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54歳イチロー、メジャーリーグ復帰

2028年。独自のトレーニングメニューで肉体改造を果たした54歳のイチローがMLB復帰を果たす。

ヤンキースタジアムの地下通路に、小気味よい金属音が響いていた。「カツ、カツ、カツ」スパイクがコンクリートを叩く音ではない。54歳になったイチローが、特注の木製バットで自身の太ももやふくらはぎをリズミカルに叩き、筋肉の「声」を聴いている音だ。2028年3月。ピンストライプの背番号「31」が、ニューヨークに帰ってきた。メディアはこれを「無謀な客寄せパンダ」と叩き、GMのブライアン・キャッシュマンは「1年間のマイナー契約、結果が出なければ即解雇」という冷徹な条件を突きつけた。しかし、イチローの表情には微塵の動揺もなかった。彼には確信があった。この3年間、人知れず取り組んできた「肉体改造」の成果に対する絶対的な確信が。引退後、イチローは従来の「初動負荷理論」をさらに深化させ、医療工学チームと共同で独自の「細胞活性化プログラム」を開発していた。ターゲットは、加齢によって衰えるミトコンドリアの生命力そのものだった。毎日、超微弱電流を筋肉組織に流しながら、ミリ単位で軌道を制御する特製のマシンで神経伝達速度を極限まで引き上げる。さらに、遺伝子レベルで最適な栄養素を割り出す食事管理により、50代の肉体から「老廃物質」を完全に排除した。体脂肪率は驚異の3.8%。筋繊維の柔軟性は20代前半のそれを遥かに凌駕していた。

「イチ、本当にやるのか?」オープン戦の前日、かつての戦友であり、現在はチームの首脳陣にいる松井秀喜がロッカーを訪ねてきた。その目は心配に満ちていた。現代のメジャーは、平均球速160キロの動く魔球が飛び交う、20年前とは異次元の怪物リーグだ。イチローは細い目をさらに細め、不敵に笑った。「ゴジラ、人間の細胞はね、諦めなければ応えてくれるんだよ」

開幕戦。相手は前年のサイ・ヤング賞右腕、101マイル(約162.5キロ)の剛腕を誇るブルースだった。9回裏、2対3。2死二塁。一打同点の場面で、監督は代打を告げた。「イチロー」。ヤンキースタジアムを埋め尽くした4万人の観衆から、地鳴りのような歓声と、半分は「まさか」という悲鳴が上がった。打席に入ったイチローは、いつもと変わらないルーティンを披露する。右手でバットを立て、左手で右肩の袖を引く。その一連の動作の滑らかさに、目の肥えたニューヨークのファンは息をのんだ。54歳の動きではない。まるで精密機械だ。マウンドのブルースが嘲笑うかのように、初球、インハイへ102マイルのカットボールを投げ込んだ。全盛期のイチローなら、バットを引いてボールにする球。しかし、細胞が活性化し、動体視力と神経伝達が完全にシンクロした今のイチローには、その豪速球がスローモーションに見えていた。「パシィィィン!」乾いた金属質に近い打球音が響く。イチローの手首が、全盛期以上のヘッドスピードで返った。バットの芯で捉えられた白球は、ライト線へと鋭くライナーで伸びていく。「ライト下がった!追いつけない!フェンス直撃だ!」打った瞬間、イチローはすでに一塁を駆け抜けていた。驚異的な細胞のバネが生み出す加速力。二塁を蹴った時点で、彼のスピードは衰えるどころかさらに増していく。ライトからの返球がセカンドへ送られる。しかし、イチローはスピードを緩めない。三塁へ向けて、滑らかなスライディングを敢行した。「セーフ!!!」三塁塁審の両手が広がる。同点のタイムリー三塁打。スタジアムは狂乱の坩堝と化した。ニューヨーカーたちが総立ちになり、かつてのレジェンド、いや、現在進行形の「怪物」に拍手を送り続ける。三塁ベース上で立ち上がり、ユニフォームの砂を払ったイチローは、ヘルメットを少し浮かせて大歓声に応えた。その顔には、1ミリの驕りもない。「メジャーの皆さん、お待たせしました」54歳のルーキーによる、前人未到の2028年シーズンが、今始まったばかりだった。

前代未聞の54歳メジャーリーガーが若手相手にどこまで通用するのか、その答えはいつものようにイチローだけが知っている。

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