第二十四章 不忠の宿命
第二十四章 不忠の宿命
「あ!」
弧黄泉亥頭句盛の前から、三人の魔物が姿を現した。鬼結、水月、雪橋だ。
魔物達全てを統括する立場にある彼らは、今回は、四天王祝部の四人ではなく、弧黄泉亥頭句盛に用があるらしい。
『さ、三鬼士様……』
『貴様は、魔物軍の和を乱さんとした』
『敵に、情報を流した』
『ゆえ、成敗する』
三人は、前回とは打って変わって、全く感情の宿らないような、静かな眸で、手下である弧黄泉亥頭句盛を見つめる。
『ひっ!誤解でございます!
我は決して……』
『蟒之王は、それを赦さない。無論、我らも』
そして、彼らは、それぞれに手を薙ぎ払うように振るうと、三日月の如き形の光が現れ、手裏剣のように飛ぶ。
それは、瞬時に弧黄泉亥頭句盛を切り裂いた。
『ぐわああっ!』
『口の軽い者は、信用を置けない』
『一度裏切ったものは、二度、裏切る』
『魔物の世界は、甘いものではない。己の死で、その愚を購え』
三人は静かにそう告げて、元は、弧黄泉亥頭句盛を形成していた霧の霧散を眺める。
霧が完全に消えた頃、水月が四人に向かって言った。
『……今回の用は、これだけですので、失礼』
それに続いて、雪橋も背を向ける。
『さっさとお前等をぶっ潰したいが、もう少し、様子を見させてもらうぜ』
雪橋を促すように、鬼結も声を発した。
『……行くわよ。雪橋』
急に現れたかと思うと、すぐさま彼らは姿を消していく。
水月、雪橋と森へ消えていくなか、鬼結が、ふっと冰龍を振り返る。
『……』
「……」
無言で彼らは見つめ合ったが、鬼結は、何も言わず、すぐに身を翻して、闇の中へと消えて行った。
彼らが消え去ってから、梔昏が今までの沈黙を破った。
「…あいつらも、気の毒だな」
「梔昏?」
「信頼と忠誠で結びついている集団ではないのだろう。魔物の軍というのは。
そして、仮初とはいえ、手下を殺める立場の彼ら……」
「……」
その指摘に、梓紗は、これまでとは違った尺度の視点を、魔物達に見出すのだった。




