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あれから三年。星夜の本当の名前も分かった僕は、宇宙飛行士になるために勉強を続けていた。世界中のエリート中のエリートがなれるものだけど、情熱だけなら僕も負けてはいない。おかげで、成績はトップクラスに居続けたけど、僕には順位はどうでもよかった。

 彼女にもう一度会いたい。僕にとってはそれだけだ。ハッキリと。彼女が好きだって言える、だから僕から伝えたい。

 そんなある日、地球を驚かせるニュースが飛び込んできた。宇宙人が正式に訪問した、というニュース。奇妙な宇宙船に乗り彼らはやってきたらしい。そして、(なぜかアメリカ政府に)テンカイユメトという少年と合わせてほしい、と要求した。この話はすぐに日本に持ち込まれて、一躍僕は時の人になる。

 他にも行きたい人は大勢いたようだけれど、ご指名なのだからこれはほかの人にはどうしようもなかった。待ち合わせ場所に指定されたのは、彼女と初めて会った場所。僕だけで来るように、指示された。

 約束の日時にそこへ行くと、はたして彼女はいた。彼女も一人だった。あの時と同じように、星空を眺めながら。あの時と違うのは、僕にすぐ気が付いた、ということだ。

「久しぶり、ユメト」

 相変わらず天上人のような美しさだ。いや、しばらく見ない間により美しくなっていたかもしれない。銀髪も翡翠も月に照らされて、そこだけライトアップされているかのよう。

「そうだね、アレフィナ」

 アレフィナ・ディ・ナウラ、とフルネームで続ける。ナウラの海のアレファ家の娘、だなんて確かに翻訳エラーもいいところだろう。

 僕の言葉に彼女は驚く。でも、すぐに笑顔になって、彼女は返してきた。

「ようやく私の名前が分かったんだね」

 あれ、昔はボクっていってなかったっけ。てっきりボクっ娘ってやつなのかと思っていた。

「あれは翻訳機のせいだよ。ここにまた来るまでの時間で、必死に勉強したから。それでユメト。私の事は星夜って呼んでほしいな」

 ずいぶんと明るい喋り方だ。あの翻訳機、すごいのはすごいけどポンコツだった。でもまあいいか、再会の時に星夜自身の言葉を聞けているのだから。

「星夜でいいの?」

「ユメトにもらった大事な名前だから」

 はにかんだ様子でそう言った彼女がとても愛らしくて、思わず抱きしめてしまった。

「……恥ずかしいよ」

「ごめん」

 慌てて離れると、星夜は笑って、嬉しいけどね、と付け加える。ずるい。

「それと星夜。ずっと言いたかったことがあるんだ」

「私も、言いたいことがあるよ」

じゃあそちらから、とお互い譲り合ってしまう。それをしばらく繰り返した後、ようやく、僕から言う事になった。大丈夫、何年も言おうと決めて心にとどめて置いた言葉だ。言える。きっといえる。たった一言だ。あの星空を浮かべて。僕は三度それから深呼吸を(星夜に笑われた)して、口を開く。

「僕は、星夜の事が好きです」

 三年も温めておいてそれかよ、と言われても僕はこれしか言えない。星夜の銀髪が翡翠の瞳が、笑顔が仕草がどれだけ素敵でも、結局のところ僕はこの一言以上にそれを表せない。仕方ないじゃないか。ほかの誰かに何といわれようとも、大事なのは星夜の返事だ。 

 僕は待つ。よく言われるように一瞬が永遠に感じた。太陽と月は千回入れ替わり、雨が降って雪が解け花が咲き、星は生まれ太陽は死ぬ。それだけの時間を僕は漂った。違う。そう感じただけ。僕にとってそれだけ長かっただけ。それだけ。

「私が言いたかったこと、ユメトに言われたね」

 そのたった一言がずっと聞きたくて。今ようやく聞けて。僕は嬉しかった、とても。とても。星は巡り巡ってまた、僕たちのところへ来た。結局、星夜の言った通りで、星の海に生きる僕たちは、また出会えた。そして、今こんな風に心を通わせている。

「改めて。私もあなたの事が、ユメトの事が好きです」

 

――――

 

 それで、本題はというとどうやら僕の生まれが星夜の星だということが正式に確認が取れたから迎えに来た、ということで、それと同時に星間交流も持とう、ということらしい。表向きの発表では僕はその大使、ということだ。

「用意はできているから、今から行く?」

 星夜の問いに、僕は首を横に振る。

「三日後で」

「わかった」

 そして僕は三日の間に荷物をまとめた。星夜も久々に僕の家に泊まる。何も変わってないね、なんて喜んでいたりもした。そういう星夜は大分印象が変わったよね、というと、翻訳機のせい、とだけいってそっぽをむかれたりもした。忘れてはいけないのはこの会話だ。

 ――ねえ星夜、なんで僕は君の夢を見て、君は僕の夢を見たの――

 ――ユメトの名前に入っているからね――

 ――冗談。私たちは心の波長が合う人が近いと、お互いに共鳴してそういうことが起きたりするの。珍しいみたいだけど――

 ――それってつまり――

 ――一目惚れ、かな――

 ――僕と一緒だったんじゃないか――

 聞かれたら完全にバカップルだといわれるだろう。でも構わない。

 そして三日後、父さんと母さん、そして友達に挨拶をした。行ってきます、と。さようなら、では決してない。だって僕たちはこの星の海に生きている。会えないはずがないんだ。だから、行ってきます。

 僕は皆に最後にこう言った。星夜と同じ言葉を。

 僕はいつの日か必ず帰ってくる。ここは僕の故郷で、僕と星夜がであった大切な場所だから。

「大丈夫、きっとまた会える。いつか、星の海で」


 

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