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HUMAN NUMBER  作者: rikuru
第三章 喪失
7/13

意味

「おはよう」


朝の青馬さんの挨拶で、私は目が覚めた。

今日は、珍しくぐっすり寝れたな。

こんな状況で、よく寝られるなんて複雑な気持ちかな。

とにかく、良かった。


今日も、昨日と同じような日になるだろう。


そう思っていた。


だが――――――


これは、違う。


ある程度日常が類似した流れであったなら

今日もそれになぞっていれば「いつもの日」で通るはず。


だがこれは、明らかに違っていた。


肌でそう感じ取っていた。


室内の温度は高いはずなのに、身震いがした。


私は何故か昔から第6感だけは優れていて、比較的嫌な予感とか当たる事が多い。

交通事故みたいな身の回りで起こり得る出来事は直観的に肌で感じる。


勿論必ず予知できるわけではないけど・・・。


もしかして今日何か嫌な事でも起きるのだろうか。


「・・・瀬川さん、どうした?」


青馬さんが話しかけてきた。

少し私の様子が変だったのだろうか、窺ってきた。


「あ、いえ・・・何でもありません」


少し寒気がするが、余計な心配はさせたくなかったので言わなかった。

過酷な状況で考えすぎているだけかもしれないし。


少し、横になろうかな。


そう思い、その場で少し横になり、何も考えないように目を瞑った。


「――――――――」



そして午前11時過ぎ頃。


突然倉庫のドアが開けられた。


ゴオオン…と重くこじ開けられた音が妙に響く。


そこには、犯人が3人ほど立っていた。


「(―――あれ?)」


草刈は確か、3日置きだったら明日になるはずだけど。

犯人達の少し違った様子に、私は身構えた。


すると、犯人の一人が静かに口を開いた。



「26th come (26番、出ろ)」



私は一瞬、身が硬直した。


26・・・この腕輪の番号の事か。


私は、黙って青馬さんのほうを向いた。


「(・・・・・)」


青馬さんは何も言わずに、犯人の方をただ見ていた。


すると人質の一人が、顔をうつむけたまま立ち上がった。


その人質の付けている腕輪には、確かに「26」と数字が書かれてあった。


すると、人質は乱暴に倉庫から引きずり出され、犯人に連れられていった。


ゴォン・・・とドアが閉められる。


あたり一帯静寂に包まれていたお陰で、聴覚が敏感に働いていた。


少しの音でも分かる。



数分後。


音を聞かなければ良かったのかもしれない。


一瞬、私は生きている事すらも忘れた。


あまりにも、それは一瞬だった。



バァァァアン・・・・・・



轟音と共に、痛々しい声が聞こえてきた。



「うぁ・・・・・・」



かなり遠い距離のようだが、何故か非常に近い距離で音が聞こえたような、矛盾した感覚に陥った。


すると、ずりずり引きずるような、まるで数人で死体を運んでいるかのような音が聞こえてきた。



私は、恐怖と絶望のあまり強く目を瞑っていた。


気付けば耳も塞いでいた。


ふいに光景が頭の中で浮かんで、ぞっとした。


気分が悪くなってきた。


一体・・・どうなって・・・


意味が、分からない。


犯 人 に 番 号 を 呼 ば れ て 、 殺 さ れ た 。


この番号は、自分の名前のようなものなのか。


呼ばれた瞬間、殺されるのか。


何が原因で?それが犯人の娯楽?


絶望的な光景を叩きつけられ、私はまともな思考ができなくなっていた。


次は、私が殺されてもおかしくないのか―――。



――――気付けば、涙が流れていた。


どういう感情なのか表現できない。


何で、私達が殺されなきゃいけないんだ。


今更考えてもどうにもならない事なのに。



――――地獄だった。


生きているのに、死んでいるような心地。


そうだ。私達は、いつ殺されてもおかしくない状況なんだ。


一瞬だけ、それを忘れそうになっていた。


こんなに酷い状況を。


「――――川さん――――」


声が聞こえたような気がした。


だが到底答える余裕なんてなかった。


―――一体、ここで人が何人殺されるんだ。


次は、私が殺されるのだろうか。


青馬さんが殺されるのだろうか。


もう・・・・いやだ・・・・


私は、もう日本に帰れないのかな・・・・


気付けば、意識が薄れていった。


唯一、覚えていたのは。


26番の人質が、帰ってこない事だった――――。


――――――――


―――――


――――。




――――目が覚めた。


感覚はまだ夢の中にいるような感じだった。


何が私の現実なんだろう。


さっきのあれは、現実だったんだろうか。


さっきの――――


思い出したくない。

気分が悪くなる。


ふいに、声をかけられた。


「・・・・瀬川さん、大丈夫?」


青馬さんは、心配そうに私の顔を見てきた。


大丈夫なわけがなかった。

それより、何故青馬さんのほうが平気でいられるのかが分からなかった。


今度は、自分が番号を呼ばれて殺されるかもしれないというのに。


「あんまり、大丈夫じゃないです」


どうにか返事ができた。


それより、私は一つ気になっていた事があった。


「どうして、黙っていたんですか?」


もっと優しく訊きたかったけど、当たり前にそんな余裕はなかった。

このまま生かされても、いつか精神が壊れそうな気がする。


主語つけるの忘れたけど、青馬さんなら言わんとしてることが分かるだろう。


「―――黙っていたわけじゃない。切り出せなかったんだ」


番号の意味を―――。


分かっている。


青馬さんは私の事を気遣ってくれたのだろう。


でも、それが今の私には腑に落ちなかった。


些細な事なのに、どうしてこんなに感情的になっているのだろう。


自分にも分からなかった。


「・・・青馬さんは気を遣ってくれたつもりだろうけど、私は―――」


最悪で残虐な現実を見せ付けられ、結果的に番号の意味を知った。

理不尽かもしれない。

でも、私には、それが納得いかなかった。


こんな複雑な気持ちになった事は初めてだった。


「―――ごめん」


明らかに私が不愉快だと思ったのか、青馬さんは謝ってきた。

私は少し罪悪感を感じたが、今は自分の気持ちに整理がつきそうになかった。


今日はもう、寝よう。

眠くはないけど、こんな精神状態じゃ何もできない。


「ごめんなさい。今日はもう、寝ます―――」


そうして、私は眠りについた。



―――横になりながら、あれこれ考えが巡る。


私はいつ、殺されるんだろう。

青馬さんと楽しく話していたとき、一瞬だけそれを忘れた気がした。


でも、いざ人が目の前で殺されてしまうと、急に恐怖が間近に迫った。

私は、弱い人間なんだ。


誰かが殺されると、次はいつ自分が殺されるんだろうと不安になってしまう。


自分だけは頑張って生き延びようなんて到底前向きに考えられない。


弱い人間だ。


誰かに助けて欲しい。


誰か、助けて―――


心の中で、叫んだ。


由奈、父さん、母さん――――


青馬さん――――


私は、独り静かに泣いた。



―――――――――


――――――。

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