冷静であるという病
初投稿。ふわっとした世界観の趣味を詰め込んだ短編です。
王都騎士団に所属している、レオナード・グレイは「氷の騎士」と呼ばれている。
表情が変わらない。
声が低く落ち着いている。
無駄な私語を一切しない。
模範的で、優秀で、生真面目でーーそして堅物。
そんな彼には、婚約者がいる。
名は、アデリア・ルークス。
伯爵令嬢にして、社交界の「冷たい白薔薇」。
涼やかな銀髪と、感情を滲ませない微笑を持つ、美貌の令嬢だ。
誰もが口をそろえて言う。
「お似合いだ」
「知的で落ち着いた、大人の婚約者同士だ」
───だが、それは表向きの話である。
*
(…今日も、可愛い)
騎士団内の面会室で待つアデリアを見つけた瞬間、レオナードの内心は崩壊していた。
(歩き方が上品すぎる。ドレスの裾の揺れ方すら愛おしい。え、なにその髪のきらめき。天使?)
だが彼は、顔色一つ変えずに言う。
「……お疲れさまです。アデリア嬢、なにかご用件でしょうか」
自分でも驚くほど平常運転だった。
対するアデリアもまた───
(レオ様……今日も背筋が美しい……肩幅……尊い……。
え、制服相変わらず、似合いすぎてない?額にかかる鋼色の髪一筋すら愛おしい。
私、今すぐ抱きしめていい???)
しかし、彼女の口から出たのは、内心を全く感じさせない淡々とした一言。
「レオナード様。本日は差し入れをお届けに参りました」
二人の間に、完璧な"冷静"が成立する。
*
「お弁当、です」
そう言って差し出された包みを受け取るとき、レオナードは心の中でガッツポーズをしていた。
(お弁当……彼女の……お弁当…………つまり、いやまさか、彼女の手料理?ああ……結婚……いや、まだ婚約中だった)
「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」
(ありがたく頂戴どころじゃない。今すぐ抱きしめたい)
内心大騒ぎのレオナードだが、それを悟らせることのない、冷静な表情である。
一方、アデリアも内心は大騒ぎである。
(受け取るときの手が丁寧……指長い……私の人生、この指に支えられたい……)
だがアデリアの表情は、いつも通りの涼しげな微笑。
「……お口に合うと良いのですが」
完全に仲睦まじい"理想の婚約者同士"である。見た目は。
*
別れ際、アデリアは一瞬だけ立ち止まった。
(今だ。今こそ言うべきよ、アデリア。"今日はお会いできて嬉しかったです"って……!)
しかし、実際に口からでたのは。
「では。レオナード様、お仕事、頑張ってくださいませ」
(あぁ!違う!そうじゃない!!)
そして、レオナードもまた、心の中で叫んでいた。
「ありがとうございます。アデリア嬢も道中お気をつけて」
(違う!なんで俺は気のきいた一言すらいえないんだ!)
二人は面会室を出て、それぞれ背中を向けて歩き出す。
だが、五歩ほど進んでから、同時に立ち止まった。
そして、同時に振り返った。
「……あの」
「……あの」
目が合う。
一瞬の沈黙。
二人とも、内心は叫んでいる。
(レオ様に好きです、って言うのよ!!今!!)
(今すぐ、君を抱きしめたいって言え!!)
───そして。
「……お体にお気をつけて」
「……お体にお気をつけて」
完璧なハモリ。
そして、再び背中を向ける二人。
王都で最も冷静で、
王都で最も、両想いな婚約者たちは、
今日も互いの背中を見送りながら。
(あぁ……好き。彼が好き……本当に好き……)
(結婚したら、彼女と毎日一緒……最高……)
心の中だけで、恋を叫び続けている。




