5話 気持ち
やっとだ、やっとありつけた。
3時間の労働の果て、遂にサンドイッチにありつけたのだ。
久しぶりの運動で、もう足が棒のようだ。腕も痛いし手の平もヒリヒリする。大まかに言えば全身痛い。
「お疲れ様」
エリカが水の入ったコップを差し出す。
「フラム、少しは運動した方が良いわよ? 女の私より体力無いなんて異常よ」
僕はコップを受け取ってから、エリカの小言と一緒に水を一気飲みした。
「ははは。僕もそうしなきゃとは思ってるんだけど、研究したり本を読んだりしてたらどうしても時間を取れなくて」
「夜遅くまで起きて、朝遅くまで寝てるからよ。これからは早起きして運動しなさいよ。私も付き合うから」
「えっ」
早起きは嫌だな。でもエリカが運動に付き合ってくれるのなら、出来る気もする。うーん、どうしたものか。
「えっ、じゃない。明日朝起こしに行くからね」
どうやら悩む余地もないらしい。僕は頭を掻いて苦笑いして見せた。
「それよりさ、はやくサンドイッチ食べたいな。僕、それを楽しみにこんな重労働したんだから」
「まったく。それに別に今日のはそんな重労働じゃないわよ。…………ほら」
僕はエリカからサンドイッチを受け取った。野菜と肉が挟んであるような、よくあるサンドイッチなのだが、何故かとても美味しい。エリカのサンドイッチより美味しいサンドイッチに僕は出会ったことが無かった。因みに中の野菜と肉はこの村で取れたものらしい。
一口かじると、野菜のみずみずしさと肉のうまみが口の中に広がった。
「うん。やっぱりエリカの作るサンドイッチは美味しいや」
「そ、そう。それはよかった。まあ、今日のは結構頑張ったから、当然と言えば当然よね」
得意げに言うエリカの頬は少し紅潮していた。
エリカは自分の分のサンドイッチを手に取ると、僕から顔を隠して、黙って頬張った。何事かと思ったが、まあ別に人の顔を覗きながらご飯を食べるのが普通というわけでも無い。僕も前を見て、黙って二口目をかぶりついた。
エリカが口を開いたのは、僕が二個目のサンドイッチに手を出したときだった。
「……これからずっと、大人になっても、こうやって二人でサンドイッチを食べているといいな」
「えっ」
エリカはそっぽを向いたままだ。凄く言い辛そうに言っていたが、別に何の変哲も無い言葉だった。
そうだな。僕もこうして二人でサンドイッチを食べるのは好きだ。けど、
「うーん、僕は王都に行って研究してみたいんだよね」
エリカが反射したようなスピードで僕に顔を向ける。その表情は酷く悲しそうだった。
「…………」
絵里香の表情はやがて、今にも癇癪を起こしそうな子供のように、変わる。
「も、もうフラムなんか知ら――」
と、そこまで言いかけて、エリカの表情はまた忙しなく変わった。怒りで頭に血が上ったような赤みが消え、目を細めて、どこか哀れみの感情を感じさせる表情だ。
「い、いや、なんでもない。まあ、フラムだもんね」
なんだかガッカリされたみたいだ。何もしていないのにそういう態度を取られるのは、とても心外だ。
「な、なにさ」
「ま、いつか…………そうね、大人になるまでに気づいてくれればそれでいいわ」
「な、何か諦めたでしょ。なんだよ、何がだめだったの? エリカ?」
「知らなーい!」
エリカはべーっと舌を出して、ケラケラ笑い、走り出す。僕もサンドイッチ片手に、エリカを追った。
研究もしたいけど、こんな日常がずっと続くのも悪くないなと思うのはわがままだろうか。




