第十六章 明かされた欠片
第十六章 明かされた欠片
梓紗達が火の前で冰龍の帰りを待っていると、森の中から、当人が姿を現した。
「冰龍!」
「あ!兄上」
「冰龍……よく無事だったな」
「魔物は出たが、全部斬った」
冰龍は相変わらず、感情の読めない表情のまま、先ほどまで自分が座っていた丸太の上に、腰を下ろした。
「冰龍」
「何だ?」
「そろそろ、話してやったらどうだ?琭葩や梓紗達にも」
「……」
梔昏の促しに、冰龍は梓紗達に視線を向けた。梓紗と琭葩も、その思いを伝えようと、まっすぐに冰龍を見返した。
「……分かったよ」
冰龍は思いの外、あっさりと、承諾する。
「……昼間、鬼族の長と名乗った女は、婀夜女鬼結之媛。彼女と俺は、かつて恋人同士だった」
思い出すように目を下に向けながら、冰龍はそう告げた。
その事実に、梓紗と琭葩は、予想していたとはいえ、驚きを隠せなかった。
「それと、梔昏を証人として秘密裏に婚姻し、契りを結んだ。
あいつはもう、そう考えてはいないようだし、これは、俺の一方的な発言なんだが、鬼結は…彼女は、実質的に俺の妻だ」
「っ」
きっぱりとした冰龍の言葉を耳にした瞬間、ズキッと、梓紗の胸の奥で、小さな疼きが走る。
「この痣を負って、半年ほど過ぎた頃だったか――」
冰龍は、ぽつり、ぽつりと、昔話を語りだした。




