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白の竜騎士物語  作者: 涙涙涙
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Lv91 職人の極み

サラリと爆弾発言をした乙女を袋にしまい、オレは遺跡を後にした。



「『乙女の怒りは怖いのよ』じゃねーよ。怒って世界崩壊とか洒落にならんし」



遺跡を出ると外は陽が落ち始めていた。



「もう夜になるのか、、、ひとまずこの石を持って爺さんの所に戻るか」



『インテ』



帰りは転移魔法で一瞬で戻った。

目の前には古びた宝石店がある。



「一旦戻ったよー」



ドアを開けながら声をかけるが返事がない。

奥の工房から人の気配がするので入ってみる。

そ〜っと覗くとテーブルの上で何やら作業しているゲンカイ爺さんとカンナの姿があった。



「よし、そこじゃカンナ。そこをしっかり抑えておくのじゃ」


「あいよ!わかったよ爺ちゃん」



真剣な顔つきで取り組む二人。

爺さんがマイナスドライバーの様なノミに向かって小型のハンマーを振り下ろす。


カィン


カィン


カィーン…



爺さんの頬に汗が伝う。

カンナの額にも汗が滲んでいる。


その場の雰囲気にオレは思わず飲まれてしまい、微動だにできなかった。


鬼気迫るとはこのことか。。。



、、、、、打ち始めて30分ほど。




「仕上げじゃ、いくぞカンナ!」

「あいよっ!」



キィーーーーン、、、、、



「……よし、離していいぞ」



爺さんの声で指輪の土台から手を離し、椅子に崩れるように座り込むカンナ。



「ぷぁーっ!気ぃ張ったよ〜」

「ほっほっほ、ワシもじゃよ。こんな素材触れる事なんてひと握りの職人だけじゃからの」



テーブルには、オレの尻尾から剥いだ鱗でできた指輪のリングが鮮やかな黒色の光を放っている。



終わったのを確認してオレは二人に声をかけた。



「ただいま、二人ともお疲れ様!凄いよ、鱗をこんなキレイなリングにするなんて!」



「あっ!兄ちゃんおかえり!」

「おぉ、帰ったか。どうじゃ?なかなか良い出来栄えじゃろう。骨が折れたわい」



「うん、とてもキレイなリングになって驚いたよ。あっ!でも、リングのサイズが、、、」



「案ずるな。この指輪はお主の、生きた竜の生きた鱗をそのまま加工した物じゃ。言わば生きた指輪。はめるべき指輪の主の指に自然にはまるじゃろう」



ふあぁ、職人パネぇ。

すごい技術と知識だな。

爺さんの場合は長年の経験もプラスされてるわけか。



「して、石の方はどうじゃった??」



「ああ、行った場所には…………」




オレは二人に最初の石のGET報告をした。





「……ふむぅ、言い伝えは本当じゃったか。。。」


「でも、喋る石なんて凄いね!?ねぇ、見せて見せてよ!」



わかったと返事をしてオレは袋から石を取り出す。



「……おぉ、、、これが。。。」

「すっげぇ、、、キレイ。。。」



二人とも石を見て言葉が出ないようだ。

普段から石を見ながら生計を立ててる二人だ。素人目から見ても凄い存在感だから、きっと石職人の二人には途方もないものに見えてるのだろう。



「さ、触ってみても……よいか?」



爺さんの問いにオレは頷く。

そっと手にとった爺さんが口を開いた。



「こ、、、これ程とは。。。」


『なんじゃ、そなたは石使いか?』



憤怒の乙女が語りかけると、爺さんは更に目を丸くして思わず石を落としそうになった。



「い、石が。。。喋った!!?」



『ほぅ、そこの娘も妾の声を聞くか。石に愛されてるのぅ』



「えっ?乙女、お前の声は普通は聞こえないのか??」



『主であるそなたならまだしも、一般人には妾の声は聞こえぬ。よほどの石匠や不思議な力の持ち主でなければ妾の存在に気づかないからの』



なるほど、所有者のオレはともかく二人は石匠だから乙女の声を聞けるわけか。



『ときに石匠よ、妾を丁重に扱うのじゃ。妾はこれから主の花嫁の指輪となるのでなぁ』


「で、ですがこの様な高尚な石をワシなどめが、、、、、」


『そなたは良い匠じゃ。妾を持つこの手がそう語っておる。妾が人々に囲まれていた時代にもこれ程の良い匠はおらなんだ』


「し、しかし。。。ワシにはこの石を加工する技能など……」


『点穴の道筋は妾が導こう。そなたはそれに沿って道を通してくれれば良い。大丈夫じゃ、石に愛される己の手を信じよ』


「は、はい。わかりました、このような老いぼれの手を褒めていただき有難く存じます」



そう言うと宝飾工具に手を伸ばすゲンカイ爺さん。



「じ、爺ちゃん!ついさっき竜の鱗を加工したばかりなのに、無理だよ!?」



オレもカンナと同意見で、少なくとも休憩してからが良いと思ったのだが、、、


「ほっほっほ。いいんじゃよ、カンナ。この老いぼれは年甲斐もなくはしゃいでしまっているのじゃ。まるで若い頃に好みのメスを見つけて発情したときのように興奮しての。竜の鱗もそうじゃが、こんな神石には七度生まれ変わってもお目にかかれないからのぉ」



我慢できんのじゃと爺さんは大きな口でニタリと笑い、石をテーブルに置いた。



「、、、わかったよ爺ちゃん。あたいも手伝う!」


「ほっほ、ありがとうの。では、そちらに座って見ていておくれ」



テーブルの向かいにカンナを座らせて、オレも横から見る形になる。



「もう暗いから、灯りを。。。」


火魔法で灯りを灯そうとしたオレを爺さんが止めた。



「よいのじゃ。この石の輝き、目を閉じても感じるわい」



そう言うと爺さんは本当に目を閉じてしまった。



『ほう、、、妾の助けなど、要らぬ世話のようじゃな。石匠よ、そなたの導くままに通すが良い。失敗したとて、妾は自身ですぐに元に戻れる』



「ほっほ。乙女様、この老いぼれは御身に余計な傷をつけるなど、恐れ多くてできませぬ」



『言うではないか』



その言葉を最後に、辺りが静けさに包まれる。


爺さんは目を閉じたまま、指先で触れるか触れないかの感覚で石を撫でる。


オレだけでなく、見ているカンナも息を呑む。



「、、、、、行きますぞ、乙女様」



『よきにはからえ』



音もなく、左手のノミを石に当て、右手でハンマーを大きく振りかぶる爺さん。



(さっきと力の込め方が違う。そんな思い切り振り抜くのか!?)



思うと同時に、ゲンカイ爺さんのハンマーが振り落とされた。


その迫力に、オレは思わず目を閉じてしまった。。。。。が、



「あれ、、、?音がしない。。。」


そ〜っと目を開けてみる。


真っ先に目に入ったのは、既にハンマーでノミを打ち抜いた体勢の爺さんだった。



(えっ?今打ったのか??)



その次に目に入ったのは、椅子に座り前のめりで食い入る様に作業を見ていたはずのカンナが背もたれに倒れ、目を見開き、口が完全に空いたまま、綺麗な桃色の髪も乱れ完璧なあわわ状態になっている。

可愛い少女のこのような姿はなかなかレアだ。



『、、、これ程とは。。。』



乙女の声が聞こえ、やっと石に目を向けると。

そこにはキレイに打ち抜かれ一面が真っ平らになった石があった。


その一面だけ、今までの光とは比べ物にならない眩い光を放っている。



「………おおおおぉっっ!!」



爺さんが吠えた。


もう一度振りかぶる。


先程二人の作業を見て『鬼気迫る』と思ったのを訂正しよう。


そう思えるほどに、爺さんは。

一人のワーウルフは、『鬼気』を放っていた。



………ひと打ち



…またひと打ち



物理的に音がしないはずがない金属の打ち込みが繰り返される。



【真・芯打ち極】



この技術にそう名前が付けられたのは、この瞬間だった。




――――――――――――――




打ち始めてから僅か五分ほど。。。




『………見事じゃ』



最後のひと打ちと思われる打ち込みを振り抜いた直後、ゲンカイ爺さんの体がグラリと傾いた。



「爺ちゃん!?」



咄嗟にオレは爺さんの体を倒れないように支える。体が火のように熱い。大量の汗もかいていた。どうやら失神しているようだ。



「カンナ!水だ!」


「う、うん!わかった!」


カンナが勢いよく水を取りに駆け出す。


机の上には、まるでそこに灯りがあるかのように光っている宝石があった。




「、、、すごい」



言葉も出なかった。


表現しようのない、ダイヤモンドなどガラス玉にしか見えなくなるような眩い宝石が、静かに光を放っている。



『主よ』



乙女が語りかけてきた。



『妾は、、、、、綺麗か?』



声が、震えているように聞こえた。



「ああ、、、、、ろくな言葉も出てこないほど、美しいよ。。。。。お前、泣いてるのか?」



『この世に意思を持ち、気付けば世界を変えられるほどの力を持ち。数多の人間が妾の力を望み、争い、奪い合い。力を得んがために力に呑み込まれ全滅し、愚かな人間など近寄らぬよう魔物に守護させてただ過ぎてきたこの数百年数千年。この者は、妾が輝くため。。。光り輝くため、只それだけを想い小槌を振るった。このような想い、するとは思わなかったのじゃ………』



「そうか、、、」



石だと思っていたが、これが一人の人間におきかえてみたら、どれだけ凄惨な人生だろうと思う。

正直想像もつかない。気が狂いそうになる。



カンナが急いで戻ってきて、眠る爺さんの口にゆっくりと水を含ませた。



「………む、、、ここ、は?わ、ワシは一体」


「爺ちゃん!すごかった、、、と、とにかく、すごかったんだよ!!」


カンナも涙を流している。



「そうか、、、ワシは夢中で。。。!?石はっ?乙女様は、、、!?」



『石匠よ、見事じゃった』



「おぉっ!その姿、、、やはり、美しいですな」



『名を、、、名を聞こう』



「はっ。ワシはゲンカイと申します」



『ゲンカイ、、、礼を言う。感謝する。そなたのひと打ちひと打ちが、妾に響いたぞ』



「恐れ多い。。。恐縮にございます」



『では、最後のひと仕事じゃ』



「はっ!仰せのままに。。。」



ゲンカイは眩い宝石を手に取り、先ほど出来たばかりの黒竜のリングへと近づける。


ピンポン玉が一回り小さくなったサイズの石は、リングの宝石がはめ込まれる土台に近付くとみるみる小さくなり、指輪の宝石サイズに完全に土台にハマった。



「す、すごいしか出てこない。これが最高の匠と至高の石。。。。。」



『主よ』



乙女がオレに語りかけてきた。



『力が、、、溢れる。世界を七度滅ぼせそうじゃ』




「それはちょっと、、、勘弁。。。」




ーーーーーーーーーーーーーーー




その夜、オレは爺さんの店に泊まらせてもらうことにした。


森で速攻で狩って来た猪の焼肉に、街で買った酒を加えてささやかな宴会だ。



「ぷはぁー!美味い、今日の酒は一段と美味いのぉ!!」



爺さんの見事な飲みっぷりだ。



「オレも、凄いもの見せてもらった。アレは鳥肌が立ったよ」


「あたいなんか、はぐはぐ、涙が、はぐはぐ、止まらなくて……」



肉にかぶり付きながらカンナも興奮気味に話す。



「でも、爺さんとカンナのおかげで指輪が一つできた。改めて、ありがとうございます」



「なに、礼を言うのはこっちじゃよ。それに、あと六つ作らんといけんでな!」


「あ、そうか。。。でも、こんな体力の要る作業をあと六回も、保つのか??」



「ほっほ、一度触った石の感触など忘れるわけがない。慢心でもないが、一つ一つ心を込めて作らせてもらうよ」


「あたいもあたいも!」


「爺さん、カンナ。。。本当に感謝する」


「いいってことよ!」


「ほっほ、そうじゃて。ところで、七人の花嫁の分はいいが、お前さんは指輪をしないのか?」



「あ、、、そうか。。。でも、同じ指輪は二つと作れないし、オレのは何かの機会があればでいいよ」


「そうか。七つ作るのも八つ作るのもかわらんからのう、是非手がけさせてもらおう」



ありがとうと言った後に、懐にしまっておいた指輪が語りかけてきた。



『主よ、残りの石は手に入れるのはさして難しくはない。妾の様に守護している魔物を倒しさえすれば手に入れられるでの』



その言葉を聞いて、少しホッとする。



ーーーーーーーーーーーーーーー



腹いっぱいになり、店の空き部屋のベッドで横になると、疲労と満腹、酒の勢いもあり、すぐにねむたくなってしまった。



爺さんとカンナも、今日は流石に疲れたのかすぐに隣の部屋から寝息が聞こえてきた。



残りの指輪は6個。



素晴らしい石と職人に出会えたことに感謝して、オレは眠りにつくのであった。

指輪探し︰1日目夜終了

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