Lv8 灯し火
「あっっっ……あ、あ」
ボロボロに、
いや、肉体のほとんどが削り取られた竜を見て言葉が出ない。
出会ってから1時間も経っていない。
特に情が移ったり心を通わせた仲ではなかった。
でも、それでも、恐ろしくも美しく、日向ぼっこが好きで兄弟想いな竜に、好感に似た感覚は始まっていた。
例えるなら、
道を歩いていて出会った可愛い猫に指を差し出し、じゃれて寄ってきそうな所をいきなり車に轢かれて猫が吹き飛んだ。そんな具合の喪失感だったのかもしれない。
だが、それでも、好意が始まるに相応しい相手だったとチハヤは想う。
「う、、うああああああああぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!」
人生で初めて目にする、命が弾け飛ぶ瞬間を見て、思い切り叫んだ。
感情のままに。
「 五 月 蝿 い 」
叫びながらチハヤは一筋の光が煌めくのを目にした。
アーサーが左手を手刀の形にして、上から下に振りかざした体勢になっていた。チハヤには見えていない。
ーーーー一閃ーーーーー
光の筋が見えたかと思うと同時にチハヤ足元に人間の両腕がボトリと音を立てて落ちた。
。。。。。?
何が起きたのかわからない。
チハヤが自身の両腕が地に落ちたと頭が認識するのに感覚的に30分程。時間的に3秒程、費やした。
‼︎‼︎⁉︎⁉︎⁉︎‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎‼︎⁉︎‼︎⁉︎‼︎⁉︎‼︎⁉︎‼︎⁉︎
思考が、働かない。
声が、でない。
恐ろしいほどの激痛とおびただしい出血に、意識があるだけでも不思議だった。
膝をつき、ゆっくりと
チハヤは、地面に倒れこんだ。
「っがっっ、が、がが」
できるのは、呻くことくらいだ。
冷たい声で、アーサーが言う。
「興が冷めたと、皆に言ったはずだが?」
神々の視線がアーサーに集まる。
「あらあら」
「しゃっ!行きますかー、ぐっばい!」
「潮時」
「結局暴れてないアル」
「ひっひっひ、アーサー殿。こ奴らは我が杖を引き抜いたゆえ、最後の後片づけはお任せを」
「。。。好きにしろ」
アーサーの言葉を皮きりにリッチー以外の神々が青い光の柱を放ち、消えていった。
そのときチハヤは、出血が過ぎて痙攣を起こし始めていた。あと何分生命の灯し火はもつのだろうか。。。
「ひひっ、では儂の抜かれた杖を回収し、他の神器も抜いてそろぞれの神に送り届けるかの」
キョロキョロと辺りを見回すリッチー。
はて?水底の泥に埋もれたか?
と、神器の気を探る。
、、、池の中には無い。
!?
力の感じる方向にバッと顔を上げた。
それは、池の向こう側。
血を流し倒れ伏せるチハヤの後方に、漆黒とも深紫とも言える炎が立ち昇っていた。