第十章 見つけた御印
第十章 見つけた御印
それから、二人は、本題の泉探しへ移った。 この広大な森には、いくつかの泉がある。
水の守護神である、翆嗚観之尊の力を賜った冰龍は、水の気配を感じることが出来るようだ。
彼は、まるで水に惹かれるように、泉を見つけていく。
「次は、ここだな」
二人は、目の前の泉を見つめる。
「とはいっても……どう見ても、やっぱり普通の泉だよね」
「ああ。それに既に、これ以上の水脈はこの辺りでは感じられない。だったら、書物の記述は、もっと違う土地のものなのか?」
「さぁ、どうだろう。でも、少し疲れたわ。歩き回って、七つも泉を見たんだもん」
「確かに、そうだな」
泉のほとりに腰をおろす。
すると、冰龍も同じように、傍らに座った。
「しばらく、休むか」
「うん」
「しかし、まだ村に近い分、結界石の余波があるとはいえ、魔物がいることには変わりない。気をつけろよ」
「大丈夫よ。冰龍がまた青狼の姿になれば、きっと、勝てる」
「こら、梓紗。人任せも大概にしろよ?」
冰龍は呆れたように笑いながら、くしゃりと彼女の髪を撫でた。昔のやりとりそのままで、梓紗は胸に湧き上がる嬉しさを、噛みしめる。
「良いじゃない」
そのまま、梓紗は草原に、寝転がる。
「ああ、良い気持ち。空が高いな」
「そうだな」
「村の外なんて、本当に久しぶり……だ…な」
どんどん気持ちが良くて、意識が薄れていってしまう。
そのうちに、完全に梓紗の瞼は閉じ、意識は落ちていった。
~・~・~・~・~・~・~・~
それから、どれほどの時間が、かかったのだろうか。
眩い光が差し込んできて、梓紗は目を開いた。
「ん?」
瞼を擦りながら、気怠げに身体を起こす。
とりあえず、魔物が近くにいる様子は無い。不用心に寝てたとはいえ、正直、魔物の存在は恐ろしい。
「もう、夕方か」
ふっと横を見ると、冰龍も同じように、手を頭の後ろで組みながら、眠っていた。
「……」
梓紗は、ふっと頬を綻ばせながら、前へと向き直る。
「ああっ!」
目の前の光景に、梓紗は、大きな声をあげた。
「おい…何だ?騒々しい」
梓紗の叫び声に、隣で同じように眠っていた冰龍が、不機嫌そうな声をあげて身体を起こす。
「ひ、冰龍!これ…」
「…何だ?さっきの湖と、なんら変わらないだろう」
「大違いよ!
見て。金色の泉じゃない。湖面全体が西日で光っているのよ!
他の泉は、周囲が木とかに挟まれてて、こんな全体的に、湖面が金色にはならないわ」
「…確かに…そうだな!」
冰龍が、視線の先を食い入るように眺める。そして、そのまま周囲に首を巡らせ、ある方向を、指で示した。
「では、紅の道とは…あれのことか?」
「え?」
彼が示した先を見てみれば、そこには、真っ赤に染まった葉を付ける木々があった。
それは、あちこちに点在し、その色はまるで焔のように燃えているようだ。
二つの場所は、まるで地図のように、行く道を示すような位置関係だ。
「多分間違いないよ。これが金色の泉で、あれが紅に燃える道」
梓紗の言葉に、冰龍も頷く。
「よし、そうと決まれば、梔昏と琭葩を呼ぶか」
「うん」
冰龍は東側の森へと向きなおり、唇に指を当て、ピ―――ッと、高い指笛を鳴らした。
指笛は、耳の良い真耶族達が、狩りをしながら仲間達を集める時に使う、手段でもある。
冰龍は、東に向かって、三回ほど高い指笛を鳴らす。
「これで、しばらくしたら、ここに来るだろう」
冰龍の言葉に、梓紗が頷いたとき、周囲から禍々しい妖気が立ち込めてきた。




