Lv134 チハヤの心 ③
「はじめまして【大罪の乙女】。いや、今はウメという名前だったっけ?」
白い竜は問いかけてきた。
『。。。なぜ妾の名を?』
「いやだなぁ、チハヤが大切にしている人の名を覚えないわけないじゃないか」
『チハヤの心の中に居るお前は、一体。。。?』
「あぁ、自己紹介が遅れたね。僕の名前はダイン。【真祖にして怠惰なる暴食の竜王】バランの弟さ」
『お前が、、、チハヤから聞いては居たが。。。なぜ、チハヤの心の中に??』
「それはね。。。神々に殺され、一度死んだ僕が転生したのがチハヤだったのさ」
『っ!?転生したじゃと?』
「そう、人間にね。正直言えばそのまま時間をかけて復活できることもできたんだ。だけど、兄のバランと違って僕は闘う力を持たない。その代わり聖属性や不思議な能力はある程度持っているけどね。だから無限の可能性を秘めた人間に転生して神々に対抗できる力を身に着けようと思っていたのさ」
『。。。思っていた、という意味は?』
「簡単さ、チハヤの気持ちを考えたんだよ」
『チハヤの??』
「そう。上級神の一人、リッチーの魔法を食らって肉体が滅んだ僕は魂となってさまよった。この世界、アレルガルドの人間に産まれようと思ったんだけど流石に神々にバレると思ったからね。そして、違う世界。いわゆる異世界の人間の赤ん坊に魂を乗り移り神々の目を欺いたのさ。そこで産まれたのがチハヤっていうことだ」
『転生したのなら、お前とチハヤは同一人物ということか?』
「いいや、チハヤはチハヤ。正真正銘の普通の人間さ。全く別の人格だよ。正直、生まれてすぐに僕ダインとして生きることはできたんだけど、せっかく生を持って産まれたチハヤを消し去ってしまうことは僕にはできなかった」
『なるほど。。。そこで、人生の歩み方はチハヤに任せていた。というわけじゃな?』
「うん。理解が早くて助かるよ。でも、チハヤは産まれてきた意味を理解できなかった。実の親に捨てられ、施設をたらい回されてなんとか人並みの生活を手にしてはいたけど何のために生きてるんだろう?っていう気持ちが日に日に膨らんでいたんだ。それこそ「こんな世界に思い入れはない」って思うようになるほどにね。だから、ある日を堺にこの世界に転移させたのさ。もちろん、その後のチハヤ次第では元の世界に戻せる準備はしていたけどね」
『そういうことか。。。』
「流石に、チハヤが荒れ狂う竜になるとは思っていなかったけどね」
『これから、どうするのじゃ?』
「それなんだけどね。。。チハヤに僕の力を全て渡そうと思ってるんだ。チハヤが兄バランから受け継いだ力は魔の暴食竜の力。僕の力は相反する聖の力。恐らく、この世の全てを超越できる竜が誕生するはずだから」
『しかし、それではお前は。。。』
「消えるだろうね」
『あるじ様は、、、そのようなことは許さぬと思うが。。。それがわからんわけではあるまい?』
「知っていたら、ね。でも僕のことは誰も知らないよ、共に生きてきたチハヤでさえね。だから、ウメちゃんが黙っていてくれたら誰にもバレることはない」
『。。。妾は、喋るぞ』
「あはは、まぁそれはそれでいいけどね」
『と、いうことは妾が心の中に入らんでもお前がなんとかできた、ということか』
「それはそうなんだけど、、、消えてしまう前にチハヤの女関係に一度触れてみたくてね」
『ふふっ、変なやつだな』
「でしょう?自分でもそう思うよ。さて、そろそろチハヤを元に戻してあげるかな。七人の奥さんとも話してみたかったけど、暴走したままじゃ無理だしね」
『。。。なにか言い残すことは?』
「おっと、「何か別の方法は!?」とか言って引き止めてくれはしないんだね?」
『あればとっくにやっておろう?』
「ふふふ、流石は大罪の乙女だね。うん、その通り。じゃあ、、、兄さんをよろしくってことと、好きに生きてっていうことを伝えておいてよ」
『。。。たしかに、承った』
「ありがとう。じゃあ、さよならだ」
そう言うとバランの体は光り始め、ウメは心の中から弾かれるように消えていった。
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パリィン、、、
「な、、、なに!?結界が破られただと。。。バカな、魔属性のヤツに打ち破れることなどできるわけが。。。!?」
割れた中から出てきたのは、
白い竜装備に見を包んだ、
『白の竜騎士』
だった。
「くそ、複雑な気分だな」
オレは魂の一部が消失したことに憤りを感じ、呟いた。




