ヤンデレ件が言う”本当”の事
「……ちょいとそこの御方」
「えっ?」
ある日のバイト帰り、俺は何故か声を掛けられる。
声の方向へ顔を向けると、「占い」とデカデカと書かれた席に座りながら、こちらを見ている女性がいた。
「……えっと、俺ですか?」
「そう貴方。少し貴方の事を占って差し上げましょう」
「……いや、別に結構ですけど」
「まぁ、そう言わず是非是非」
……何か有無を言わさない勢いで席を俺の方へ引く。
「……あ、じゃ、じゃあ、お、お願いします」
「はい、それじゃあ、始めていきますね」
そう言い彼女は、ジーッと俺の顔を見つめてくる。
てっきり占いというのだから、手相などを見られると思っていたのだが……
少しして、結果が出たのか一度瞬きをして、俺に微笑んでくる。
「……ふむ、最近恋愛関係で悩んでいるようですね」
「……どうしてそれを?」
「見たら分かりますよ。私は占い師ですからね」
彼女はまた微笑む。
……確かに、最近彼女と喧嘩をしてしまって、仲が悪くなってしまったばかり。
だが、それをまさか初対面の人に言い当てられてしまうとは。
……まぁ、なら良い機会か。
どうすれば良いか聞いてみよう。
「……なら、これからどうすれば良いでしょうか。どうすれば彼女と仲直りできるでしょうか?」
「そうですね……仲直りすることは出来ないでしょう」
「……えっ?」
「私の占い的には貴方が彼女さんと仲直りすることは出来ません。何なら、そのまま別れてしまうと出ています」
「冗談ですよね?」
「冗談ではありません。私の占いではそう出ています」
そうキッパリ言う彼女。
「……中々失礼なことをおっしゃるんですね」
「それが占いの結果ですから」
「そうですか、でも所詮は占い、俺は信じないですよ」
「信じるかどうかはお任せします。ですが、私の占いは100%当たるという事だけは言っておきます」
そんな事を言い放つ彼女に対して、「チッ」と舌打ちしながら俺は財布を出す。
「あぁ、お代は結構です」
その言葉さえ、俺を苛立たせる。
何が占いだ。
仲直りできないだと?そのまま別れるだと?
無責任な事を言いやがる。
はぁ、まったく、時間を無駄にした……
そうだ、彼女が好きなスイーツでも買って帰ろう。
多分、少しは喜んでくれるだろう。
帰路に就きながら、俺はそう考えるのだった。
1か月後
結局俺は彼女と別れた。
喧嘩したまま、仲が悪くなったまま、良くなることは無くそのまま……
クッソ、結局あの占い通りの結果になってしまった。
はぁ、マジか……
あの時、あの占いを聞かなければ……
そんな事をグルグルと考えながら、バイト終わりの俺はトボトボと家へ向かう。
すると……いた。
前回と同じ場所にアイツがいた。
アイツも俺の事に気づいたようでニコッと微笑む。
「おや……またお会いしましたね。どうですか、私の占いは当たりましたか?」
「……あぁ、当たったよ。見事に当たったさ」
「そうですか、それは良かった」
そう言い、より一層笑みを深くする。
その様子に腹が立った俺は、アイツの胸ぐらをつかむ。
「お前、いい加減にしろよ。何が良かっただ、なんにも良くねえんだよ、こっちはよ!お前の占いなんて聞かなかったら――」
そこで言葉が止まる。
いや、止まざるを得なかった。
俺が胸ぐらをつかんだ勢いで、彼女のフードがとれる。
そして、そこで目を引いたのは綺麗な黒髪ではなく……
「……牛?」
そう、立派な牛の角だった。
「あぁ、バレてしまいましたか」
「……い、一体どういうことだ。そ、その牛の角、作り物か?」
「いえいえ、これは作り物なんかじゃありませんよ」
アイツは自分のその角を撫でながら、そう微笑む。
「作り物じゃない?じゃあ、なんだお前は人間じゃないとでもいうのか」
「えぇ、そうですよ。私は人間なんかじゃありません。私は件です」
「く、件?なんだソレ」
「おや、聞いたことがありませんか。件というのは妖怪でございます。妖怪と言っても別に何か悪さをする訳ではございません。ただ、言ったことが本当になるだけです」
「言ったことが本当に……ってことは、お前が別れると言ったから俺らは別れたっていう事か!」
「そうですよ。私が言ったことは本当になるのですからね」
「なっ……お前……」
俺は拳を握る力を強める。
こいつが言わなかったら、俺は彼女と……
「……何でこんなことをした」
「何でって……、勿論貴方の事が好きだからですよ。」
「……はっ?」
思ってのいなかった返答で固まってしまう。
……えっ?俺の事が好き、だと?
「貴方の事が好きだから、ただ邪魔な人を消したんです」
「……えっ?お前、何言って――」
「何って、ただ貴方の事が好きだからした事ですよ。これで貴方の周りの邪魔な人は消えました。後は貴方が私の事を好きになるだけ」
「……頭がおかしんじゃないか。そもそも、俺がお前の事を好きになるわけがないだろう!」
「……果たして本当にそうでしょうか」
「あん?」
「さっきも言いましたが、私は件ですよ。言ったことが本当になるんです」
「……それが一体どうした……ってお前まさか!?」
「フフフ、もうお分かりですね、私が次に何を言うか」
そう言いながら、さっきよりも一層笑みを深くする。
「貴方は私の事を好きになる」
皆さんこんにちわ 御厨カイトです。
今回は「ヤンデレ件が言う”本当”の事」を読んでいただきありがとうございます。
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