表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護の愛 ~悠久録~  作者: 沙羅魚
45/54

第四十三章 鬨の神殿

挿絵(By みてみん)




第四十三章 鬨の神殿




 霧のなかを進みながら、冰龍と琭葩は神殿までの道を進んでいた。

 ここに来るまで、いくつかの魔物と対峙したが、これまでの戦いを切り抜けていたうちに、二人とも腕を上げていたのか、一刀のもとに倒してきた。



「もうすぐだな」

「はい」



 二人は崖の上から鳴りを潜めつつ、眼下にそびえる建物を眺めた。

 随分、古代…神代の時代に建てられたのだろう、風格ある神殿だ。見る限り、神々しい雰囲気が醸し出されている。


 梓紗は無事だろうか…

 冰龍と琭葩は、注意深く気配を探るが、彼女から感じる気配は、感じられない。彼女の愛用している香の匂いもしなかった。

 感じられるのは、複数の魔物の妖気だ。



「行くか」

「はい」



 二人は唾を吞み込み、その場を移動した。

 ごつごつとした山道を、足音もたてずに歩きながら、二人は前へと進んでいく。



「右は、俺が引き受ける。お前は、左を警戒しろ」

「分かりました」

「こういう態勢になると、梔昏と組んだことを思いだすな。年が離れている分、お前と組むことになるとは、思っていなかったが」

「やはり、梔昏との方が安心出来ますか?」



 何を言い出す、と冰龍が笑った。



「今の俺は、お前に命を預けている」

「兄上…」



 即座に、嬉しそうに琭葩の眸が輝いた。



「お前、すぐ顔に出るな。長になったら、その癖は治すことだな」

「……」

「そんな顔をするな」

「俺は、やはり、兄上が長になるべきだと思います」

「そう言ってくれるのは、ありがたいけどな。俺の身体は、本当に長くは保てない」

「……」



 冰龍が、横目で弟を窺う。



「お前は、この旅で随分と成長した。大丈夫だ。お前が、村を引っ張っていけ」

「……その返事は、まだ、出来ませんよ。ここで、俺に何かあったら、兄上、あなたが村を引っ張っていく立場なんだ」

「…そうだな」



 やがて、神殿の間近へと二人は降り立った。



「お出ましなのか?」

「そうですね」



 禍々(まがまが)しい妖気の数と共に、わらわらと魔物達が出てきた。



「多いが、階級で言うなら低俗だな」

「なめられてるんでしょうか?」

「さぁな、とりあえず、全部片づける…いくぞ!」

「はいっ!」



 冰龍と琭葩は地を蹴り、魔物達を切り倒しながら、前へと進んでいく。数だけが取り柄の魔物達は、次々と倒れていく。



「っ、恐らくっ、蟒之王おろちのおうが用意したものっ、じゃっ、ないな!

 この辺りにいるっ、魔物達、だろ!」

「あぁ、成程っ、そういう……道理で!」



 会話をしながらも、余裕を持った様子で、二人は神殿への道を切り開いていった。



「っ!………神殿だ」

 


 最後の一振りを決めた後、冰龍は、まっすぐに神殿のなかへと入っていく。琭葩も同じように、それに続いた。


 神気が満ち溢れた、どこかひんやりとした肌触りの空気の中、回廊を慎重に歩き、二人は様子を窺う。



「この中は、神気が満ちている。よほど強い妖力がなければ、中に入ることも辛いはずだ」

「じゃあ、ここにいるとしたら?」

蟒之王おろちのおうしかいない」



 冰龍は、断言した。



「兄上、梓紗を救う方法は思いつきましたか?」

「…お前の方はどうだ?」



 琭葩が面目なさそうに、視線を伏せる。



「分かりません。俺は頭が弱い」

「ふっ…一つ、考えがある」

「兄上?」

「この鍵で、神殿の秘宝を開封することが出来れば、恐らく、魔物達には辛い神気が発されるだろう。

 そうすれば、少しは蟒之王も怯む隙が出る」

「そうなんですか?」

巫女殿みこでんの書庫にあった、古書の文献で読んだことがあるんだ」



 恐らく、神話について疎かった琭葩は、知らなかったであろう。

 大巫女の芙慈乃ふじのから、目を通してみないか、と言われて読み始めた蔵書ぞうしょの中に、そのような文献が、確かにあったのだ。



「後は、梓紗と俺達の払いとしての神気をぶつければ、あいつを、梓紗の身体から追い出すことが、叶うかもしれん」

「梓紗次第、ということですか?」



 弟の問いに、冰龍は頷く。



「そうなるな。だから、気力と体力のために、あいつには眠れと言ったんだ」

「そんな意図があるとは、思いませんでした」

「全ては、梓紗と、もう一度、話すことが出来ればだが」

「あぁ…」



 そうこう話しているうちに、神殿の奥地へと、二人は辿り着いた。

 そこは、祝部ほうりである彼等でさえ、圧倒される程の、澄んだ神気しんきに満ち溢れた場所であった。





挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ