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Lemurial Historia《レムリアル・ヒストリア》――時渡りの英雄と古の神獣  作者: 秀田ごんぞう
第二章 ―― マリーの特訓!~ Marie's special training ~ ――
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第十四話 合格祝い

「「合格おめでとぉーう!!」」



 無事にライセンスカードを発行してもらったアユムはアトリエに戻ってきて、マリーと合格祝いの打ち上げをしていた。テーブルの上にはささやかな甘味と炭酸ジュースのペットボトルが並んでいる。ちゃっかりルビー:カーバンクルもご相伴にあずかっていた。


 コップに入ったジュースを豪快に一飲みにしてから、マリーが言った。


「――ぷはぁ。ていうかノリで合格祝いしちゃったけど、そんなに祝うもんでもないじゃない。なに浮かれてるの、私?」


「えー、だってほら! こうしてライセンスカードきっちり貰ってきたんだから!」


 そう言ってアユムは満面の笑みでじゃん! とばかりにライセンスカードを手に取って見せた。

 カードはちょうど電車の定期券と同じくらいの大きさ。左側にアユムの顔写真がプリントされていて、推薦者の欄にマリーの本名、マリファ・ヴィオラートと記載されている。カードの右上には星印が一つ刻印されている。この星印は操獣士(テイマー)としての格を示すもので星1から星5つまででランク分けされている。試験に合格したばかりのアユムは星一つ、ノービスランクの操獣士というわけだ。


 操獣士ランクについては事前にしっかり勉強したからアユムも少しはわかっている。

 星1のノービスランクを始めとして、星が増えるごとに、ブロンズランク、シルバーランク、ゴールドランクと上がっていき、五つ星になると最高ランクであるマスターランクの証となる。星印は各地のクランマスターを倒したり、ユニオンのクエストを受けるなどして、操獣士としての実績を一定以上に上げることでユニオンから付与されるそうだ。ちなみにランクが上がるほどユニオンから受けられるサービスの質も向上するらしい。ノービスランクでもレムレスの魔力の回復や、各種アイテムの販売など最低限のサービスは保証されている。ランクが上がればより強力なアイテムが購入可能になったり、寝泊まりする部屋のグレードが上がるらしいのだ……その辺はアユムもよく知らない。

 と、話が脱線したが、ランク最低、ノービスの認定を受けるだけならそんなに難しくはないのだ。


「少し考えればわかると思うけど、ユニオンライセンスは街の外へ出るために必須なもの。つまり、君がそんなにエバれるほど凄いものではないわ。むしろ合格して当たり前。ノービスライセンスを自慢してたら、いい笑いものよ。ガキンチョ卒業くらいに思ってるくらいでちょうどいいわ」


「そ、そんなぁ……せっかく合格したのに……」


 露骨に落胆するアユムだが、マリーの言うことも最もなのだ。記憶がない彼にとっては、未知の知識ばかりだったが、筆記試験の内容も一般常識を問うものがほとんどだし、実技試験についても、試験者の力量を問うのが主目的であるため、仮に敗北しても試合内容が一定の水準に達していれば合格とされる。結果、不合格者がほとんどいないのが実態となっているのだ。

 とはいえ弟子の頑張りは認めないわけにいくまい。マリーは小さく咳払いしてつぶやいた。


「ま、実技試験の内容は結構良かったと思うけど……」


「だろぉ! マリーも見てただろ、影分身を絡めたコンボ攻撃!」


「調子に乗りすぎ。一応、街の外へ行けるようになったとはいえ、君の戦力と常識ははっきし言って、不安でしかないわ。クソザコナメクジと言われても言い返せないくらいよ」


「言い方、ひどすぎじゃね?」


「ま、そうだな。アユム、俺から見ても、オマエ弱すぎだぜ」


「な……カーぼうに言われる筋合いはないだろ!」


 カーぼうというのはルビー:カーバンクルの愛称である。名前が長いので、アユムは気づけばこう呼ぶようになっていた。ルビー:カーバンクルもまあ納得しているようだ。

 マリーもまた、カーぼうの発言を聞いて、重く口を開いた。


「……いいえ。カーバンクルくんの言う通りよ。アユムくん、君は弱い。まずはそれを自覚することね。強くなるにはそこからよ」


 不思議なまでの説得力を持ったマリーの言葉に、アユムもぐっと押し黙った。

 先の試合だって、ほとんどイトミクが頑張った結果だ。アユム自身は大したことはできていない。自分は弱い。その言葉がぐさりとアユムの胸に突き刺さった。


 そういえば……とアユムはライセンスを発行してもらった時に他にも何かもらったことを思い出す。ライセンスカードを入れるパスケースと一緒に、トランプ大のカードを5枚もらっていた。真っ黒なカードには絵柄も何も印字されていない。見たところそれ以外に特徴らしいものもないので、アユムも不思議に思っていた。


「マリー、そういえばこのカードも一緒にもらったんだけど、何コレ? なんかのキャンペーン?」


 するとマリーは深くため息をついてから、疲れた声音でつぶやいた。


「……試験で呪文札(スペルカード)のこと勉強しなかった?」


「呪文札って……えっ!? この地味なカードが!?」


 呪文札とは操獣士の公式戦で使われる道具の一つで、魔力を媒介に様々な事象を起こしてレムレスの戦いを補助することができ、使い方一つで戦況を一変させることもある、操獣士なら必須級のアイテム……らしい。アユムも試験の際に読んだ参考書からの知識があるだけで、実物を見たのは初めてなのでよくわからない。

 マリーはもう一度ため息をついた。


「やっぱりこのままフィールドワークに連れ出すわけにはいかないわね。表へ出なさいアユム君。スゴいハカセたるこの私が直々に呪文カードのいろはを叩きこんであげるわ」


「お、お手柔らかにお願いします……」


 かくして、マリーによる地獄の特訓(二回目)が唐突に始まった。

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