第九話
「いきなり泣き出すからびっくりしちゃった」
「あはは・・・ごめんね」
理恵さんの言葉に苦笑交じりに謝る。
「そういえば、翠さん僕ら皆から見られてるけど今は平気なの?」
「正直少し怖いけど、見られるってわかっていれば何とか落ち着いてられるかな」
広樹君の言うことはわかるけどいい表現ができないかな・・・。
「スリッパで叩かれるのがわかっていれば身構えるもんね」
未来さんが納得したようにたとえを出す、よりによって何故スリッパ。
皆うんうん、頷いてる、納得なんだ。
「ということは登校途中に気絶ってことはそうそうないと思っていいんだな?」
「多分・・・自信はないけど」
透君の質問に不安げに答えてしまう。
「俺達の通学路は透とはあわないんだよなぁ・・・」
「そうだね、誠治も僕も反対方向になるね」
「私も未来も違う方向ね」
「一緒に通学出来ないのが残念です」
4人の言葉に透君と一緒に通うことになるんだーと考えていると。
「というわけで透、翠さんのエスコートよろしくな」
「ああ、任せとけ」
誠治君の言葉に透君が頷く。
最初は一人で行くはずだっただけにすごく心強い。
ああ・・そうだこの人たちなら先にもう一つ隠していたことを明かしておいたほうがいいかな・・・。
と考え込んでいると
「翠さんの髪って綺麗ね」
理恵さんが不意に僕の髪を触ろうとする
「!」
僕はハッとなり思わず理恵さんの手を叩いて避けてしまった。
「「ご、ごめんなさい」」
理恵さんと僕の声がハモってしまった。
「髪の毛を触られるの嫌とは思わなかったの」
理恵さんがシュンと俯いてしまった。
「ごめん、嫌とかじゃないんだ・・・」
「え、でも・・・・」
どうみても拒絶反応だもんね・・。
「う~・・・」
僕は少し考え込んで意を決した。
「理恵さんごめんね、さっき叩いちゃった理由は・・・」
僕はコンタクトを外しウィッグも外す。
片方だけでなく両方見てもらったほうがいいもんね。
「これです」
皆が目を丸くして固まってしまった。
数秒後。
「きれい・・・」
「だな・・・」
未来ちゃんの一言に透君が同意する。
「う・・・・」
その言葉に皆が一斉に僕を注視する。
・・怖い・・・でも耐えなきゃ。
気をしっかりもち、視線を受け止める。
肩がカクカク震えているけどなんとか・・・。
「え・・・」
ふっと僕の視界がさえぎられたと思うと、理恵さんの両腕が僕を包み込むように背中へまわされていた
ふんわりとした少し甘い香りがし、優しくさすられた背中に温かみを感じ、体の震えは少しずつ収まっていった。
「皆凝視はやめて、翠さんが震えてる」
理恵さんの言葉に皆が目をそらす。
その言葉の後視線が穏やかなものに変わったので、落ち着きを取り戻す。
「あの・・・理恵さんもう大丈夫です」
別の意味で落ち着けそうにないです。
「あ、ごめんなさいつい」
ハッとしたように理恵さんが僕から離れれ、
「妹がこうすると落ち着いたんです」
というとちょっと恥ずかしそうに俯いた。
妹・・僕のほうが年上だよね・・・。
「過去に会った時は普通に黒だったと思うが・・」
透君が何かを思い出したかのように呟く。
「うん・・・入院したときからかな・・・伸びてくる髪の毛の色が変わったの」
髪を少しつまみながら苦笑交じりに答える。
この日本においてこの上なく目立つ黒以外の髪の色・・だもんね
「でも、すごく綺麗・・・」
未来さんの言葉に皆頷く。
「僕もこの色はすごく好きなんだけど・・・・」
「今日の状況をみると・・・厳しそうだね」
広樹君が僕の言葉に遠慮がちに現状を述べる。
「うん・・・」
僕は俯いて頷く。
「この写真・・・」
未来さんが興味深そうに見つめた後、手に取っていた
そこには母さんと僕と幼馴染の女の子が笑顔で映っていた
「これどっちが翠さん?」
「こっちですよ」
僕は苦笑しながら男の子のほうを指差す
「こっちの子は?一緒に飾ってるとこみると仲が良いみたいだね」
未来さんがちょっと意地悪そうに質問する。
「幼馴染だよ、おませさんだったのかもね、付き合ってたよ」
未来さんがそれでそれでと続きを要求する興味津々のようだ。
「一方的にこっぴどくふっちゃった、それが彼女のためだと思ってね」
引越しの時に『もう付き合えない、さようなら』と一方的に手紙を出しておいたからね。
今思えば他の手段もあったかもしれないけど、当時は僕も精神的に不安定だったからそれが精一杯だった。
「どうしてです?」
未来さんが目を見開いて驚きの表情を浮かべている他のみんなも同じような表情をしてる。
「僕が『女性』だったことがわかったから・・・かな」
どこか自嘲めいた言葉となって僕の口から出た。
「ごめんなさい、興味本位で聞いていいことじゃなかったです」
未来さんがシュンと俯いて謝るが僕は首を横に振って
「誰かに聞いて欲しかったのかもしれないし、写真を置いてる僕こそが未練があるのかもね」
自分でいって苦笑してしまう、振ったのに未練があるなんてね。
「報われぬ恋の道であったということですね、その彼女さんが新しい道を歩んでいたらいいですね」
「・・・ありがとう」
その言葉に十分救われた気がします。
「翠さんのお母さん昔は髪が長かったんですね?」
写真に映っている母さんは腰の辺りまでの長い髪をしている。
「ロングヘアーがすごく綺麗なのにちょっと勿体無いよね」
理恵さんと未来さんが写真の中の母さんと自分の髪と見比べてうらやましがる。
「うん・・・」
理由は僕のため、本音は切っては欲しくはなかった。
歯切れの悪い返事をしてしまった。
「あ・・・何か不味いこと言っちゃったかな?」
「ううん、大丈夫切った理由はねこれなんだ」
僕はウィッグを少し高く掲げるように持ち上げた。
「このウィッグ母さんの髪の毛で出来てるんだ」
部屋が再び静まり返り。透君が思い出したように
「ああ、それで今の長さなのか」
「うん・・・もう一生母さんに頭があがらない気がするよ」
と区切り苦笑気味に自嘲する
「これをつけていれば大丈夫かと思ったんだけど・・今朝の有様です」
「ま、なるようになるだろう?」
透君の言葉に「そうだね」と答える。
「しかしまぁ・・・ゲームのキャラの名前がどうして『akira』だったんだ?」
話を変えるように誠治君が話題を振ってきた
「透君話してないの?」
「ああ、俺も昨日まで『アキラ』だと思ってたしな昨日の今日で話すことでもないと思った」
あ、皆首を傾げてる。
「えっとね、僕が男の子だったことはさっき説明したよね?」
皆が頷くと僕は続けた
「僕の名前が『アキラ』だったからゲームを始めた頃は『アキラ』だったてことです」
当時は名前が変わるなんて思いもよらなかったしね。
「あーなるほどな納得した」
透君と僕を除く全員が納得したようだ。
気が付くと時計が5時を回っていた。
「ごめんね、僕のせいで今日一日つぶしちゃったみたいで・・・」
「気にするなって言っても無理かもしれないな」
「うーん、正直これからの事考えると今日の出来事はよかったと思うよ」
「そうね、翠さんの事についても色々教えてもらえたし」
「私はスリッパぺしぺしだったよ~」
「未来ちゃんがいたから割と空気が固まらず済んだと思うけどな、やったことは別だが」
頭を抑えて未来さん一人が「う~」とうなってる中皆笑い始めてしまった。
「で皆明日は空いてるか?今日案内できなかったし明日できれば回ってみたいと思うんだが」
「すまんが俺は用事がある」
「ごめん、僕も」
「私も~・・」
誠治君、広樹君、未来さん、それぞれ用事があるようだ。
「私は一緒に行けます」
「そうかそれじゃ俺と理恵さんが案内するか」
と僕を置いてきぼりに話が進んでいた
「でも・・・いいの?」
僕にとってはありがたいはなしだけど・・・
「迷惑になるとか考えるなよ」
むー・・考えを読まれた・・顔にでてたのかな。
「それじゃ遠慮なくお願いします」
僕はぺこりと頭を下げてお願いする。
その後皆帰宅するということになり。
玄関まで皆を見送った。
少しずつ少しずつ時間が進む
お話の中だけ(苦笑)