表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護の愛 ~悠久録~  作者: 沙羅魚
30/54

第二十八章 情の片鱗

挿絵(By みてみん)




第二十八章 情の片鱗





 四人が洞窟から出たときだった。



『待っていたぜ』

『……』

『……』



 彼らの前に、神妙な顔つきをした三人の影が現れた。

 三人の鬼種族。鬼結、水月、雪橋だった。

 今回はあからさまに、彼らの態度がそれまでの緩いものではなくなっていることに、気づかされる。



「お前ら」

「…これが、狙いか?」

『ああ』



 答えたのは、雪橋だった。



『泳がせておいたのさ、てめぇらを』



 彼に、頷くように鬼結と水月が声を発する。



弧黄泉亥頭句盛こよみいずくもりの情報を、信じるかが、一か八かだけれど。

 鍵を見つけてくれたときに、狙い討つのが、一番手っ取り早いから』

『我々は、そちらの神の手が入ったところには、立ち入れませんからね』



 敵とする三人の言葉に、冰龍が低い声音で言った。



「そう安々と、手に入れられると思うのか?」

『安々、とは思っていないわ』

『こっちも、本気を出さなくては、と思っていますよ』



 そう言った途端、彼らの身体が発光し、その一瞬の後に、彼らの容貌は変化した。

 二本の角、尖った牙と爪、頬の逆三角の紋様、そして、獣のような光る目だ。



「……」

「うわ」

「お、鬼!」

「これが、あいつらの、本来の…鬼としての姿だ」

「冰龍」



 一心に三人に視線を送る冰龍に、鬼結がフッと笑った。



『あなたの前で、この姿になったのは随分と前よね。見忘れた?それとも、改めて思い知った?あなたと私が、違うこと』



 鬼結の挑発。

 しかし、冰龍は賞賛を述べるだけだった。



「鬼結…相変わらず、その姿も美しいな」



 そんな冰龍の賛美に、鬼結は露骨に眉をひそめた。

 彼女に対しては、心を吐露して口説く彼に、梓紗は胸が痛くなるのを感じた。



『目が、悪くなった?』

「いいや、視力は変わらん」

『まあ、良いわ。手に入れた鍵、奪わせてもらう』

「いいだろう。だが、俺達も四天王の祝部ほうりだ。絶対に、奪われたりなどしない」



 それが合図のように、戦いの火蓋ひぶたは、切って落とされた。



『水月、雪橋、責めるわよ!』

『御意』

『仰せのままに、大将』



 鬼結の命令に、水月と雪橋は頷き、それぞれ違う方向へと向かっていった。

 どうやら彼等の中でも、微妙な序列があるらしく、最高位に立つ鬼族である、鬼結が主格らしい。



「来るぞ!梔昏、琭葩、梓紗、迎撃だ!」

「御意!」

「了解、兄上」

「分かったわ」



 魔物と人との激戦が、またもや、静かな夜の森で始まったのだった。




 本来のさがを露わにした鬼達に対応するため、四人も、神々の化身の器として、青狼せいろう赤虎せっこ絢鴻あやとり緑蛇りょくじゃの姿になって戦った。



『っ!

 なかなかやるな。流石さすが、かつて蟒之王おろちのおうを封じた神とやらの祝部ほうりだ』



 緑蛇の姿で地面に埋まり、凄まじい速度で迫り、食いつきにかかった琭葩の攻撃を、雪橋はすんでのところでかわす。



「すぐに、のしてやるよ」



 僅かな差で逃した琭葩は、悔しそうに言い返す。

 それに対し、雪橋も強気な姿勢は崩さない。すぐさま、目をカッと光らせ、氷の息を吐く。

 琭葩はすぐさま土にもぐり、その攻撃をかわした。土の上に氷の道が出来ていく。

 氷が途絶えた、少し先から琭葩は地面から勢いよく、突き出た。



「危なかった」

『安く見積もるんじゃねぇ。さぁ、凍らせてやるよ!』

「やれるものなら、やってみなさいよ!」



 その氷の息を、絢鴻あやとりの姿になった梓紗が、翼で起こした神風で吹き返す。

 無論、それを雪橋も巧みに避けていく。

 その反対側では、水を操る水月に、炎の守り神である赤虎せっこと化した梔昏が対峙しているところだった。



『炎と水では、水に勝ち目があると思っていましたが、随分、予想外です』

「舐めないでほしいな。水の技に勝てるよう、冰龍で、さんざん鍛えたんだよ」

『なるほど。それで強いわけですね。面白い』



 水の刃を飛ばしながら、水月は確実に梔昏を責める。

 しかし、梔昏もそれに屈することなく、巧みに炎を操って水月を翻弄する。

 更に、その奥で、静かに且つ燃えるように熱く、命の奪い合いをしているのが、冰龍と鬼結だった。

 彼女の爪から生まれる、切り裂く光の刃、放電、素早い動き、それらを全て流しつつ、冰龍も水の光線や飛ぶような水のやいば、牙をむいてかかっていく。



「随分、強くなったな」

かたなを持てば、もっと、力を振るえるわ。故郷に置いてきてしまって、残念だけど』

「そうか……っぐっ!」



 その瞬間とき、冰龍の動きが鈍くなった。



『っ!?』

 


 冰龍の異変を感じ取った鬼結は、瞬時に動きを止める。



「っく!」



 冰龍はうずくまり、やがて、青狼の姿から人間の姿へと戻る。そして、胸や顔を押さえながら、激しく苦しみ始めた。



『っ、冰龍!!』



 鬼結は驚愕に目を見開き、その場に立ち尽くす。顔には、激しい狼狽と冰龍を案じる様な色が浮かんでいた。



『鬼結!今だっ!止めを刺せ!』

『っ!』



 雪橋の声にハッとして、鬼結は、さらに苦しむ冰龍の姿を凝視した。彼女は震える手を、かすかに持ち上げる。



「冰龍!」



 梔昏がかけよろうとしたが、すぐにその前に、水月が立ちはだかる。一切の隙もなく、彼は梔昏の動きを封じたのだ。



『おっと、行かせませんよ。あなたの相手は、俺です』

「くっ!そこをどけっ!」



 梔昏は、激昂とその感情のまま、激しい炎を口から吐いた。その勢いの強さに、水月が避けた隙をつき、梔昏は水月の関門を突破する。



『ほぉ…』



 水月はというと全く動じた様子はなく、軽く目を見開いて、梔昏の背中を見やった。



「兄上!?」

「冰龍!?」

『よそ見してんじゃねえよ!』



 駆け寄ろうとする琭葩と梓紗に、雪橋も氷の刃を飛ばすが、それをはねのけるようにして、彼らは冰龍の元へと向かっていく。



「うるさい!」

「冰龍!」



 彼らの背中を見送りながら、感心したように雪橋は首を傾げた。



『……へぇ』



 三人は、すぐさま冰龍のもとへと駆け寄る。

 梓紗は、冰龍の近くに寄り添い、梔昏と琭葩は、鬼結達から冰龍を庇うように立ちはだかる。

 呆然と立ち尽くす鬼結に、雪橋が声をあげる。



『鬼結!どうして、とどめを刺さなかった!』

『……』

『鬼結』

『おい!鬼結……お前がやらないんなら、俺が止めをさすぜ!お前の目が覚めるようになっ!』



 雪橋が牙を剝き、爪をさらに伸ばして、襲いかかろうとした時だ。



『やめなさい!』

『っ!?』

『鬼結…』

『っ、退却するわ』



 鬼結の言葉に、驚愕の表情を、雪橋と水月は浮かべる。



『何だと!?』

『それは、いけません。鬼結』

『深手を負った者に手をあげるなど、意味ないわ。万全の態勢の四人を打ってこそ、意味があるというもの』



 そう言う鬼結に、雪橋は食ってかかる。



『俺等の目的は、鍵を奪って、それを破壊することだ!勝負じゃない!』

『それでも、私は良くないのよ!この男の、完全な状態を消さないと、気が済まない』

『大怪我しますよ?鬼結……このままだと……蟒之王にも何をされるか!』



 水月の忠告に、鬼結は迷いを振り払うように叫んだ。



とがは、私が受けるわ!』

『鬼結!』

『この四人を殺して、鍵を壊せば良いのでしょう。行きつく先が一緒なら、早さは問題じゃないわ』

『しかし!』

『退却!命令よ!』



 鬼結は身をひるがえし、闇の中へ姿を消す。



『……だ、そうだ。雪橋』



 水月はやれやれという風な表情を浮かべ、雪橋を促すと、そのまま、鬼結の後を追って、闇に入って行った。



『くっ!なんでだよ!畜生!』



 雪橋は、ギッと四人を睨みつけると、同じように消えていった。

 冰龍はよほど発作が苦しかったのか、すでに気を失い、梓紗の腕の中で失神していた。

 梔昏は鬼結達の消えて行った方を見ながら、呟く。



「……鬼結」

「あの女、本当はまだ兄上を」

「……」

「それよりだ。琭葩、手伝ってくれ」

「あ、ああ」



 すぐに梔昏は冰龍に視線を戻すと、彼の腕を肩にまわし、琭葩と共に近くの木の根もとへと連れて行く。



「それにしても、今度は失神するほどか……」



 その言葉に、ハッとしたように琭葩が飛びつく。



「梔昏!兄上はどうされたんだ?あんな急に、苦しみだすなんて」

「そうよ。兄様」



 二人からの問いに、梔昏は一瞬の迷いを見せたが、やはり、口を割ってくれることはなかった。



「……こいつの口から聞くと良い」

「だけどっ!」



 冰龍が簡単に言ってくれるわけがない、という科白せりふは、梔昏によって制された。



「今度は、冰龍が起きてすぐに、俺が説得する」

「梔昏…」

「兄様」

「ここまで来て、こいつが口を閉ざしたままなら、俺が、こいつに張り手でも、拳でもお見舞いしてやるさ」





挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ