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守護の愛 ~悠久録~  作者: 沙羅魚
32/54

第三十章 魔界の苦悶

挿絵(By みてみん)





第三十章 魔界の苦悶





 その頃、闇が広がる魔界では…


 バシッ!



『っく!』



 ビシッ!



『っ!』



 バシッ!



『くっ!』



 天井に繋がる、魔力で錬成された鎖に鬼結は吊るされ、その部屋の主の魔力によって、甚振いたぶられていた。

 その主の手の動きに合わせ、鬼結の肌から血飛沫があがり、痛々しい痣が増える。

 目には見えないが、主の魔力が鞭のようにも刀のようにも姿を変え、鬼結を傷つけていくのだ。



『くっ、あああっ!』

『鬼結、貴様……

 せっかくの好機こうきを逃した落とし前、こんなものでは済まぬぞ……

 分かっているのか?』

『はぁ、はぁ』



 鬼結は傷の痛みに顔を歪ませ、荒い息づかいのまま、自分を甚振る目の前の存在を睨みつける。



『なんだ、その目は?』

『……』

『この、常夜蟒之王とこよおろちのおうの命が、きけぬと言うのか?』



 近づいてきた男の目は、鬼結と同じように赤い。三つの角を頭に抱き、同じく宝珠を額に埋めこまれており、目の下にはくまのような化粧が施されている。

 この男は、常夜蟒之王とこよおろちのおう

 魔物達を統べる長で、鬼結達の王でもある。そして、冰龍の運命を歪めた者。

 鬼結は口を閉ざしたまま、目を伏せた。



『……』

『答えろ!』

『……』



 答える代わりに、鬼結は、再び蟒之王おろちのおうを睨みつける。



『ふっ……小生意気な女だ。我が言いなりにはならぬ……

 でも、そこが良い。美しい者を屈服させることこそ、我の喜び』



 だから、冰龍の人生を狂わせたのかと、鬼結は問いただしたい気分になった。

 冰龍は人であるが、魔物の鬼結の目から見ても、とても、美しい男だ。美しいものを壊したくなる蟒之王の恰好かっこうえさだったというわけか。

 となれば、梔昏や彼らの弟妹たちにも蟒之王は手を下すだろう。

 痛めつけられるなか、鬼結は、ぼんやりとそう思った。



『気を失うまで、痛めつけてやる』

『くっ!ぅうっ!くあぁ!』



 振り下ろされる魔手により、鬼結は罰を甘んじて受け続けた。





~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~






 彼女が鞭打たれ、肌を切られていく様を、扉の向こうで聞いている二つの影があった。

 水月と雪橋だ。

 彼らは痛ましい声を苦々しげに聞きながら、拳を握りしめた。主である、蟒之王おろちのおうには、いかに二人でも、口答えは出来ない。



『……』

『くそ!』



 鬼結がなぶられる様に歯噛みしていた、やがて、決意したように雪橋が動いた。

 彼は、そのまま部屋を出て行こうとする。



『雪橋、どこに行く?』

『決まってるだろ!これ以上、見てられねぇ!元凶を潰しに行く!』

『何を血迷ったことを……あちらは、侮れんぞ?』

『煩い!

 言っておくが、ついてくるなよ!これは俺が片づける!』

『雪橋!待て!』



 彼は水月が止めるのも聞かず、闇を作りだし、人間の世界への道へと飛び込んでいった。



『雪橋っ!』



 水月は雪橋の消えていった方を、当惑げに見つめながらも、隣室で罰を受け続ける鬼結を放っていくことも出来ずに、その場に留まったのだった。





挿絵(By みてみん)


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