第四章 古の預言
第四章 古の預言
その夜、梓紗、琭葩、梔昏、そして冰龍の四人が族長の邸の広間へと集められた。
「今宵、呼び出した理由は他でもない。昼間、村で起きたことについてだ」
冰龍と琭葩の父で、梓紗と梔昏の伯父である、真耶族族長の彪牙が、部屋の中央に座っている。
その目の前の下座に、四人は座っていた。
「それで、父上」
「伯父様、いったい昼間のことは」
「芙慈乃」
彪牙に呼ばれ、大巫女である芙慈乃が、ゆっくりと現れた。
どうやら、控えの間にいたようだ。彼女の傍らには、付き添いの巫女、紗那がいる。
老体である身体を紗那に支えてもらいながら、芙慈乃はゆっくりと座りなおすと、四人に向けて、語りはじめる。
「昼間の、冰龍様と梔昏様は、御神体に乗り移られたのでございましょう」
「御神体に?」
「はい。
水の守護神。青狼の姿をなされた、翆嗚観之尊様。
炎の守護神。赤虎の姿をなされた篝誉璃之尊様……二神のお姿でしょう」
「それは分かっている。でも、その守護神が何故、兄上と梔昏の身体に?」
「時が来たのでございますよ」
「時?」
「真耶族には、古来より、預言書というものが伝わって参りました」
「預言書?」
聞きなれない単語に、梓紗は思わず聞き返す。
不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げる彼女に、芙慈乃は深く頷きながら、続きを話し始めた。
「はい。預言書には、真耶に闇が訪れた折。
四人の祝部を憑代に、神が降臨するという記述がございます。
その祝部達は、神のご加護と使命を受け、鬨の神殿に眠る秘宝を持ち帰り、真耶を救うとあります」
「……では…」
「はい。冰龍様と梔昏様は、神よりその祝部に選ばれたのだと存じます」
「俺は、この痣を負った日、この力が目覚めた」
「え?…あ、でも」
「確かに、あのときの冰龍から、さっきの力と同じものを感じた」
冰龍の告白に、琭葩と梓紗は、遠い記憶が甦った。
たしかに、あのときの冰龍は、今までにない不思議な力を使っていた。あれが、神力というものだったのだ。
「しかし、俺達が完全に、あの姿になれるようになったのは、五年前だ」
「二人で、手合せをしていたときだったな」
「ああ。呼応するように、お前も赤虎の力が降臨して……」
「え、兄様もなの?」
梓紗の問いに梔昏が頷く。
「そうだ」
「それ以来、二人で神の力を御せるよう、巫女殿の奥深くで修練を重ねてきたってわけだ」
「では、俺達に、あまり近づくな、とおっしゃっていたのは……」
「…俺達が、神体の姿になれることが分かれば、預言の内容を民に知らせねばならない。この真耶族に、闇が訪れかけていること。
それが広まってみろ。民の心に動揺が走るだろう」
兄達の返しに、梓紗と琭葩は、成程、と納得する。
「おい、冰龍」
「いいんだ」
何か、冰龍に口添えしようとした梔昏だったが、当人によって、それは制されてしまった。
しかし、それは小声で交わされた言葉のため、琭葩や梓紗の耳に、届くことはなかった。
「それでは、兄上と梔昏が、その秘宝という品を持ち帰る者、ということなのですね?」
「ああ。そうだ」
父である彪牙が頷く。
そして、その直後、彼は思いもよらぬ言葉を梓紗たちに投げかけた。
「琭葩。そして、梓紗。お前達もそうだ」
「え?」
「嘘…」
戸惑いを露わにする二人に、梔昏が肯定を示す。
「悪いが、嘘ではない。お前達も俺達と同じ、四天王の祝部だ」
「私達が祝部?」
冰龍の言葉に、梓紗は耳を疑った。
「でも、私達には何も――」
「良いから見ていろ」
言い募る梓紗を制し、冰龍が声を発する。
「梔昏、お前は梓紗を頼む」
「ああ」