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勇者の様子がおかしい  作者: しばたろう


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最終話

 私たちは、動かなくなった魔王をその場に残し、玉座の間を後にした。


 魔王の死により、魔族の統率は致命的に失われた。

 もはや、組織だった侵攻を行う力はないだろう。


 もっとも――

 城の中には、なおも残党が数多く残っている。


 無用な戦闘に巻き込まれる前に、

 私たちは、速やかに来た道を引き返すことにした。


 もっとも、

 魔王を討ち取った勇者に、正面から挑みかかってくる魔族は、

 もはや、ひとりとしていなかったが。


 私たちは、

 眠りの森を抜け、

 要塞都市グラントフォルスを経由し、

 沈黙の渓谷を越え、

 嘆きの洞窟をくぐり――

 王都への凱旋を果たした。


 王都では、数え切れぬほどの国民が、私たちを出迎えた。


 街は歓声に満ち、

 まるで、終わることのない祭りのようだった。


 人々の熱気と祝福の声に包まれながら、

 私たちは、国王の待つ王宮へと進む。


 謁見の間では、

 国王が、私たち一人ひとりの手を取り、

 深い感謝の言葉を述べてくださった。


 私は恐縮し、

 ブラムは胸を張り、

 サミュエルは誇らしげに微笑み、

 エリオは――完全に固まっていた。


 その後ろで、

 アレイシア王女が、静かにほほ笑んでいる。


 ふと、私と目が合う。

 王女は、何も言わず、ただ小さくうなづいた。



 凱旋後、しばらくの間、

 私たちは、文字通り、休む暇もなかった。


 凱旋パレード。

 王族や貴族との晩餐会。

 演説に、記念肖像画の制作。


 英雄として扱われる日々が、続いた。


 最初は誇らしかった。

 だが、次第に疲れが溜まり、

 正直、もう勘弁してほしいと思い始めた頃――

 ようやく、私たちは解放された。


 その後、

 私たちのもとには、数え切れぬほどの誘いが舞い込んだ。


 騎士団長。

 王の近衛兵長。

 大司祭。

 由緒ある学校の校長や、町長の地位まで。


 そして、それ以上に多かったのが――

 縁談だった。


 王族や貴族、地方豪族、大富豪。

 その娘たちとの話が、次から次へと持ち込まれる。


 私は、もちろん、すべて断った。


サミュエルはしたり顔で、

「まあ、マルクには、すでに花嫁候補がいるからな。しかも、数人」


エリオが乗っかる。

「で、結局、誰にするんだ?

 王女か、司祭か、師団長か、それとも――村娘?」


 私は「そういうんじゃない」と否定したが、

 二人はまったく信じていない様子だった。


「……そういうお前たちは、どうするんだ?」


 私は無理やり話題を変える。


 サミュエルは、楽しそうに腕を組んだ。


「そうだな。

 折角の機会だ。良縁があれば、ありがたく乗っかるつもりだ。

 まずは、お見合い巡りの旅だな」


 実に、前向きである。


 偉い人が苦手なエリオは、肩をすくめた。

 

「俺は、縛られるのは嫌だね。

 自由な恋愛がしたいしさ」


 彼は、きっと、これからも風のように生きていくのだろう。


ブラムが、さらっと、答えた。

「俺も、縁談はすべて断った」


「……なぜだ?」

 私は聞き返した。


 ブラムは、私をまっすぐ見返し、短く答えた。

「思いを伝えたい人がいる」


「それは初耳だぞ!」

「誰だよ!? 俺たちの知ってる子か?」

 サミュエルとエリオが騒ぎ立てる。


 だが、ブラムは首を振る。

 

「秘密だ」


 それ以上は、何も語らなかった。


 私は思わず、口にしていた。


「……お前は、良い奴だ。

 その人にも、きっと思いは伝わるだろう」


 本心だった。


 この、大きな体で、

 いつも人を気遣い、陰で支えてくれる男。


 彼に想われる女性は、

 なんて幸せ者なのだろう。


 そう思った瞬間、

 なぜか、胸の奥が、ちくりと痛んだ。



 やがて、

 私たち勇者パーティにも、別れの時が訪れた。


 ブラム。

 サミュエル。

 エリオ。

 そして、私。


 これからは、それぞれが、それぞれの道を歩む。


 最後まで、

 女であることを隠し通すことができた。


 正体は、このまま明かさないことにした。

 いつか、時が来れば――

 自然と話す日も、来るかもしれない。


 王都はずれの平原。

 十字路。


 夕日が私たちの横顔を照らす。

 

 ここで、私たちは別々の道へと進む。


 サミュエルは、晴れやかな声で別れを告げた。

「それでは、さらばだ」


 エリオも笑顔を浮かべ。

「また、会おう」


 ブラムが答える。

「……いい旅だったな」


 それぞれが手を振り、

 それぞれの道へ歩き出す。


 私も手を振り、静かに告げた。

「本当に、ありがとう」


 そして、私も歩き出した。


 ――これから、どうしようか。


 勇者マルクとしての役割は、終わった。


 だが、これからは、

 一人の女性、

 マリア・フォン・リヒトシュタインとして、

 やるべきことがあるような気がしている。


 それを、見つけたい。


 まずは、

 旅の途中で出会った友人たちに会いに行こう。


 再会を思い描きながら、

 同時に、これまでの旅の日々を思い返す。


 苦楽を共にした仲間たち。


 彼らと出会えたことを、

 一生、忘れることはないだろう。


 サミュエル。

 冷静で聡明な賢者。


 エリオ。

 いつも場を和ませてくれた、陽気なレンジャー。


 そして――

 ブラム。


 常に私を気遣い、

 陰で支え続けてくれた戦士。


 おそらく、

 私の正体に気づいていた、

 ただ一人の男。


 ふと、

 寂しさが胸を満たす。

 涙が、こぼれそうになる。


 そのとき――


 背後から、声がした。


「おーい」


 振り返る。


 ブラムだった。

 夕日を背に、こちらへ向かって、走ってくる。


「?」


 私は涙を拭い、

 できるだけ明るく言った。

 

「どうした?」


 ブラムは、息を整えると、

 私をまっすぐ見つめ、

 静かに言った。


 勇者マルク――

 君の、本当の名前を、教えてくれないか。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


勇者マルクの旅は、魔王討伐という形で一つの終わりを迎えました。

けれど――彼女の人生は、ここからが本当の始まりなのかもしれません。


「勇者」という役割を背負いながら、

女であることを隠し続けたマルク。

支えた仲間たち。

それぞれの想い。


この物語は、強さの話であると同時に、

“役割”と“自分自身”の物語でもありました。


誰かの期待に応えること。

本当の自分でいること。

その両立は、決して簡単ではありません。


それでも、支えてくれる誰かがいるなら、

人は前へ進める。


そんな物語を書きたいと思い、ここまで走ってきました。


ブラムのあの一言の先は、

皆さまの心の中に、そっと預けたいと思います。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


またどこかで、彼らに再会できる日を願って。

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