Lv10 竜騎士+魔法
チハヤの姿が、劇的に変わった。
この世界に来た時は、自室でくつろいでいたままだったので、白地のロンTとベージュの少しダボついたパンツに裸足だった。
色は黒く、長くも短くも感じない、会社で外回りの営業に行ける様に適度に切っていた長さの髪が肩まで伸びていた。
若干色素が薄めの茶色がかった目は、黒目の中に虎の瞳孔、いわゆる竜の瞳になっている。
ガリガリでは無いが細いラインの華奢な身体は、見た目の細さはあまり変わらないがかなり締まった筋肉で覆われている。
顔は35歳の容姿には見えない。というより、誰が見ても若返ったとしか思えない18歳位の若々しさを放っている
。
今はこの場に鏡なんて物は無いが、後に己の姿を見てチハヤは猛烈に驚くことになる。
竜の血が、竜の魔力が、竜の魂が
チハヤの身体に宿り、不死とまではいかないが再生能力が高く老いることもなく、常に全盛期の肉体を保つことのできる不老の身体に構築されていることも、今は気付かない。
更に、本人の容姿に関してだけでなく身につけている物。
いわゆる装備が並みの物ではない。
艶やかに黒々と光る防具に身を包まれている。
竜の三本爪と踵に爪の生えた足具。
竜の顔面を纏った様なデザインの胴具。
竜の鉤爪が手甲についた感じの腕具。
竜が大きく口を開けた頭部の様な兜。
全てバランの煌く漆黒の鱗と同じ素材でできている。
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「ひ、、、ひひ!な、なんじゃその格好は!?」
「オレにもまだ理解しきれてないが、体から力が溢れる。アーサーって冷めた感じの神様に切り落とされた腕も元に戻ってるしな」
手を握って開いてを二、三回行い自身の腕を確認する。
「ひ……しかも、に、人間がアーサー殿の神気に匹敵する様な巨大な″魔″属性の魔力を放つなど、考えられん!?まるで先ほど滅した竜の様な………ま!まさか!?貴様、竜王と融合したというのか!!?」
まだ身体の感覚を確かめているチハヤはリッチーに見向きもしないで言う。
「ああ、そうだ。ついでにいうと、お前の現し身である杖の魔力も″喰った″しな」
「!!!??!!バッ、バカな!!?」
「ついさっきダチになった竜は、どうやら大飯喰らいなんだと、よ!!!!」
言い終わるや否や、チハヤは足に思い切り力を込め踏み込んだ。
リッチーの眼前にチハヤの顔が一瞬で詰め寄る。
「!?この、人間が!!?」
一瞬で魔力を練り魔法を放とうと腕を動かそうとした瞬間、リッチーが着ていた法皇の白衣の様な衣の袖ごと、リッチーの骨と化していた両腕が吹き飛んだ。
「!?!?!?!!!バカな!バカなバカな!!」
リッチーが動くよりも早く、チハヤが右拳でリッチーの左腕を、左拳でリッチーの右腕を殴りつけたのだ。
「ぐああああぁぁぁぁ!!!!」
さけび声を上げるガイコツの神。
後ろに倒れる形になったがなんとか踏み止まり宙に飛ぶ。そして、両腕の無い身体の目の前に炎の魔力を貯め始めた。
「ひひ!この豪火の塊をくらい今度こそ燃え尽きるのじゃーーー!!!!」
『ゴッドファイア』
リッチーが唱えると小型の太陽の様な灼熱の球がチハヤ目がけて放たれた。
「。。。こうかな?」
『ゴッドウォーター』
片手を火の玉に向け、消防車が水を放水するイメージを頭に描きチハヤが唱えた。
自分で唱えておいてなんだが、魔法が使えたことと威力の途方もなさに思わず目が丸くなる。
物凄い勢いで水が出た。ナイアガラの滝みたいに。
しかも、この魔法から放たれる水はただ流れるのではなく凄く攻撃的に感じる。
水流は灼熱の業火球をひと息に飲み込み、勢いは衰えずに宙に浮かんでいたリッチーを直撃した。
「ひ、ひひーーー!!!な、なぜじゃ!?なぜこの様なとてつも無い魔法を」
吹き飛びながらリッチーが叫び、そして地に落ちた。
「さっき言っただろ?お前の魔力も″喰った″って。人の話はちゃんと聞くもんだ」
竜の力と同時に、リッチーの持つ魔導の力と知識が流れ込んでいるのもチハヤは感じていたのだ。
「竜の力と魔導の神の力、足したらお前より強い魔法ができるのは道理だろ?」
勝利を確認し、振り向いて言い放つ。
チハヤは、自分が竜騎士になったことを、自覚する。
竜騎士って、
ジャンプできるようになるだけじゃないんだね。。。




