小鳥遊華希さん?・・・でいいのかな?」
「名前を言われてからから確認をされても困るんだけど・・・・・・それに盗み聞きなんて、最低ね」
「そ、そこまで・・・言います?」
「えぇ」
教室に居たのは俺が恋をした相手の小鳥遊華希だった。財布を取りに戻ってきて良かったーっと最初は舞い上がっていたが、ふとある疑問を抱いた。
「けど、意外だね。小鳥遊さんってさ、ほらこの学校のマドンナみたいな人だからさ・・・・・・べ、別に嫌味を言ってるわけじゃないんだよ!・・・けどさ、そんな人なら友達と遊びに行くなりするのになんでこんな教室で1人ぽつんといるんかなーって、疑問に思ってさ」
正直言いたくは無いが、背丈もモデルさんみたいにあって顔も綺麗で整っててスタイルも抜群だから彼氏と一緒に帰るなりデートなりしているんじゃないんだろうかと勝手だけど思っていたので驚きだった。
「・・・・・・私には友達なんていないわ・・・」
「そんなことないでしょ?だって小鳥遊さんの周りにはよく人がいっぱいいるじゃないか」
「そうね、けど友達では無いわ。」
「なんでそんなこと言うんだよ!そんな訳ないだろ?」
俺がそう言うと彼女は、そうね。と一拍置いてからこう言った。
「私、対人恐怖症なの・・・だからあなたとこうして喋っているだけでも怖くて仕方が無いの」
「対人、恐怖?えっ?ちょっと?えっ?はっ?」
その時ガツンと頭にコンクリートブロックをぶつけられたかの様な衝撃を受けた。
「だから私には友達なんていないし・・・・・・これから先も一生出来ないわ・・・」
俺に向けられたその瞳は、どこか悲しそうで恐怖しており哀愁を含んでいた。俺はとっさに目をそらしてしまった。理由は簡単だろチキンでヘタレだということもあるがそれ以上に、彼女になんで声をかけて上げればいいか分からなかったからである。今の彼女を目の前にしてはどんな言葉もタダ上っ面の綺麗事にしか聞こえないだろであるかだ。
「ごめんなさい、私は人と関わる事が嫌いなの。だから失礼するわね」
彼女はそう言って俺がいるドアの反対のドアから教室を足速に出ていこうとしたが、どこからかちょっと待って!!と言う叫び声が聞こえた。そしてその声の主が自分だということに気づいたのはそれから数秒後だった。
「何?他にまだなにか用があるの?」
「あっ、いや、そのー、あの、えーと・・・・・・・・・・・・お、俺とと、友だ、ちにってくれないで、すか?」
「無理ね」
俺が訳も分からない中振り絞った勇気で言ったことに対しての返事は即答だった、まぁ対人恐怖症の人に友達になってくれなんて言うのは自殺行為と同じことだ。けれども俺は興奮してドーパミンが出すぎているせいなのか、引き下がろうとしなかった。
「じゃ、じゃあさ・・・俺と交換日記してくれないですか?・・・あ、あのほら!文面だったら別に対人恐怖症でも友達になれるし・・・それにもしかしたらその対人恐怖症が克服できるかもしんないし・・・あぁ!もうこの際理由なんてどうでもいいや!俺は小鳥遊さんと友達になりたんです!だから俺と交換日記してくれませんか!!」
俺は自分の思いや気持ちを全部吐き出して、彼女に友達になってくれと頼んだ。けどやはり、返事が返ってくる訳ないし、ドン引きされて嫌われたなーと思っていた。
(あーあ、ドン引かれて嫌われただろーなー。さよなら俺の高校3年間)
「君ってほんとに面白いね。」
(ですよねー、俺って本当に面白い・・・・・・)
「えっ?」
俺は自分自身の耳を疑った。あんだけの事を吐き散らかしたのに面白いなんて言われるとは思っていなかったらである。
「てことは、じゃあ・・・」
「えぇ、友達の件に関しては置いておくとして・・・交換日記ぐらいならしてもいいわよ。九之瀬大和君」
「ぅ〜〜〜〜〜っしゃーーーっ!!」
俺は余りの嬉しさに喜びを爆発させた。勿論あまりの煩さに職員室から先生が出てきて絞られた。そして俺は目的の財布を机から取り出して学校をあとにした。
「ごめーん!!遅くなったー!!」
「おっせぇぞ!!どこふらついてたんだ!!」
「ごめんごめん・・・・・・ウヘヘ・・・」
「どうしたよ突然にやけ出しやがって、気持ちわりぃな」
「実はさ・・・小鳥遊さんと交換日記することになったんだー」
「へぇー・・・え。はあぁぁぁぁ!!?」
これが俺と小鳥遊さんの友達未満恋人並々の、奇妙な関係の始まりだった。