2の1 黄泉の国から来た人々 熊
俺は此処に転生してきた。
黄泉の国にいたはずだが、特別に早めに生き返す事が出来たのだ。
俺の身体は、此処の世界の動物に入っているが、自我はハッキリあるから、自由はあるはずだ。
俺の他にも沢山の獣が自我を持っている。皆黄泉から来た同類だ。
黄泉と言っても、地獄とは違う。悪いことをしたから入れられ訳ではない。現世に生まれ変わる間浄化するための場所だ。だがこの世界では魂が急遽必要になったので、浄化が完成していない俺のようなものが多い。殆どの奴らは浄化間近のもの達だから、前世のことは覚えていないだろう。
偶に、自分が動物になって仕舞って、嘆いている者もいることはいるが、それでも暫くすると、馴れていくようだ。
この世界はやけに小さいような気がする。
島が大きいのが1つと、海に小さいのがいくつか散らばっているだけだ。だが、豊かだ。
俺の身体は、熊に似ている。だから、熊で良いだろう。詳しい名前は俺は知らない。此処に人間が生れたら俺等に名前を付けるだろうから、其れまでは熊だ。
今のところ、人間に近いのは猿くらいだが、彼奴らには未だ無理だろう。
この世界の熊は、火を吐くことが出来た。だから俺は口から火を吐き、獲物を捕らえる。此処も弱肉強食
の世界だ。だがこの世界では、黄泉に行かず直ぐに生まれ変わる。だから死は怖くない。
次は俺が捕まって食べられるだろうが、其れは魂が巡っているので、誰も恨んだりせずに明日は自分の役だとばかりに前向きに捕らえているようだ。
以前の記憶が其の儘次ぎの生に生かされるので皆の成長が早い。
此処は急激に変わっていく。
この世界に名前が付いた。
「龍神の国」
火山に住まう龍神。龍神は俺等に時々色々な力を与えてくれる。
初めにくれたのは、言葉だ。此処に居る皆は、意思はあったがめいめいの言葉で考えていたため、細かい事は通じなかった。精々が、「はい」か「いいえ」くらいだ。
言葉が皆に行き渡ると一気に互いの仲間意識がたかまった。
次に与えて貰った力は「魔法」だ。
此処には魔法の元となるマナが豊富にあった。
龍神によって、魔法の使い方も教わった。力が高いもの低いものと言う個人差はあったが、皆が使えるようになった。龍神は意思があるもの総てを、人間と定義した。
此処は、俺の記憶の中では経験したことがない、獣人達が住まう世界となった。
最後に龍神が与えてくれた物は、法律だ。
人として、生きて行くための戒律。「和をもって尊ぶべし」
俺等は、皆でその言葉を心に刻んだ。
しかし、龍神には不思議な特性があった。あれほど目立つ外観でありながら、滅多に存在を意識できなかったことだ。何時もそこにいるのは分っているのに全くいないように感じられる。
だから俺等は普段は龍神の事は意識しないで生活する。
龍神は今も人知れず俺等を見守っているのだろう。