2話 朝
「ううん……」
懐かしい夢を見ていた気がする。いつのまにか寝ていたのか。
机に突っ伏している状態から、僕はゆっくりと上体を起こす。変な態勢で寝落ちしていたせいで体がバキバキだ。
机の上には、広げられた大量の参考資料と、自分の字でびっしり書かれた本。研究の途中で寝てしまったのだ。
「ううーっ」
節々や筋肉の痛みに耐えながら伸びをする。目の前の窓から日の光が差し込んでいるが、もう朝になったのか。
段々と寝落ちする前の記憶が戻ってきた。僕の研究が遂に完成したんだった。炸裂魔法の美しさを知ったあの日から、夢にまで見た。
「爆裂魔法……」
「フラム起きてるー? 朝ごはん食べるんだけど。あんまり遅くまで寝てちゃ駄目よ?」
突然の大きなノックの音に、僕はびっくりして完全に覚醒した。
「入るわよー。って、また机で寝てたんでしょ。だめよ、ちゃんとベッドで寝なきゃ」
ノックから間髪入れずに入ってきたエリカは、呆れたと言わんばかりの目を僕に向ける。この注意を受けるのは何回目だったかな。
昔から背も綺麗なオレンジブロンドの髪も伸びて、エリカは綺麗になった。あの頃の夢を見たから、より顕著に感じる。僕はドキドキとなる鼓動を、一回深呼吸して落ち着かせた。
「懐かしい夢を見てたよ」
「へー。どんな夢?」
「エリカと花火を見た時のこと」
「あ、あったね、そんなことも」
「綺麗だったのを覚えてるよ」
「……そ、そうね。でも、なんでそんな夢見たんだろ」
「そう、それなんだけど」
「う、うん」
「遂に僕の研究が完成したんだ。遂にだよ? 八歳の時から始めたはずだから、七年も掛かったんだなあ」
「え、ああ。そっちね」
僕の思った反応が返ってこない。エリカも喜んでくれると思ったんだけどな。
「それが炸裂魔法の上を作ることが出来て」
「はぁ。後で聞いてあげるから、朝ごはんにするよ。まったく」
僕の話を切って、エリカは先に行ってしまった。喜んでくれるどころか、残念がられて怒られたんだけど、よくわからないな。
「まあいいか。朝ごはん食べたら見せてあげよ」
どうでもいいくらいに、朝から嬉しい。爆裂魔法を作ることが出来たのだから、魔法使いの端くれとしても、炸裂魔法好きとしてもこの上ないくらい嬉しいことだ。
僕は鼻歌を歌いながら、朝ごはんを食べに行った。