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星界歌劇

Let it snow! Let it snow! Let's go noodle!

作者: うろこ雲

『星の絆は指さす先に』番外掌編です。これだけでも楽しめるようになってます。


よろしければ連載の方も覗いてみてくださいね。

 渦巻く銀河、飛び交う隕石。彗星は長い尾を引いて惑星の周りをぐるりと巡り、一面に広がる星屑が世界を彩る。


 長期の仕事を終えたクラウドは、星界列車の座席にその身を預けて疲れを癒していた。


 車窓の外には薄黄色の星雲が広がっていて、千切れたりくっついたりしながらぷかぷかと浮かんでいる。雲の下には細長い星屑川が流れていて、中を泳ぐ星魚(ほしうお)の群れを鳥達が(くちばし)をしきりに川に入れて捕まえようとしていた。前の座席に座る子供は窓に張り付き、それらを見て楽しそうに笑いながら、時たま上を横切る流星を見つけてあわてて願い事を言ったりしている。


 クラウドは久しぶりにのんびりと穏やかな時間を過ごせていた。


 ふと周囲が暗くなる。

 灯りが落とされたのかと思ったが、車内についた星光灯は明るさを保っている。クラウドが窓の外に視線を向けると、列車の上空に鼠色の星雲がかかっていた。どうやらこれが銀河や星の明かりを遮ったらしい。


 白い影が一つ車窓を横切る。


 続いて一つ、また一つ。次第に頻度は増してゆき、気がつけば窓の外の景色は星雲から落ちてくる宙雪(そらゆき)で埋め尽くされていた。


 大人も子供も窓のそばに寄り、突然幕を開いた天体ショーに魅入る。

 それをつまらなそうに眺めていたクラウドだったが、ふと視界に入ってきた景色に目を大きく見開いた。

 やや出遅れ気味に窓に張り付いたクラウドは、眼下に広がる星屑川に目を凝らす。


 透き通るような金色の水面には降ってきた宙雪(そらゆき)を柔らかに受け止め、下流へと運んでいた。流れる先から次々と追加される粉雪が金のキャンバスにまだら模様を描く。


 クラウドはそれを食い入るように見つめながらポツリと呟いた。


「NARIMATSUだ……NARIMATSUに行くぞ」






 予定を変更して、目的地よりだいぶ手前のアース星へと降り立ったクラウドは、タクシーに乗ってとある繁華街までやってきた。


 ガラクタを寄せ集めたかの如く積み上がった今にも倒れそうなビル群。

 複雑に入り組んだ路地に密集したネオン灯に目を細めながら歩くことしばし、クラウドは一軒の店の前までやってきた。


 特徴的なオレンジ色の看板にはハケで無造作に『NARIMATSU』と書いてある。

 入り口の階段を降りて半地下になった通路を抜けると、これまたオレンジ色の『NARIMATSU』と書いてある暖簾が出迎えてくれた。


「へいらっしゃっせー」


 中に入ると店員の掛け声が響いてきた。クラウドは券売機の前に行くと、金を入れて手慣れた様子で『醤油』のボタン押す。小さな紙の券とお釣りを受け取ると、空いている丸い椅子のカウンター席にどっかりと腰を下ろした。すぐさま店員がやってきて券を確認する。


「ギッタギタで頼む」

「かーしこまりましたー」


 クラウドは迷わず一言述べ、店員も了承の声を残して調理場に戻る。


 程なくして調理場では麺が茹で上がる。両手にそれぞれ玉あげを持ち、大きな動きでダイナミックに湯切りをする。そして流し込むようにスープの入った器へと麺を移しチャーシューにネギをトッピングする。だがこれで終わりではない。


 ラーメンの器は別の台へと移され、いよいよ仕上げだ。


 店員は平たいザルを取り出すと、鍋から湯気を上げる白い塊をお玉で掬ってザルに入れる。上質な背脂だ。。そしてそれを先ほど作ったラーメンの器の前へとかざすと、小刻みにザルを降りつつ菜箸で背脂をかきはじめた。


 チャッチャッチャッチャッ、という小気味好い音とともに、ラーメンの器に雪が降る。それは黄金(こがね)色のスープの上へ新雪のごとく柔らかに舞い降りて、瞬く間に雪化粧を施してしまう。


 ついに完成したラーメンがクラウドの前へと運ばれてくる。


「たせしましたー、ギッタギタでーす」


 ことりと置かれた器は不用意に触ってはいけない。縁にも背脂が付いているため器は下の方をおさえるべきなのである。


「いただきます」


 瞑目と合掌で食事の挨拶。

 クラウドは箸を持つと器をおさえ、新雪のごとき背脂に覆われたスープから麺を掴み取った。軽く息で冷ましてから一気に啜る。刹那、舌に襲いかかってきた強烈な旨みにクラウドは瞳孔を散大させた。


 程よい太さの麺にスープがよく絡み、醤油の優しい塩気に、背脂の濃厚な旨みと甘みが合わさって味覚に強く訴えかける。あまりの美味しさにクラウドは歓喜の涙を流した。


 啜る、咀嚼する。啜る、咀嚼する。レンゲで追加のスープを口に運ぶ。そしてまた啜り、咀嚼し、啜り、咀嚼する。


 めくるめく幸せな食事のひと時をクラウドは堪能した。



 全てのスープを飲み干し、器の底をレンゲが叩く軽やかな音が響く。

 水を一杯飲み、手と口の汚れをおしぼりでふき取ると、クラウドは席を立った。


「ごちそうさまでした」


 美味なるラーメンへの感謝と満足をその一言に込め、クラウドは店を後にした。



 

なりたけに行きたい

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