第七話
3年前の9月1日。
2学期の初日の、夏休みに会えなかった人たちと再会する日
学校への登校途中1学期に見知った人たちを見つけ声をかける
「美樹ちゃん美緒ちゃんおはよう」
同じ制服の二人に声をかける
「お、おはよう」
僕の挨拶に驚いたように返答する。
何故だろう、普通に声をかけたはずなんだけど。
僕の違和感はそこから始まった。
そのまま学校へ歩いていくと、同学年らしい人たちが僕へ向ける視線が何か違っていた。
教室へ入るまでそれは続き教室に入った時・・・。
教室の前には人だかりがありその人たちの殆どが僕を見て道をあける
僕にあてられる視線は良いものでないことはすぐわかったけど理由はわからなかった。
不自然に移動された机、中心の1つから円を描くように避けられていた。
中心の机には机の表面が見えないぐらいの張り紙と落書きが多彩な色で描かれていて、
そして机の近くには一人の男子・・・青木道弘が居た。
僕を呼び出し交際を迫ってきたが迷うそぶりさえせず断った僕に「後悔させてやる」と言っていた・・・。
机に近づくにつれ、それが自分の机であり張り紙や落書きの内容も読めた。
「オカマ」「ヘンタイ」「キモイ」「男が女子の制服きるんじゃねぇ」等々。
その内容が理解できたとき僕は固まってしまった。
「こ・・・これってどういう意味」
なんとか声が出せた。
その言葉が聞こえたのか満足そうにしゃべりだした。
「お前が気に入らなくてな色々調べてもらったんだよ、そしたら面白いことがわかったじゃねーか」
と区切り不気味な笑みを浮かべながら続けた
「お前男だったんだな!!」
耳をふさぎたくなるぐらいの大声が響いた。
え・・?
「ち・・・違う」
相手の勢いに押されたためか周りに聞こえるかわからないぐらいの小声での否定になってしまった。
周りを見渡しても僕の味方をする声はあがらなかった。
恐怖の感情なのか体ががくがく震えていた。
夏休み前に仲良く話してたと思う子は視線をさけたり完全な敵視といった目で見ていた。
四方八方より、好奇心、蔑視、敵視の視線が入り混じり、
そしてところどころから声が上がってくる。
「こいつ男だったのかよ、よく化けたもんだな」
「そういえばあの子体育でもずっと着替えなかったわね、身体測定の時もいなかったし」
「気持ち悪い!あの格好の男子なんて」
1人が言い出すと次々に声が上がった。
どうして・・・どうしてこうなったの?
「おいこいつの裸見てどっちかたしかめようぜ」
否定の声はあがらなかった。
「そうねそうすれば確かめれるもんね」
僕に対して複数の手が伸びてくる。
そこで僕の意識は途切れてしまった。
「・・・ちゃん」
・・・?
ふわりと暖かい何かに包まれた感覚が感じられた。
暖かい・・・心地いい・・・・。
このまま身を任せたいと思いつつも目を開くと
気がつくと母さんが今まで見たことのない悲痛な顔をしているのが見えた。
「かあ・・・さん・・・?」
「翠ちゃん気がついたの!?」
母さんは少し安堵の表情を浮かべたがすぐに悲痛な表情にもどった。
あれ、どうして僕は母さんに抱きしめられているんだ・・・
学校にいたはずなのになんでだろう・・・?
とまどいと疑問が僕の脳裏を駆け巡るが今はこの安堵感を得ることが
ほっと落ち着けるようなあたたかい・・・。
普段の母さんから感じられる穏やかな空気がなかった。
「ごめんね、ごめんね・・・」
「どう・・してあやまるの?」
母さん何も悪いことしてないでしょ。
「最初から女の子に産んであげていればこんなことにならなかったのに・・・ごめんね、ごめんね」
僕の頬に何か冷たい何かがあたる。
母さんが泣いてる・・?
もしかして今日の・・・あれ何があったんだっけ。
机に色々貼ってあって・・・皆で僕を・・・・。
「何があったかな・・・?」
すごく怖かったのだけは覚えてるでも・・・
思い出せない、肝心の部分が思い出せない。
「いいのよ、思い出さなくていいの」
母さんが抱きしめる力がキュッと強くなる。
「かあ・・・さん泣かないで、ぼくはだいじょうぶだから・・ね」
僕は母さんを抱きしめ返し、ポケットから出したハンカチで母さんの涙をふき取った。
母さんの嗚咽が終わるまで僕は母さんの背中を撫で続けた。
泣きたい気持ちを封印して。
翌日
母さんも父さんも僕に学校へ行きなさいとは言わなかった。
「父さん会社へ行って来るからな」
僕に伝えようと思って言ったのだろうけど、僕には返事を返す元気はなかった。
膝を抱えたまま僕はベッドの上で座りながらぼんやりどうしよう・・・と途方にくれていた。
「学校に僕の居場所なくなっちゃった・・・」
独り言のように呟き、昨日の出来事を思い出すと胸が苦しくなって呼吸が辛くなる。
「どうしよう・・・」
と部屋に置かれたデスクトップパソコンに目がいくと、
入院前に遊んでいたゲームのことを思い出した。
ふらふらと立ち上がりパソコンの電源をいれ、マサムネ・オンラインを立ち上げる。
1年半ほど放置していたためアップデートがされていく。
数分後アップデート完了の文字が表示される。
「そういえば・・・・」
机の中を探すと使いそびれた課金用電子マネーが出てきた。
「まだアカウントのこってるかな・・・」
マウスを動かし公式ホームページへ移動し、アカウントが残っているか確認する。
アカウントは生きていたけど課金切れと赤い文字で表示されていた。
電子マネーのIDを入力し、課金完了の文字が表示される。
「よし・・・」
ログイン画面が表示され、アカウントとパスワードを入力する。
頭の上に『akira』と表示された女性が表示さたたずんでいる。
「皆まだ続けているかな・・・」
ちょっとの期待と大きな不安を胸にキャラクターを選択してログインした。
ディスプレイの画面が切り替わりゲーム内の景色が表示され、穏やかなクラシックの音楽が流れる
この音楽久しぶりに聞いたな・・。
数分ほどぼんやり、聞き入ってしまい以前に遊んでいた時期を思い出す。
あの頃は楽しかったなぁ・・・ゲームも学校も・・・。
「皆いるかな・・・」と自分のステータス画面を出すとギルド所属の表示がなくフレンドリストにも名前はなかった。
「あれ?」
ギルドは追放されてもしかたないけど、フレンド登録がないのはなんでだろう?
僕はマサムネ・オンラインの画面を縮小し、別画面に公式ホームページを表示させた。
何回かのアップデートで不具合でギルドとフレンドの設定が初期化されたらしい。
しかたなく、再び画面を戻し、覚えてる数人の名前に「ささやき」、マサムネ・オンラインでの一対一での個別会話を送ってみけど、だれもログインはしてなかった。
「皆やめちゃったのかな」
ふと画面に表示された時刻をみると、10:20と表示されていた。
普通に人が少ない平日の朝だったと気づいて苦笑する。
ゲームの中でうろうろしていると、『ボス狩り◎チャット◎聖職者メンバー不足大募集中』という文字が目に入り、
とりあえずギルド入って知ってる人がいたら話しかけよう・・・と募集主にささやきを送りギルドに入れてもらった。
挨拶もそこそこにボス沸いてるので行きましょう~ということで付いて行くことに。
1年半やってなかったせいか結果は散々なものになってしまった。
ボス退治に失敗したことで、ボス沸き時間の監視と、クエスト等のアイテムの採取をお願いされたので、
必死になってやった・・アイテムを渡したときに『ありがとう』その時はそれだけで嬉しかった。
僕を必要としてくれてる、そんな居場所を見つけた気がした。
LV上げのお手伝いをお願いされれば行き、装備買うのにお金が足りないというのであれば自分の装備を売ってでも工面していた。
寝食を惜しんで頑張って、僕の居場所をそこに求めていた。
3週間程経ったころ気がついたら僕は見覚えの無いベッドの上に寝かされていた。
心配そうに僕を見つめる母さん顔が目の前えた。
「あれ・・・かあさん?ここどこ?」
「翠ちゃん目が覚めた?」
僕の問いに母さん表情を少し緩めると別の質問で答える
「夕飯に呼んでも返事がないから・・・部屋に入ってもに入ったら翠ちゃんパソコンの前にうつ伏せになっててね、揺すっても起きなかったから・・・」
体を何とか起こすと母さんが僕の体を包み込むように抱きついてきた。
「過労と、ちょっとした栄養失調から来るものだそうだ」
仕切られたカーテンをはぐり父さんが出てきた。
「ごめんなさい」
申し訳ない気持ちで一杯だった。
「これを使ってみろ」
父さんが手鏡を僕に手渡す。
首をかしげながら覗き込んでみると。、ひどくやつれた自分の顔が映し出された。
そういえば自分の顔をまともにみたのっていつだっけ・・・・。
「何かに取り付かれたようにやってたからな・・・当然といえば当然かもな」
「ごめんなさい・・・」
僕は母さんに抱かれたまま俯いた。
「俺も桜子さんも翠を止めれなかった責任はある、すまなかったこうなる前に何かすべきだったよ」
父さんは顔をしかめながら言い、そして続ける
「今やってる遊びをやめろとはいわん、3つの決め事を守ってもらうからな」
どんなことをいわれるのだろう・・・・。
「そんな情けない顔はするな難しいことじゃない」
・食事はしっかり取ること
・学業はおろそかにしないこと
・毎日外に出て歩くこと
「俺も対外娘には甘いかもな」
父さんは苦笑していた。
つまりしっかり規則正しい生活をしなさいということみたい。
「もう桜子さんのあの顔見たくないからな」
「僕のひどい顔はいいんだ?」
ちょっと拗ねた様な口調で言ってみる。
「馬鹿いうな子供のひどい顔をみて平気な親がどこにいる」
「今のは翠ちゃんが悪い!」
「ごめんなさい」
そういうと穏やかな笑い声が僕の部屋に少し響いた。
「母さんトイレどこかな」
僕は尿意を感じたため母さんに場所を聞く。
「私もいくから一緒に行こうか~」
スリッパを履き、母さんと一緒に病室からでると何人か歩いている人達の視線が僕に飛んできた。
「あ・・・あれ・・」
体が震えてきた、怖い怖い怖い怖い・・・・
あの時の恐怖がフラッシュバックした。
僕はうずくまってガタガタ震えだした。
「翠ちゃん・・・?」
母さんが僕が付いてこなくなったのを不思議に思ったのか後ろを振り向くと僕に向けて駆け出した。
「翠ちゃんどうしたの!」
母さんが僕を包み込むように抱きこむと、僕の震えは安堵感からか少しずつ収まっていった。
「わかんない・・・人から見られるのが怖い・・・」
母さんに付き添われた状態になってトイレを済ますと病にもどり父さんに報告した。
「そうか・・・」
父さんはそう答えて俯いた。
その後医師を呼び診て貰い質問等の受け答えで視線恐怖症と診断された。
数日後退院し、帰宅することになった。
「ほどほどにね」
僕が部屋へ入る前に声をかけてきた。
「うん」
僕は頷き、母さんに微笑み返す
「ログインできなかった分の報告でもしようかな」
パソコンを立ち上げログインする。
キャラクターのステータスを確認すると、ギルドの表示がなく、
ゲーム内メールが所属していたギルドのマスターから一通届いていた。
開けてみると・・・。
『お前が勝手にログインしなくなったせいでBOSSが狩られてしまった。
レアがでたらしいからその損失分40M払えよ。支払い終わるまで他のギルドに入っても粘着するからな』
・・・泣きたくなった。
見返りを求めて頑張ったわけじゃないけど・・入院するぐらい頑張って色々やってきたのにこの仕打ちはあんまりだ。
もうここにも僕の居場所はないのかな・・・。
途方にくれていると、ささやきが入ってきた。
トール『お久しぶりです、覚えてますか?』
akira『あ、久しぶり』
オフ会であったあの子だった。
トール『ギルドから抜けたんだ?』
akira『あはは・・・捨てられました』
自嘲したような言葉になった。
トール『捨てられた???』
akira『調子悪くして入院してたら追放されてました』
トール『あのギルド評判よくなかったからなー、あれ?akiraさん装備しょぼくないですか?』
僕の装備に気づいたのかトールが正直な感想をいう。
akira『あはは・・色々頑張っているうちに・・ね』
僕はあのギルドでやってきたことをトールに伝えた。
トール『それまじですか?』
akira『うん、もらったメール転送するね』
メールを読んでいるのかトールは沈黙していた。
トール『これ払う気があるんですか?』
akira『もう疲れちゃったしね~いっそゲームもやめちゃおうかと』
返済する当てもないしね。
トール『もし俺が払ったら俺の相方になってくれませんか?』
相方?まぁ粘着さえなくなるなら・・・まだ遊べるのかな?
akira『いいけど、そんなの真面目に払っても仕方ないよ、評判悪い人達なんでしょ?』
つい了解の返事をしてしまったけど、トールに払ってもらうのは気が引ける。
トール『言質とったからな!』
へ・・・?それどういうこと?
akira『え、あ、ちょ、トール?』
トール『ちょっと現金作ってくる!』
トールはそういって走り去っていった。
1時間後僕に現金を渡してきたトールに呆然とした僕が居た。
トール『これで返済できるな、俺も同席する』
元ギルドマスターを呼び出し、会話が漏れると面倒になるかもとトールがPT作成して配る。
元ギルマス『・・・確かに30Mよかったなこれでギルドにもどしてやれるぞ』
akira『お断りします』
もう沢山ですあんな思いしたくない。
元ギルマス『そうはいかんな相場があがってあれは35Mになっているあと5M分働いてもらうぞ』
え・・・・そんな・・・。
トール『やれやれあんたほんとにクズだな、マーケット見てきたけど25Mで売ってたぞ』
akira『え?』
元ギルマス『な!』
トール『30Mはくれてやるがこれ以上粘着するつもりなら・・・』
元ギルマス『ふん・・・そうはいかんなあと5M払ってもらうぞ』
な・・・どこまでこの人は・・・そんなギルドには言った僕は・・。
現にトールに迷惑が掛かってることに悲しくなる。
『僕がゲームをやめれば済むね・・でも・・・トールにお金を返さなきゃ・・・』
どうしたらいいんだろう・・・・画面を見ながら途方にくれてしまった。
しばらくぼんやり画面を眺めていると・・・元ギルマスが攻撃され地に伏せていた。
元ギルド員1『こんなくずだったとはな・・』
元ギルド員2『akiraさんの脱退理由がギルド資金泥棒だとかおかしいと思った』
元ギルド員3『あれだけお世話になっておいてこんなことする人とはね』
akira『え?え?え?』
僕が泥棒ってどういうこと・・・?
トール『そのギルドに知り合いが居てな聞いてみたら話がおかしくてな、メール転送したら、すぐ行くって言うからこっそりPT組んで会話を聞いてもらったうんだ』
元ギルマス『お前達どういうことだ』
戦闘不能状態になったまま元ギルマスが言う。
元ギルド員1『こっちのセリフだこのクズ』
元ギルド員2『akiraさんすみませんでした自分達も甘えすぎましたすみませんでした』
元ギルド員3『お金の返金はします、このマスターにもう未練はありません、粘着するようなら言ってください私達で対処します』
元ギルド員1『このギルドは解体させるakiraさん嫌な思いをさせてしまった困った時は言ってくれできることは何でもする』
元ギルド員2『また一緒のギルドで居てほしいとは思うが、それはこちらの我儘だ、恩は返す何でも言ってくれ』
元ギルド員達の言葉に僕は自分のやってきたことは無駄じゃなかったと、感謝と謝罪の言葉が聞けてよかったと思った。
元ギルド員達が去って言った後トールに話しかける
akira『ありがとう、でも僕が居なくなればすむのになんであんな大金払ったの?』
トール『あーもう覚えてないか』
akira『?』
トール『俺がはじめたての時、手取り足取りで面倒見てくれただろ?』
akira『あーそういえば』
トール『それでオフ会のとき会ってゲームの事色々話して仲良くなったと思ってたら急にぷっつり来なくなっただろ?』
akira『色々あったからね・・・』
トール『少しずつ少しずつLVあげたり装備そろえていつかakiraさんのLVにそろそろ追いつけるなーと思ってたらakiraさんがそこに立ってて、あーもう言いたいことがまとまらねぇ』
akira『落ち着いて落ち着いて』
トール『akiraさんと一緒に肩を並べるLVになって遊びたかったんだ』
akira『そう言ってくれるのはありがたいけど・・・僕こんな装備だから・・・』
正直同LVの戦闘に耐えうるものじゃない。
トール『それは一緒に稼いでそろえていけばいいさ、それかこのお金を使えばいい』
そのお金とは返金してもらったお金のことだろう。
akira『それはトールのお金でしょ?もう払う必要もないんだから僕に使わなくても・・・』
トール『約束しただろう?LVが近くなったら相方になってくれるって、それにさっきの約束だ30M払って俺の相方になってもらう!』
akira『確かに言ったかも・・・って!いやいやいや気持ちだけで十分だよ』
オフ会のときだったかな、約束した気がするけど装備までそろえてもらうわけにも・・。
とトールの武器を見ると両手剣だったのが大槌に変わっていた
akira『あれ?さっきまで両手剣装備してたよね?』
トール『ああ防具は無理だから現金作るのに売り払った、これは人気ねーけど聖職者と相性はいいからな、今日からこれ一本で行く』
akira『買い戻せばいいじゃないか僕の為になんでそんなにするのさ・・・』
気持ちは嬉しいけど・・・。
トール『憧れだった人が手の届きそうなとこにいて困ってる、途方もない金額だったらしかたねーけどなんとかなりそうだったからな即決めた』
akira『ありがとう・・・良い相方になるように頑張るよ』
トール『akiraさんはほんと「情けは人の為ならず」だな、俺にとっては本来の意味、あのギルドマスターにとっては誤用の意味で』
akira『そうだね』
トール『俺のギルドに来てもらえるか?無理にとはいわないけどな』
akira『喜んで』
無くなったと思ったゲームの中の居場所はここにあった。
過去のお話いかがだったでしょうか
上手く表現できてるといいな
お気に入り10人突破です すごく嬉しいです!