音無き声
処女作です。
何かの片手間に読んで頂ければ幸いです。
アドバイス、コメントなど今後の小説の糧になるようなことがありましたらぜひ一報を。
心がギュッとなるような作品に仕上がればと思っております。
拙い日本語ではありますが、楽しんで頂ければと思います。それでは。
何も話せない。
自らの口から出るのは吐息だけで、声音がその場にこだまする事はない。
口を開いても、唇を震わせても、舌を動かしてもそこから生まれるものは何も無い。
生まれた時から失声症だった私は言葉を理解することは出来ても、会話には不慣れなままだった。
手話や筆談といったルーツはあるものの、人間誰しもそんな面倒な事は出来れば避けたいものだ。
そうなれば必然的に私の周りには人がいなくなっていった。
父と母は私の病気が原因で離婚となり、私を引き取った母自身もあまり体が丈夫とはいえない人であった。
それでも母は底抜けに明るく、いつも私を笑わせようと面白いネタを仕込んできた。
テストで良い点を取れば自分のことみたいに喜んでくれたり、本が大好きな私の為によく書店に足を運んでくれてたり、家に帰れば優しげな「おかえり」で迎えてくれた。
私はそんな友達のような母が大好きだった。
一方私は母とは違いどちらかと言えば暗めの性格だった。
小、中学校とあまり友達も出来ず唯一仲良くなったといえば、近所の悠人君という同い年男の子と彼の弟の真人君だけだった。
2人ではとても仲が良い兄弟で真人君は明るくやんちゃで、悠人君はそんな真人君を見守るいいお兄ちゃんという感じだ。
真人君の性格はどことなく私の母に似ていて、
私の笑顔を多くゲットした方が勝ちというゲームで度々私の母と競っていた。
私も悠人君と一緒にはしゃぐ2人の様子を少し呆れつつも、眺めるのが好きだったりする。
2人は両親がどちらも事故で亡くなっていた。
そんな境遇もあってか私の母が実の息子達のように可愛がっている。
料理の下手な母に変わって、私はよく2人に煮物などの差し入れをしている。
「美味しい。」と言われればまた次もという感じで貢ぎ物をしてしまうところは、私も少しオカン気質なのかもしれない。
そんな温かい日常。
笑顔の絶えない空間がいつまでも続けばいいとそう思うのは自然なことだと私は思う。
ただ、そんなものは何かのきっかけで直ぐに水の泡へと変わってしまうのもまた事実だった。
防ぐことは出来なかったのか。
あるいは事前にかすかな予兆を見逃していなかったと言い切れるのか。
そんなものは後の祭りであって、間に合わなかった者の戯言に過ぎないと気付たのはどのくらい経った時のことだろう。
どうして私は声が出なくて。
どうして母は身体が弱くて。
どうして父は母と私を捨てて。
たくさんのどうしてが心に渦巻いた。
悔やんでも悔やみきれないものがどうやっても、私の心から抜けてはくれなかった。