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傘の中

作者: 夢路雪乃

雨が降り続く中、君はずっと待っていた。

かれこれ一時間以上は待っているだろう。

電話をしていたが、それはおそらく家に電話。

「傘持ってきてよ」

と言っていたからだ。


しかし、一時間以上経った今も届かない。


君の電話が鳴る。

「え、持ってこれないの?」


どうやら持ってこれないらしい。

雨は激しさを増していく。

彼女はきっと帰れないのに、無理にでも帰るつもりだろう。


仕方がない。



「はい」

傘を差し出す。

「え?」

彼女は慌てる。

「傘が必要なんだよね?」

「必要だけど…」

これは貴方が使うんじゃないの?みたいな目で見てくる。


「良いから、どうせ僕は此処から近いから」

しかもその傘は安物だから無くなってもいいし。

と伝える。

「貴方なら高い傘でも渡すんでしょう」

と言われた。

多分そうだろうけどね?


「有り難く頂くわ」

また会えたら、と言い残して彼女は帰っていった。



後日僕は街をぶらついていた。

するといきなり肩を叩かれる。

「やっと見つけた」

彼女だった。

「あの日貸してくれたおかげで無事に帰ることができたわ、ありがとう」

傘はないから、また持ってくるわ

そういってメルアドを交換した。


それから一週間して彼女からのメール。

「あの時の場所に来て」

あ、傘を持ってきたんだ。


彼女は既に来ていて、コーヒーを飲んでいる。


「こんにちは」

「あっ、来た」

隣に座る。

「はい、傘」

「ん、別に良かったのに」

そういう訳にはいかないわと彼女は言った。

お礼に、とご飯に連れていってもらう。


夜、また雨が降ってきた。

「傘は?」

聞いてみると

「無いわ」


一旦僕の家に避難する。

「変なことしないでよ」

するわけがない。


「また傘を借りることになっちゃった」

貸したのは同じ傘。

「またメールして」

「ありがとう。おやすみ」おやすみ



それから何度も会った。

傘を貸さなくても。

僕達は付き合うことになった。




そうして1年。


「この日、覚えてる?」

「当たり前じゃない。傘を最初に借りた日よ」


あの時と同じく雨が降っている。

僕達は家に帰る途中だった。


彼女が雨で滑る。

後ろからクラクションが鳴る。

助けないと、そう思う前に体が勝手に動く。


が間に合わない。




赤いサイレン。

集中治療室の文字。



今はまだ暖かい君の手。

少しずつ消えていく。

「ねえ、今日も雨が降ってるよ」


また笑ってほしい。

少し怒った顔で僕をみてほしい。


「君が先に逝ってしまうなんて思いもしなかったよ」

あの時抱き止めていられたら。


「また次も君を好きになるよ」


たとえ、どんなに離れて居たって必ず探し出す。

そうして君をまた愛す。

必ず。


僕がそう言い終えたとき、彼女の時が止まった。



僕はただ一人で生きた、そうして君を想いながら逝った。












今日は快晴。

街に買い物にでも行こう。

僕はただぶらついていた。

何処かで見たような顔立ちを見つけた。

その瞬間僕は走り出す。


彼女の肩を叩き

「やっと見つけた」

「やっと見つけてくれた」

今回は晴れていて傘は無いけれど、傘の中の世界は残っていた。


傘が無くても出会えるならば、また次も君を好きになれるのかな。















読んでしまった、見付けてしまった貴方に。

まだ先を読みますか?

幸せはもう手に入れたでしょう?














彼女の誕生日プレゼントを買って、君の家へと早歩き。

「わっ」

雨で滑る。

後ろからクラクションが鳴る。

何処かで見たような光景。


車は急ブレーキをかけたが間に合わないだろう。

僕の意識はそこで途切れた。


目を覚ますと病院。

どうやら助かったらしい。

「馬鹿」

泣いている。

心配させてしまったね。

プレゼントは無事に残っていた。

咄嗟に守っていたらしい。




退院後、彼女の家に行く。

渡せなかったプレゼントを持って。



「はい」

プレゼントは長細い包み。

彼女は開けて笑う。

渡したのは傘。

黒い男物の傘。

それは思い出の傘。


丁度良い。

雨が降りだした。

「行こうか」

その傘を広げ、彼女を招き入れた。



傘の中の世界はまだ続く。

僕達が消えるときまで。












見付けてくれた、読んでくれた貴方に。


望んでいた展開とは違うかもしれないけれど、たまにはこんな話も良いんじゃない?


感想とかあればドシドシ送ってください

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― 新着の感想 ―
[一言] 途中で切ない展開になったけど、最後まで読んでホッとしました。読後感がさわやかでしたね。 それにしても、「え~、ここで終わるの~?」「まだ続きあるの~?」と、読んでいる途中、別の意味でハラハ…
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