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冷静であるという病

作者: 鈴木おもち

初投稿。ふわっとした世界観の趣味を詰め込んだ短編です。

王都騎士団に所属している、レオナード・グレイは「氷の騎士」と呼ばれている。


表情が変わらない。

声が低く落ち着いている。

無駄な私語を一切しない。


模範的で、優秀で、生真面目でーーそして堅物。


そんな彼には、婚約者がいる。


名は、アデリア・ルークス。


伯爵令嬢にして、社交界の「冷たい白薔薇」。

涼やかな銀髪と、感情を滲ませない微笑を持つ、美貌の令嬢だ。


誰もが口をそろえて言う。


「お似合いだ」

「知的で落ち着いた、大人の婚約者同士だ」


───だが、それは表向きの話である。





(…今日も、可愛い)


騎士団内の面会室で待つアデリアを見つけた瞬間、レオナードの内心は崩壊していた。


(歩き方が上品すぎる。ドレスの裾の揺れ方すら愛おしい。え、なにその髪のきらめき。天使?)


だが彼は、顔色一つ変えずに言う。


「……お疲れさまです。アデリア嬢、なにかご用件でしょうか」


自分でも驚くほど平常運転だった。


対するアデリアもまた───


(レオ様……今日も背筋が美しい……肩幅……尊い……。

え、制服相変わらず、似合いすぎてない?額にかかる鋼色の髪一筋すら愛おしい。

私、今すぐ抱きしめていい???)


しかし、彼女の口から出たのは、内心を全く感じさせない淡々とした一言。


「レオナード様。本日は差し入れをお届けに参りました」


二人の間に、完璧な"冷静"が成立する。





「お弁当、です」


そう言って差し出された包みを受け取るとき、レオナードは心の中でガッツポーズをしていた。


(お弁当……彼女の……お弁当…………つまり、いやまさか、彼女の手料理?ああ……結婚……いや、まだ婚約中だった)


「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」


(ありがたく頂戴どころじゃない。今すぐ抱きしめたい)


内心大騒ぎのレオナードだが、それを悟らせることのない、冷静な表情である。

一方、アデリアも内心は大騒ぎである。


(受け取るときの手が丁寧……指長い……私の人生、この指に支えられたい……)


だがアデリアの表情は、いつも通りの涼しげな微笑。


「……お口に合うと良いのですが」


完全に仲睦まじい"理想の婚約者同士"である。見た目は。





別れ際、アデリアは一瞬だけ立ち止まった。


(今だ。今こそ言うべきよ、アデリア。"今日はお会いできて嬉しかったです"って……!)


しかし、実際に口からでたのは。


「では。レオナード様、お仕事、頑張ってくださいませ」


(あぁ!違う!そうじゃない!!)


そして、レオナードもまた、心の中で叫んでいた。


「ありがとうございます。アデリア嬢も道中お気をつけて」


(違う!なんで俺は気のきいた一言すらいえないんだ!)


二人は面会室を出て、それぞれ背中を向けて歩き出す。


だが、五歩ほど進んでから、同時に立ち止まった。

そして、同時に振り返った。


「……あの」

「……あの」


目が合う。


一瞬の沈黙。


二人とも、内心は叫んでいる。


(レオ様に好きです、って言うのよ!!今!!)


(今すぐ、君を抱きしめたいって言え!!)


───そして。


「……お体にお気をつけて」

「……お体にお気をつけて」


完璧なハモリ。


そして、再び背中を向ける二人。


王都で最も冷静で、

王都で最も、両想いな婚約者たちは、

今日も互いの背中を見送りながら。


(あぁ……好き。彼が好き……本当に好き……)


(結婚したら、彼女と毎日一緒……最高……)


心の中だけで、恋を叫び続けている。



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