Lv133 チハヤの心 ②
ウメは流れていた。
チハヤの心に潜り、大河のように流れる心の中を、悠々と泳いでいた。
『ふむ、これがあるじ様の心の中か。凄まじい流れがいきまいてるのう。しかし、、、あるじ様とのくちづけはかなり気持ち良いもので思わずジュンとしてしまう、、、じゃなかったの。かなり深いもので、ようやく心の奥に進んでいけたのじゃ』
顔を赤くしながらウメが泳いでいると、遠くに光が見えた。
『む。辿り着いたようじゃ』
ウメはそのまま光に向かう。
近づくにつれて、光の正体はある一つの景色ということに気が付く。
そのまま景色の中に飛び込み降り立った。
『ここは、、、』
ウメは降り立った場所から周りを見渡す。
見たことのない景色だが、建物が立ち並び窓から灯りが見える。
辺りは暗く、夜だった。
『雨、、、か。』
街灯に照らされ雨の雫が光る。
見慣れぬ建築様式の街並みを眺めていると、赤から青、青から黄、黄からまた赤へと変わる街灯が見える。その光に合わせて四つのタイヤが回る鉄の箱、いわゆる車が行き交っている。
『ここはあるじ様の縁の地か。故郷、なのであろう。。。』
そこは地球だった。
ウメは雨の降る夜空を見上げる。
『この地の何処かにあるじ様が。。。ん?』
雨の降る中、傘も刺さず濡れるがままの女性を見つけた。何かを両腕で抱え、早足でコツコツと歩いて何処かへ向かって行く。恐らく、彼女が心の中にあるキーパーソンだと目星をつけたウメは女性をつけていく。
『こんな夜中に女一人で何処へ?しかも挙動はかなり怪しい、、、何を持っているのじゃ?』
柱の影に隠れて女性を尾行するウメ。
その柱を『電柱』と呼ぶのを彼女は知らない。
早足で歩いていた女性が大きめの建物の前で立ち止まった。
入り口の門の横に『○○○孤児院』と書かれていることにウメは気付かない。
門の前でキョロキョロと周りを伺いながら女性は抱えていたものを置いた。
『なにを、、、しているのじゃ?それにあの女、泣いている。。。?』
何か言っているが声が小さくてウメには聞こえない。
「ごめん、、ね。ごめんねぇぇ。。。。。」
女性は数秒何かを呟いたあと、先程よりも早く駆け足で何処かへ行ってしまった。
女性の姿が見えなくなってから、ウメは門に近づき置かれたものを見る。
『これは。。。。。』
「だぁ、、、うだあぁ。。。」
タオル地の布に巻かれ女性に巻かれたものは、赤ん坊だった。
『そう、、か。。。あるじ様は、、、』
無邪気に手を動かす赤子をそっと抱き上げる。
『親に捨てられた、、、か。。。』
顔や姿形や年齢はウメの知っているチハヤではない。
だが、赤ん坊の瞳を見て、体に触れて、その感覚がこの赤ん坊はチハヤだと確信させた。
抱き抱えた赤ん坊はウメの顔に向けて手を伸ばす。
「あだ、、、あだぁ。。。」
自分を母親だと思っているのか、笑いながらウメの顔を触ろうとする。
胸が、締め付けられた。
『あるじ、、、様。。。』
赤ん坊を愛おしく見つめる。
そして、顔の近くまで引き寄せて柔らかな頬にそっとくちづけをした。
『こ、、、これは。。。!?』
赤ん坊の頬にキスした途端、眩い光に包まれる。
光が収まり目を開けると、ウメは真っ白な空間に立っていた。
なにも、ない。
あたりには建物も何一つない。
いつの間にか抱き上げた赤ん坊も消えていた。
目の前に居たのは、
『お、、、お前は。。。。。』
一匹の、
『いったい。。。。。』
真っ白な、
『なにもの、、、じゃ?』
竜だった。




