この屋敷は差し上げますわ
読んでいただきありがとうございます。
コツ。 コツ。 コツ。
杖の音が近づいてくる。
「アリッサ様、少しお休みになられてはいかがですか?」
「ありがとう、レイモンド様、一区切りついたから、夕食にしましょう。お父様達は、もうお食事を済ませたかしら?」
「ブラッド侯爵は、今日も体調がすぐれないと、お部屋に籠っておいでです、奥様はまだ書斎かと」
「もう。お父様ったら!ちゃんとご飯を食べなきゃ。様子を見てくるから、レイモンド様は、先にダイニングに行ってて、お母様のことをお願い」
「承知しました」
私は薄暗い廊下を進み、義理の父である、ブラッド侯爵の部屋を訪ねる。
コンコン。
「お父様、起きておいでですか?」
「ああ。アリッサ、お入り」
「失礼します。お父様、体調が悪いのですか?」
「ああ。動くと息が苦しくてね」
私は、お父様のベッドサイドにしゃがみ込み、痩せて骨ばった、大きな手を握る。
「お父様。元気になるためには、何か召し上がった方がいいですよ、食べやすいものを、お持ちしましょうか?」
「ああ、ありがとう。アリッサの顔を見たら、少し元気が出たよ、ダイニングで一緒に食べよう」
「はい」
私は、お父様を支えながら、ダイニングに向かう。
ブラッド侯爵家は、代々クオーツやアクアマリンが、採掘できる鉱山を、いくつも管理しており、一時期は巨万の富を有していたが、数年前に鉱山の一つで、大規模な崩落事故が起こり、多数の犠牲者が出てしまった。ブラッド侯爵家は、多額の補償金を支払うことになり、お父様は奔走する。
さらに崩落事故は、安全管理がなっていなかったからだと、一部の工員が裁判を起し、裁判費用も必要となった。
実際は、安全管理を怠っていたのではなく、鉱山の近くで起きた、小規模な地震が引き金となり、岩盤が落盤して、起こった事故だと判決が下され、侯爵家が勝訴したものの、一度立った悪い噂は、なかなか払拭することが出来ず……工員たちも減り、いくつかの鉱山を、手放すことになった。
度重なる心労で、お父様は体調を崩し、没落寸前となったブラッド侯爵家は、私の父であるスティール伯爵に助けを求める。
スティール伯爵家は、何代も続く大きな商会を管理しており、裕福な伯爵家だ。
もともと宝石の取引で、ブラッド侯爵家とはつながりがあり、格上からのお願いを、無下にもできないお父様は、私を嫁に出す事でブラッド侯爵家を助けることにした。
当時17歳だった私は、既に飛び級で学院を卒業しており、大好きな商業を学ぶため、お父様や叔父様から、教えを受けながら働いていて、自分の商会も持っていた。
結婚せずに、ずっと商会で働き続けたかった私は、猛反発したが、最後はお父様に泣き落とされた。
旦那様となるジェイコブ様は、5歳年上の22歳、数年前から続く、隣国との戦争にすでに出兵していて、顔も合わせず、式も挙げないまま、書類にサインしただけで、私はブラッド侯爵家に嫁入りした。
私が婚姻を結んだ日と同じ日に、レイモンド様もブラッド侯爵家にやって来た。私の仕事の補佐役と、ブラッド様に万が一の事が起きた時のスペアとして。
レイモンド様は、お父様の、実の弟であるクルーニー伯爵家の5男で、小さな頃に大きな怪我をして、右足が少し不自由なため、杖を突いている。
私のふたつ年上で、出兵を求められる年齢だが、足が悪いため王都に残っていた。
嫁いでからの一年間は、レイモンド様と、必死にブラッド侯爵家を立ち直らせるため、無我夢中で働いた。
元からある事業はもとより、新しい事業の検討開発も行い。
領地の鉱山に生息する薬草が、傷や打ち身で起こる痛みや、炎症を抑える効果があるとわかると、その薬草を積極的に栽培し、煎じ薬や貼り薬まで加工して販売を行った。
戦争が長引いていることもあり、薬は飛ぶように売れ、ブラッド侯爵家の財政は、持ち直すことが出来た。
考え事をしながら、ダイニングに着くと、ちょうどお母様とレイモンド様もやってきた。
「あら、あなた。体調は大丈夫なの?」
「ああ。アリッサが迎えに来てくれたおかげで、元気が出た。夕食を一緒に食べられそうだよ」
「まあまあ。私達は、アリッサに甘えてばかりね」
「お母様、そんなことありません、お二人の優しさと人脈のおかげで、このブラッド侯爵家は立ち直ることが出来たんです」
最後まで残ってくれた、工員や領地のみんなは、お父様とお母様を信じて力を貸してくれた。
「そうですよ、僕たちの新しい事業がうまくいったのも、お二人のおかげです。さあみんなで夕飯にしましょう」
レイモンド様が、お父様のために椅子を引く。
「今日はビーフシチューですよ」
お母さまが嬉しそうに笑う。
お父様が臥せる日が多く、侯爵家の内は、お母様が仕切っている。
本当に、凛とした強く優しい母だ。
そう………あの時も、お父様とレイモンド様と一緒に、私を助けてくれた。
✿ ✿ ✿
嫁いでから1年半ほどして、私は疲労のためか、流行病か、高熱を出して寝込んだ。
次の日、戦場からの一時帰還で、ジェイコブ様が、ブラッド侯爵家に戻られた。
戻ってくるなりジェイコブ様は大声を上げる。
「父上、母上、どうして私の結婚が、勝手に決まっているのです!私は知らない伯爵令嬢など認めませんよ!どうせ金をちらつかせて嫁いできた、不器量な女なんでしょう」
「何を言っている、アリッサのおかげて、このブラッド侯爵家は立ち直ったのだぞ!感謝こそすれ、アリッサを侮辱することは許さんぞ!」
「ジェイコブ!たいして戦果も挙げられないあなたが、何を言うのです。レイモンドとアリッサがどれだけ、戦場においても、救護班に尽力しているか! 貴方は、そんなことも知らないの?」
タウンハウスの玄関ホールで、大声でジェイコブ様と喧嘩する両親の元に、私は高熱のため重くなった体を引きずり、何とかたどり着く。
「ジェイコブ様、お初にお眼にかかります。私はあなたの妻となりました、アリッサと申します、スティール伯爵家より参りました」
カーテシーをしようとして、体制が崩れた私を、レイモンド様が支える。
「昨日より、体調を崩しており……出迎えが遅れまして、申し訳ありません」
顔を上げると、ジェイコブ様は、眼を大きき開き、相好を崩す。
「なんと、美しい……あー。アリッサ!私の妻よ」
両手を広げ、ジェイコブ様が近づいて来る…………怖い。
「ジェイコブ様、アリッサ様は、昨日より高熱が続いており、流行り病かもしれません。万が一ジェイコブ様に感染し、それを戦場に持ち込むことになっては、またブラッド侯爵家の評判が落ちてしまいます」
レイモンド様が、私とジェイコブ様の間に立ちはだかる。
「自分の妻に触れることの、何がいけない。お前には関係ない、どけ!」
レイモンド様は、ジェイコブ様に殴られて吹き飛ばされる、倒れた弾みで、大事な杖が折れてしまった。
「大丈夫ですか……レイモンド様」
私はふらふらする体で、何とかレイモンド様に駆け寄ろうとするが、思うように体が動かず、床に崩れ落ちる。
「ジェイコブ何をするの!」
「おい。暴力をふるうとは!」
お父様とお母様が、ジェイコブ様を止めようとするが、間に合わず。
ジェイコブ様は、私の腕を捕らえる。
「さあ、愛しの妻よ、せっかく帰還したのだ、子種を授けよう」
にやにやとジェイコブ様が笑う。
「ジェイコブ様…………役割は分かっておりますが……今日は体調が悪く」
ジェイコブ様を、押し返そうとするが、力が入らない。
「馬鹿息子、病人に何をしようとするの!」
お母さまの鉄扇が、ジェイコブ様の肩を打つ。
「痛い!母上何をするんだ、子供をもうけることは、侯爵家にとって大事なことだろう」
ジェイコブ様が手を離すと、私は床に転がった。
ぼんやりする視界の中で、ジェイコブ様は、お父様とお母様にバシバシと叩かれながら、がっしりした体格の庭師に引きずられていく。
「ああ。頭が痛い……」
レイモンド様の、心配そうな顔が見えたような気が…………ズキズキとした頭の痛みに、私は意識を手放した。
✿ ✿ ✿
それから、ジェイコブ様が、戦場に戻るまでの一週間、私の体調はなかなか良くならず、部屋の前にはレイモンド様と庭師、部屋の中は24時間、お父様とお母様が交代で私に付き添い、ジェイコブ様の接触を完璧に防いでくれた。
そしてジェイコブ様は、昨日の朝早く、ドアの前で「次に帰還する時は、必ず体調を整えておけ!わたったか、アリッサ!」と叫び、戦場に戻って行った…………。
「お母様、何日も寝込んでしまってすみません」
「いいのよ、アリッサは熱に苦しんで、大変だったけど、あの屑息子が帰って来た時に、体調が悪くて良かったわ。いつからあんなダメな子になったのかしら」
「でも、確かに私はブラッド侯爵家の嫁ですし、子を成すことも務めです」
お母さまは、私の手をそっと両手で包む。
「アリッサ、あなたは私の大事な娘よ、政略結婚だとは言え、会ったその日に子を成そうなど、人間失格よ、誠意のかけらも無いわ」
「お母様……」
私はお母様の手を強く握り返す…………本当は、ジェイコブ様に触れられるのが怖かった。
「ふふ。息子とはいえ、あんな屑に、アリッサは渡さないからね、ちゃんと親の務めとして、性根を叩きなおすからね、大丈夫よ」
「ありがとうございます」
お母様は、ポロポロと涙を流す、私を抱きしめる。
暖かくて、とてもいい匂いがした。
✿ ✿ ✿
夕食の後、もう一仕事するために執務室に戻ると、執事に呼び止められ、手紙を渡される。
手紙を裏返し、差出人を見ると…………ジェイコブ様からだった。
私は大きなため息をつく。
あの帰還以降、ラブレターなのか……卑猥な内容の手紙が、10日も開かずに届くようになり、手紙が届くたびに、もやもやして沈んだ気持ちになる。
「はぁ~読みたくない、こんな気持ちじゃ、どんなにお母様がジェイコブ様を、叩き直してくれても、無理かも………。」
私は、ゆるゆると椅子に座り、封筒を開ける。
同時に廊下がガヤガヤと、騒がしくなった。
ゴンゴンと大きな音で、ノックされたドアから、杖を突かずに、足を引きずりながらレイモンド様が駆け込んできた。
「アリッサ様!戦争が終わった!」
私は驚いて、勢いよく椅子から立ち上がる。
「隣国の国王が、病死した。次期国王となった第一王子殿下は、もともと侵略や戦争には反対で、これから和平交渉が始まると、緊急発表された」
「それでは、兵士達はみんな戻ってくるのね」
戦争の終わりに、多くの者がこの緊急発表で、安堵したであろう……。
私は憂鬱な気持ちで、手に持った便箋を広げた。
= 愛する、アリッサへ =
この手紙が届く頃には、戦争の終結が、アリッサの耳にも届いているかもしれない。
数日前、隣国の国王が重体となり、これを好機と見た王太子が、我が国に平和交渉の打診をしてきたと、軍の中でもっぱらの噂だ、これでアリッサの下に帰ることが出来る。
帰ったら、※◆▲〇※Ψ〇★▲〇※Ψ〇★〷◆▲Ψ▲〇※! 優しく、大切にするからね。
そして凄いサプライズがあるんだ、戦場で私を癒してくれた、カトリーナが妊娠した。
貴族では無いが、気の利くいい子だ、侯爵家に戻ったらアリッサの侍女にするといい、カトリーナも愛しているが、一番愛しているのはアリッサだからね、カトリーナの子供の方が先に生まれるが、アリッサとの間にできた子供が、ブラッド侯爵家の跡取りだ。
三人で仲良く暮らせる日が楽しみだな!
終戦が決れば、軍駐屯地の片付けをして、15日ほどで帰れると思う。
アリッサ!戻ったらすぐに、Ψ〇★▲〇※Ψ〇★〷◆※◆▲〇※★▲〇※Ψ〇★〷◆▲Ψ▲〇※ 楽しみだよ。
ジェイコブ・ブラッド
…………どうしよう。
手紙を持つ手が、フルフルと小刻みに震える。
レイモンド様が私から、手紙を奪い読み終えて、便箋を握りつぶして、テーブルにたたきつけた。
「…………。」
レイモンド様が、一度拳を握りしめてから、私の腕を掴んだ。
「アリッサ。僕と逃げよう」
レイモンド様の夜空みたいな瞳が、真っすぐに私を見ている。
「レイモンド様…………。」
「僕は足が不自由だけど、どんな仕事もこなして見せる。侯爵夫人ではなくなってしまうけれど、アリッサを絶対に幸せにする」
私は、レイモンド様の強く暖かな腕に包まれた。
「アリッサ、僕と一緒に逃げてくれ」
「あらあら、それなら私達も一緒に逃げましょうかね」
「そうだな、私達も一緒だ」
私とレイモンド様が、声の方に目を向けると、お父様とお母様が、ニコニコしながら立っていた。
お母様が、床に丸まって落ちている便箋を開く。
「…………。叩き直す価値もない屑ね!あなた。作戦 B よ」
「わかった、朝一番で貴族院に出向き、ジェイコブを廃嫡し、アリッサとの婚姻を白紙にする」
なんだかお父様の背筋が伸びて、いつもより元気。
「お父様、お母様!」
お母様が、ニッコリと微笑みながら近づいてきて、私を抱きしめたままの、レイモンド様の手を叩き落し、緩んだレイモンド様の腕から、素早く私を引きはがした。
「レイモンド!アリッサを、独り占めしようとしてもダメよ」
お父様が、ニコニコしながらレイモンド様の肩を抱く。
「レイモンド。作戦 B の続きはな! レイモンドとの養子縁組を正式なものとし、嫡男に指名する。 そして、二人が合意すれば、レイモンドとアリッサを婚約させる」
「どうかしら?私達の愛する息子と娘は、作戦 B に協力してくれる?」
お母様がかわいくウインクをする。
私とレイモンド様は、真っ赤な顔で大きく頷いた。
レイモンド様は、二人の前に跪く。
「ブラッド侯爵。奥様。…………こんな、足の悪い僕を…………受け入れてくれるのですか?」
「何を言うんだ、足など関係ない、お前の優秀さは十分に知っている」
「そうよ、レイモンド、次に奥様なんて読んだら、鉄扇よ!母上と呼びなさい!」
レイモンド様は、瞳にいっぱいの涙をためて、お父様とお母様を抱きしめた。
「父上、母上」
お母様が、レイモンド様の背中を、バンバンと叩く。
「さあみんな!忙しくなるわよ~。さらに作戦 B はね、このタウンハウスごと捨てるのよ!ジェイコブが戻ってくる場所に、いるなんて嫌でしょ、付きまとわれても厄介だしね」
お父様が、廊下で心配そうに様子を見守る、家令や侍女達に声をかける。
「明後日までには、すべての手続きを終える。一度領地に戻り体勢を立て直すぞ、タウンハウスはジェイコブにくれてやるが、家具はすべて運び出せ、明日には預かってくれる倉庫を見つけ出してくる、各自荷造りをするように」
レイモンド様が手を上げる。
「はい!父上、荷物を運ぶ先なら、僕に当てがあります。クルーニー伯爵家は、王都内の空いた土地や、建物を管理しています。伯爵に声を掛ければ、直ぐに準備できるかと」
「いいわね、新しいタウンハウスも、直ぐに見つけられるかもしれないわね」
「母上、実は広い土地があるのですが、タウンハウスは新しく建てるのはどうでしょう、僕がしっかり稼いで、いい邸宅を建てて見せます」
私は、レイモンド様の隣に並ぶ。
「お父様、お母様、私も頑張ります、素敵なお屋敷にしましょう」
「いいわね~。夢が広がるわ!」
そう言って、お母様がパチンと手を叩いた。
「さてさて、今日はもう時間も遅いから、みんなゆっくり休んで!明日は早くから荷づくりよ~」
「「「「はい!」」」
使用人も私達も、お母様の号令に、大きな声で返事をする。
レイモンド様の大きな手が、私の手をそっと握る。
「アリッサ。いろんなことが無事に済んだら、僕に時間をくれないか」
私は、レイモンド様を真っすぐ見て頷いた。
次の日から、事前に入念な準備をしていたのではないかと思うほど、書類の手続きも、荷づくりと搬送もスムーズに進み、あの手紙から4日後には、私達はみんなで、領地に向け出発することが出来た。
✿ ✿ ✿
あの手紙から15日後、旧ブラッド侯爵タウンハウス。
「ジェイコブ様?なんだかお屋敷が暗いですよ」
カトリーナが、ジェイコブの腕をぎゅっと握り、不安そうに見上げる。
「やあ、きっと私達を、歓迎するためのサプライズじゃないかな?」
「暗くしておいて、驚かすのですか?」
カトリーナが、ブラウンの髪をかき上げる。
「きっとそうだ」
ジェイコブは勢いよく、玄関の扉を開ける。
中はしんと静まり返り、誰も出てこない。
見回すと、廊下の奥にある、厨房だけわずかな光が漏れている。
「なんだアリッサ♪隠れているのか?」
二人が厨房に入ると、家令と大柄な庭師が待っていた。
「おかえりなさいませ、ジェイコブ様」
「おい。アリッサはどこにいる!」
家令はジェイコブの問いに、答えることなく、封筒から複数の書類を取り出して、二人に説明を始める。
「こちらは、ジェイコブ様の貴族籍が、抜かれた証明書。こちらがアリッサ様との婚姻白紙証明書。さらに、こちらのタウンハウスを、ジェイコブ様の名義に変えた証明書です。屋敷に関する国への税は、毎月15日が、期限となっておりますので、お忘れないように」
庭師が小さな巾着を差し出す。
「こちらは、アリッサ様からのお餞別です、貴族でなくなれば、金貨は使いにくいでしょうから、銀貨で準備してくださいました」
ぽかんと宙を見て、固まっているジェイコブの手に、庭師が袋を握らせる。
銀貨が入った袋が、ボトリと床に落ちた。
家令と庭師は、一礼して厨房を後にする。
「ちょっと、ジェイコブ様!侯爵家で贅沢な暮らしを、私にさせてくれるんじゃなかったの!ジェイコブ様!ジェイコブ様!」
カトリーナにユサユサと体を揺すられ、ジェイコブは漸く叫んだ。
「嘘だ!絶対にアリッサはどこかに隠れているんだ、探せ!」
二人は屋敷中を探したが、誰ひとり残っていなかった。
✿ ✿ ✿
「レイモンド…………奇麗な星空ね」
「アリッサ、寒くないかい?」
「うん。大丈夫よ」
私達家族は、二日かけてブラッド侯爵家の領地に戻ってきた。
領地を管理する、おじい様とおばあ様に挨拶して、暖かい夕食をいただいて。
今はテラスで、レイモンドとベンチに座り、星を眺めている。
………………………………。
隣に座る、レイモンドの手が少しだけ触れた。
触れた部分が熱い。
急にレイモンドが、私の肩を掴み、体の向きを変える。
見上げると、月の光がレイモンドの瞳に差し込んで揺れた。
「アリッサ!」
「はい!」
「あの日は、とにかくアリッサを守りたくて、逃げようなんて言ってごめん」
「なんで謝るの?私、レイモンドがそう言ってくれて、うれしかったわ」
私は、レイモンドの手を肩から外して、そっと両手で包む。
「僕は、アリッサと出会い、その前向きで明るく、優しいくあたたかな人柄に魅かれた。そして、昔の怪我を引きずり、言い訳にして、いろいろ諦め、手放してきた僕の今までの人生を捨てた、一緒に頑張ることを決めたんだ」
「うん」
「だから、僕と共に歩いてくれないか、もう逃げるなんて言わない。ブラッド侯爵家の、父と母とこの領地を、共に支えて欲しい」
「もちろん、人生を共に歩くのは、レイモンドしかいない」
私は、レイモンドの胸に飛び込んだ。
レイモンドは、私をぎゅうと、力ずよく抱きしめてから立ち上がる。
「さあ、あそこに隠れて覗いてる二人に、報告に行こう」
「もー気づいていたの、レイモンド!隙のない子ね」
植木の陰から、お父様とお母様が出てきて、私達を抱きしめる。
あたたかくて大切な、私の新しい家族だ。
~ 終わり ~
(*'ω'*)
語彙脱字などいつもありがとうございます。




