6話 王国魔術省の人
遠い東の国には四季があるらしく、時期的に見れば今は灼熱のように暑いのだそうだ。他にも温かく花が綺麗に咲く季節や、赤やオレンジ、黄色の葉が美しい季節、凍える様な寒さの季節と、一年間全く退屈しなさそうな国だ。
それに比べ僕のいる国は雨季と乾季、温かいか寒いかと、とてもシンプルで面白みがない。そして今は僕が一番嫌いな雨季だ。
雨季はその名の通り一日の殆どが雨で、外に出ても日は浴びれず濡れるわ、本もふやけたりカビたりで大変だわで、いいことが一つもない。
魔法の研究も、雨は爆発に関係無いとは言え、湿気てしまいそうで気分的に良くないのだ。爆裂魔法完成から二ヶ月くらい経って、もっと色々なことが出来るようになってきたというのに、ため息が絶えない。
「フラム―! まだ寝てるの?」
相変わらずエリカは元気だなあ。僕はこんなにも鬱々としているのに。彼女には雨季とか乾季とか関係無いのだろうか。
「お客さん? が来てるよー! なんか王都から来た人みたいだけど、フラム何かやったの?」
ドア越しにエリカが失礼なことを言ってくる。別に何もしてないよ。というかいつも一緒にいるんだから、やましいことは何もないって分かってるだろうに、いじわるだ。
「わ、わかった。今行きまーす!」
何も身支度してないけれども、まあいいか。僕は別途から起き上がり、自室のドアを開けた。
目の前には、思ったよりも近くにエリカが立っており、危うくぶつかりそうになる。
「うわっ」
エリカも驚いたようで声を漏らした。
「ごめん。思ったよりも近かったから」
「えっと、こっちこそごめ……」
顔を赤くしてたじろいでいたのに、エリカはすぐに繭を潜め、半目で呆れた様に僕の頭や体を見てきた。
「まさかそのまま行くんじゃないでしょうね。お客さんは国の偉い人みたいよ? 身なりも綺麗だったし。流石に着替えて髪をとくぐらいしなさいよ。時間もないし、今日は髪やってあげるから」
「そこまで言うなら、そうしようかな」
僕はエリカに身支度を手伝って貰って、身なりを整えてからそのお客さんに会いに行った。
お客さんはエリカの家のリビングにいた。二人組のおじさんだ。確かにエリカの言うとおり、何やら高そうな服を着ている。雨が降ってるのによくそんな格好出来るなあ。
「こんにちは。フラム・フォイエルバッハさん、ですね?」
片方の、黒髭のおじさんが僕の目を見ていった。僕の名前を知っているのか。別に会ったこと無いと思うけど。
「私は王国魔術省のハンス・ミュラーと申します。そしてこちらはクラウス・シュミット」
ハンス・ミュラーと名乗ったひげのおじさんは、隣の金髪の髪の毛が結構後退してしまっているおじさんを指差した。そっちがクラウス・シュミットさんか。
「ど、どうも。それで、王国魔術省? の方々が僕に何のようで」
「そうですね。しかし急に本題というのもなんですし、世間話から。フラムさん。二ヶ月ほど前、この村近くの丘で大規模な爆発があったことはご存じですか?」
世間話といいながらいきなりの本題で、僕は思わずむせてしまった。アレ、何かまずいことになったのだろうか。
「そ、それがなにか?」
「やはり知っているのですね。実は目撃情報がありまして。丘には男女二人組の姿もあったとか」
今度は、付いてきてくれていたエリカもむせだした。エリカも巻き込まれるのはまずいぞ。
「それで……ああいや、別にあなた方を悪く言うつもりはありません。被害者などもおりませんし。で、話に戻りますが、あの爆発、どうやら魔法のようでして。しかし炸裂魔法では情報のような威力は出ないはず。そこで、近くにいたというあなた方について色々調べたのです。何か手がかりがありそうでしたので」
い、いつの間に調べたんだろ。確かにここ二ヶ月、やけにちょくちょくよそから流浪人みたいなお客さんがくるなあとは思ってたんだけども。もしかしてそれかな?
「で、ここから本題です。フラムさん、あなた、あの爆発を起こした張本人ですよね?」
ぼうっと考えてた所に直球の問いかけ。僕は思わず「えっ、はい」と間抜けな返事をしてしまった。こういうのって、すぐ「はい」とか言っちゃ行けない奴だったかな。
「やはりそうでしたか。それではあなた、爆裂魔法を成し遂げたと?」
「え、ええ」
もう「はい」って言っちゃったので、これも肯定するしかない。
「それは素晴らしい! 世紀の大発明をこのような少年が成し遂げるとは!」
「え、そうですか?」
え、褒められた。なんなら始めて爆裂魔法を褒められたよ。浮かれる僕の頭をエリカが軽く叩く。でも褒めてくれたし、このフワフワ感は止まらない。
「ええ! それで、その爆裂魔法を見せていただきたい。そしてもし爆裂魔法が本当なのであれば、是非王都に来て研究していただきたいのです!」
「…………え?」
突然の夢の一つの成就に、不滅を誇った浮かれフワフワ感が一瞬で引いた。




