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短編

未救の英雄

作者: RK

 力もなく、知恵もなく、あるのは信念のみ。

 剣を振う。それは達人の域ではない。勿論鍛え上げられた戦士のものである。だが、それは訓練すれば誰もが手にすることが出来るものだった。

 弓を扱う。それも凡庸であった。

 智謀に長けるわけでも、ましてや武術に天賦の才があるわけでもなし。

 だが、彼、あるいは彼女には貫くべき信念があった。

 己が成すべき願いがあった。

 彼、あるいは彼女は人を救いたかったのだ。

 その夢を語れば笑われるだろう。

 力なきものが誰を救えるのかと。

 救いを求める者に手を差し伸べた。その手を掴むことなく求める手は地に落ち力を失った。

 飢餓に喘ぐ者たちがいた。どうすることも出来ず、彼らは息を引き取った。

 死の淵に立つ者がいた。成す術もなく彼らは物言わぬ屍と化した。

 幾度の失敗があっただろうか?

 数えることなどできはしない。

 その数は多すぎる。

 幾度の成功があっただろうか?

 数えることなどできはしない。

 ただの一度も救うことなどできはしない。

 だが、それでも誰かを救いたかった。

 戦があれば人々の盾となった。守るべき人は死に絶えた。

 救いを求められれば手を伸ばした。その手は掴むことは出来ないとしても。

 人が歩いた足跡はどこかに残る。

 凡庸だった。

 人並みだった。

 凡人だった。

 だが、確かに勇あるものであった。

 それは、信念だけは、特別であった。

 だが命を救うことはできない。

 それでも、死を間際にした者は、救われたのだろう。

 死を目前にして、誰かが泣いてくれるのは。

 掴めぬと知っていても手を差しのばしてくれるのは。

 彼、あるいは彼女が息絶えるその時まで手を差し出しつづけた。

 結局誰も救えなかった。

 だが、その行為は、その想いは確かに伝わっていた。

 同情ではなく、哀れみではなく、ただ救いたい。

 純粋なまでに昇華された想いは伝えられていた。

 それ故に、その者はこう呼ばれた。

 未救の英雄と。

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